第30話 神と少女
「そなた、神はどうやって生まれたか知っておるか?」
おっぱいの神が急に変なことを言い出した。
「知らん。僕は宗教学者でも哲学者でもないし」
素っ気なく答えたあとに、今日は何の日か思い出した。
「クリスマスイブだもんな」
「……西洋の神とは関係ない話じゃ」
どうやら真面目に尋ねたようだ。
「そなたが申したように、人間が神の真実に触れるなど不可能じゃ。我自らが世界の秘密を明かしてくれようぞ」
「ふーん、中2乙」
「塩対応すんな!」
ぷんすか怒る神。ロリ巨乳な風貌もあいまって、威厳がない。
「あくまでも、日本神話における話じゃがな」
「神まで配慮してますアピールする時代になったのか?」
どうせ、双空のところに着くまですることもない。
「仕方ない。聞いてやる」
「我に向かって傲岸不遜なのはいただけないが、語ってやろう」
神は頬を緩ませる。チョロい。
「日本神話にも
歩くたびに揺れるロリ巨乳を堪能する。
「日本人は
八百万といっても、神が八百万いるわけではない。単純に、数多くの神々を指した言葉だそうだ。
「日本人は、自然界の物にも神が宿ると考えた」
神は斜め前を向く。丘がある。乳神が祀られた神社がある丘だ。
「たとえばじゃが、山深いところに滝があったとするじゃろ?」
「うん」
「澄んだ水、草木が放つ新鮮な空気、厳かな大地。そういったところに神がいる。人間はそう信じた。じゃから、滝を浴び、神聖な神々と触れ、身を清める」
どうせ修行するなら、女子と滝に打たれたい。服が透けたら、最高である。
「古来より人と神々が営んできた行為じゃ。やがて、時代はくだり、神社が建立されるようになっても同じ。日本人は物への信仰が篤いのじゃ」
「先生、物にはおっぱいも含まれますか?」
「ちょうど、話そうと思っていたところじゃ」
真面目な神話を語ってると思ったら、やっぱりおっぱいだった。
「赤子が育っていくには、乳は欠かせぬ物。赤子を持つ女性は、おっぱいから乳が安定供給できなければ子どもの生死に関わる」
「おっぱい尊い」
「ゆえに、乳の出が良くなるように人々は願ったのじゃ」
「人類、みな、おっぱいを愛する」
「人々のおっぱいへの願いが、乳神を生み出したのじゃ」
「昔の人、おっぱいを愛してくれてありがとう」
「もっと感謝するがええ」
「だが、おまえはウザい」
おっぱいは尊いといえど、乳神は別。
「ウザいとは何事じゃ」
「冗談なんだし、怒らないでよ」
「特別に許そう」
そう言って、乳神は上半身を横に揺らす。双丘が動いた。
「そなたは乳神と、我を混同しておるようじゃ」
「おまえは乳神じゃないのか?」
「我は乳神である。じゃが、同時に我のみが乳神にあらず」
「意味がわからない」
「乳神は我の個人名ではないのじゃ。現代風に言うなら、乳神という会社があって、我は乳神所属の神といったところか」
それなら納得。学校も、会社もいろいろな人が集まっている。真面目な人もいれば、サボる人も、ウェイウェイする人も。
おっぱい自体は敬うべき存在であっても、落ちこぼれはいるのだろう。目の前のロリ巨乳とか。
「ここからが本題じゃ」
「長い前置きだった」
「6年前まで、我は実体がなかった。ただ、神社で祀られているだけの存在。今のように意思を持って動くなど不可能じゃった」
「6年前?」
妙に引っかかった。
「ひとりの女子小学生が、毎日のように我のところに通っておった」
「……」
「最初の頃、彼女は自らが犯した罪を悔いておった。『あたしが痴女だから、彼にまで不純異性交遊の嫌疑がかかっちゃった。彼に処女を捧げて、お詫びするしかないのかな』ってな感じじゃ」
「間違いなく、双空だな?」
時系列的には、セックス事件の直後だと思われる。
「そのうち、少女の態度は変わり始める。『また、あたし、彼に冷たい態度を取っちゃった。まあ、あたしに関わって、またセックス言われたら、彼に申し訳なさすぎなんだけどさぁ。でも、だからといって、あたしのバカバカバカ』と、自分の頭を木にぶつけておった」
そんなことをしてたのか。
「彼女は、他にもこんなことを言っておった」
『あたし、彼が好き。大好き。宇宙で一番愛してる』
『彼に冷たくするのがクセになっちゃった。塩対応依存症の治療プログラムってないのかな。塩対応は1日1時間にする条例を作るのもあり?』
『彼、今日も他の女のおっぱいにうつつを抜かしてた。あたしだけを見てほしいのに』
『塩対応をしてばかりじゃ、彼に嫌われても仕方ないよね』
胸が締めつけられる。
知らなかったとはいえ、もうちょっと僕が配慮してあげていれば。
当時の僕は、双空が気兼ねなくエッチなことができるように、彼女にセクハラ発言を繰り返していた。
双空の気持ちを聞かずに勝手に行動した結果、今になったのだろう。
「毎日、毎日。彼女は神社に来て、胸のうちを明かしておった。乳神ゆえに」
気がつけば、神社のある丘に近づいていた。雪が積もり始めている。
「少女の切実な想いを、乳神のご神体は受け続ける」
「それで、どうなったんだ?」
「少女は願った」
『あたし、いつか彼と付き合いたい。塩対応を直して、彼に好かれたいの。だから、神さまお願いします』
『あたしに力を貸してください。なんでもしますから』
僕の瞳から涙があふれ、道路に落ちる。雪と混じり合う。
「そのときじゃ。我が意識を持ったのは。彼女の強い想いが、我という神を生み出した」
「なっ⁉」
「じゃから、双空嬢は我が主なのじゃ」
「……」
「我は力を行使するにあたり、彼女に注文を出した。といっても、彼女は我の存在を認知しておらぬ。ゆえに、深層心理に語りかけた。『お礼代わりに、おっぱいイラストを献上するがええ』と。彼女はイラストの勉強を始めて、えちえちな絵を投稿してくれるようになったわけじゃ」
「ん?」
そういえば、双空のカバンにおっぱいイラストが入っていた。らぶすかいさんの。
印刷して持ち運ぶほどのファンなのかと思ったが。
(もしかして……)
「我は十二分に例を受け取った。じゃから、我は双空嬢の願いを叶えるために動き出したわけじゃ。それが、我の動機である」
なんてことだ。完全に誤解していた。乳神は最初から双空の味方だったのだ。
「だったら、なんで呪いなんて手段を使った?」
「そなたも双空嬢も素直じゃない。ふたりをくっつけるためには多少強引な手段を用いるしかなかったのじゃ」
乳神は眉間に皺を寄せていた。
苦渋の決断だったと、僕は信じた。
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