第29話 素直

「おい、双空のメンタルが崩壊するって、どういうことだ?」

「なにを焦っておる?」

「はっ?」

「えっ?」


(驚いた僕、変じゃないよね?)


「腐れ縁の幼なじみがヤバいんだ。塩対応がウザいけどさ、寝覚めが悪いんだよ」

「……そなたも素直じゃないのぅ」

「んなことより、早く双空のことを言えって」

「我は双空嬢を呪ったときに伝えておったぞ。双空嬢は、『心にダメージを負っているはず』じゃとな」


 その件なら、たしかに聞いた。


「本来なら、塩対応とデレを貫いたら、いずれは無理がたたる。心が壊れるのは、最短でも数年後になるはずじゃった」

「それが早まったということか?」

「うむ。下手をすれば、数日以内にも彼女は破綻するじゃろう」

「なっ⁉」


 さすがに絶句する。そこまで、ひどい状況だったのか。


(クソッ)


 僕は、また双空を守れなかった。

 受け身の姿勢で、彼女と接していたから。


(結局、昔と何も変わってなかったのかよ?)


 小4のとき、双空は傷ついた。

 痴女を引退し、塩対応をするようになった。


 僕は昔の双空に戻ってほしくて、自分からエッチな発言をして。

 どれだけ冷たくされても、おっぱい愛を貫き通して。


 なのに、僕の考えが間違っていたから、数年間もすれ違っていたんだ。


「そなた、後悔しておるのか?」

「だって、僕は……」


 視界がにじんだ。

 そこに冷たいモノが降ってくる。水ではない。白い粉だった。


 雪だ。

 ホワイトクリスマス。

 本来なら幻想的なものなのに、むしろ地獄に感じられた。


「我の期待外れじゃったか」


 乳神は落胆のため息をこぼす。


「そなたなら、我があるじたる双空嬢を救えると思ったのじゃがな」

「どういうことだ?」

「おっ、どうやら目は死んでおらぬようじゃ」


 乳神は腕を胸の下で組む。体に似合わない大きな膨らみが強調される。


「ロリ巨乳を楽しみたいからな」

「その調子じゃ。それこそ、我が見込んだ、おっぱいの騎士である」

「おっぱいの騎士ってなんだよ?」


 おっぱいがどう関係するのか、素直に知りたい。


「冗談はさておき、双空を救えるのか?」

「うむ。わざわざ我が神社を出て、そなたの前に現れたのは、双空嬢を救うためじゃ」

「そうなのか?」


 真剣な目で神はうなずく。


「おまえが双空に呪いをかけておきながら、救いたいとは意外だった」

「いや、我は常に双空嬢の味方である」

「だったら、なんで呪いをかけた」

「呪いといっても、おっぱいに本音がダダ漏れするだけ。しかも、そなたにしか聞き取ることができないのじゃ。実害はないんじゃが」

「まあ、僕も最初は呪いじゃなくて、うれしいネタだと思ってたよ。けどさ」

「どうした?」

「結局、呪いの影響で、双空は暴走したじゃねえか」


 いまだに乳神は敵なのか、味方なのか、わからない。


「だから、呪いはやっぱり悪だ。ない方がいい」

「それは我も承知しておる。きっかけは双空嬢の願いとはいえ、我の責任じゃからな」


 素直に過ちを認められると、怒れない。


「で、双空を救う方法とは?」

「……そなたの胸に聞くがええ。おっぱいの呪いゆえに」

「誰がうまいことを言えと言った?」

「ふん。いいかげん、素直になっちまえ」

「……」

「そなた、ずっと前から双空嬢が好きじゃったんだろ?」


 直球で来られたか。


「ああ」


(いいかげん、自分の気持ちを認めないとな)

 救えなくなってから好きと言っても、後の祭りだから。


「僕は痴女な双空が好き。塩対応されるのも面倒。前は喧嘩もしてたけど、喧嘩も含めて、プレイの一種だからな」

「そちも変態よのぅ」


 神が悪代官みたい。


「で、僕は気持ちを認めた。これで双空を救えるのか?」

「ああ、可能性は生まれた。じゃが、我に双空嬢への愛をどれだけ語っても、ムダムダムダ」

「ムダ?」

「双空嬢、本人に言わなければ意味ない。これまでと同じようにすれ違って終わりじゃ」


 僕も双空も自分の心にウソを吐いていた。

 本音を隠して、上っ面の態度を取った結果が、今だ。

 神の言葉が胸に染みる。


「わかった。双空はどこにいる?」


 気持ちがはやる。


「善は急げだ」

「まあ、待つがいい。さっきも言ったが、焦ると女子に嫌われるぞ」

「べ、べつに」

「そなたという奴は」


 神は苦虫を噛みつぶしたような顔をする。


「約束どおり、双空嬢のもとへ案内する。じゃがな」

「どうした?」

「我と双空嬢の関係を語ってやる」

「なんの意味が?」

「そなたが双空嬢を救うためじゃ」


 理屈としては無茶苦茶だ。

 なのに、僕は神の瞳に吸い寄せられた。

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