第27話 できない

 僕は服を脱がされながら、ぼんやりと思った。


(初めてが3人だなんて、まさかね……)


 これで、杏も混じったら、4人になる。杏は実質女子だし、1対3だ。

 まさにハーレム。僕の時代が到来したかも。


(というか、杏はどうしたんだろう?)


 友人を心配している間に、上着を脱がされた。暖房も効いているので、寒くはない。


「翔、ズボンもイクからね」


 幼なじみがズボンのチャックに指をかける。


「んくぅ」


 くすぐったくて変な声が漏れてしまった。


「翔ったら、感じちゃって、かわいいんだから」


 満面の笑みを浮かべる双空は、小悪魔風。塩対応と同一人物とは思えない。

 そういえば、さっきからおっぱいの声も聞こえない。キャラが豹変したのと関係があるのだろうか。


 ズボンを下ろされながら、のんびりと考えていた。


(双空に痴女モードを発動されると、抵抗できないんだよなあ)


 さすがに、おち○ちんを女子に見られたら、恥ずかしいが。

 まだ、パンツがある。パンツさえ守れれば、焦る必要はない。


「翔、パンツは待っててね」


 余計なことを言って、パンツを失いたくない。

 無言でいたら、双空のターゲットは蜜柑さんに向かった。


「ほら、蜜柑。ドレスを脱いで」

「脱いでって……そらちゃん、よくないよ~」


 いつも優しい蜜柑さんも戸惑っている。


「自分で脱がないなら、あたしがやる」

「きゃっ」


 双空は蜜柑さんの背後に回り込むと、ドレスのファスナーを下げていく。

 もともと胸元が開いていたこともあり、すぐにブラジャーが露わになった。肩紐がないタイプで、大きな胸を支えられるのが、むしろすごい。


 思わず見とれていたら。


「翔くんのエッチ」


 と涙目になる。


(僕を誘惑した人なんだよね⁉)


 双空がおかしくなったと思ったら、蜜柑さんが元に戻った。

 僕は慌てて目をそむけると同時に。


「双空、やっぱ変だよ」


 僕は自分が着ていたシャツを蜜柑さんの肩にかける。


「翔、なに言ってんの?」

「なにって」

「あたしたち、子どもの頃からスキンシップしてきたじゃない? あたしたちの遊びをしてるだけなのに」

「僕だけだったら、付き合うよ。でもさ……」


 僕は蜜柑さんをチラ見する。


「蜜柑さんが困っている。双空は人が嫌がるようなプレイをする子じゃないだろ?」


 幼い頃、双空にされるがまま変態行為をしていたのは嫌ではなかったから。

 むしろ、好きな人とのスキンシップなんだ。断る理由はない。

 小学生でロウソクプレイはやりすぎだったけれど。


「じゃあ、蜜柑がいなければ……してくれるの?」


 つい、ため息がこぼれた。


「ごめん、今の双空とはできない」


 言っていて、胸が苦しくなる。


 半分ホントで、半分ウソだから。

 僕はエロ寄りの男子高校生。好きな人とエッチをしたいに決まっている。


 でもさ。


「今の双空、ホントに本音なのか?」


 塩対応のときとも、おっぱいでデレるときとも異なる、第3の顔。

 どこか歪んでいるように見えて、さっきから僕の息子も反応しない。


 いや、蜜柑さんのブラを見て、大きくなりかけました。


「ともかく、よくわからない状態の双空とする気にはなれない」


 言外の意味を匂わせたつもりだったのに。


「うっ」


 双空は目を見開き、血走った目で睨んでくる。

 僕の想いは届かなかったようだ。はっきり言っていないから、仕方ないのだが。


「翔のバカ!」

「ああ、バカだな」

「あたしが初めてを捧げるって言ってるのに、したくならないって病気なの⁉」

「病気でいいよ」


 投げやりな口調で言うと。


「翔のことなんかしらないんだからぁ‼」


 双空は叫ぶ。ロングの銀髪が横に揺れる。

 双空はコートを羽織って、出口に向かって駆ける。


「おい、双空!」


 僕が呼びかけるのも無視して、部屋を出ていった。


「待てよ!」


 服を脱いでいる以上は外に飛び出せない。

 今から急いで着ても、間に合わないだろう。

 身を整えながら、蜜柑さんのフォローをすることにした。


「ごめん、蜜柑さん、双空が変になっちゃって」

「どうして、翔くんが謝るの~?」

「幼なじみだからかな」

「ふーん、幼なじみねえ~。別の気持ちだって、わかってるから~」


 蜜柑さんは悟りきっているようだった。

 本気で僕が好きなのなら、悔しそうにするはず。


「蜜柑さん、なにかあったの?」

「よくわかんないの~。翔くんを見てたら、エッチなことしたくなっちゃって」

「今は大丈夫なのか?」

「う、うん。翔くんは普通に友だちだし~親友の……だもん~」


 最後はぼかし、意味がないとは言えなかった。


「私、翔くんを誘惑したなんて、自分が恥ずかしくてたまんない~」

「僕的にはサービスだったし、若気の過ちってことで」

「もう、翔くんったら~」


 蜜柑さんはクスクスと笑う。

 その様子を見て、僕は安心した。


「それより、どうしようか?」

「私のことは気にしなくていいから、そらちゃんを追いかけて~」

「で、でも」


 そのとき、玄関が開いた。


「ごめんね、ふたりとも」


 杏が息を切らして入ってくる。


「歩いているときに見知らぬおばあさんが倒れて、救急車を呼んで、病院まで付き添ってたんだ」

「それなら、しょうがないよ」

「そんなことより、そらさんが泣きながら走ってたよ」

「それなんだが」


 いくら杏が信用できるとはいえ、さすがに言えない。


「また、僕が怒らせちゃって」

「しょうくん、追いかけなよ」

「……そうだな。杏、すまないけど、ここは頼んだ」


 僕は双空が忘れていたバッグを拾い上げる。

 そのときだ。バッグの口が開いていて、中身が落ちた。


「えっ?」


 1枚のイラストが目に入る。

(なんで、らぶすかいさんの絵を双空が持ってるんだ?)


「しょうくん、早くしなよ」

「あっ、そうだな」


 僕はパーティ会場の雑居ビルを出る。

 空は曇り、気温も下がっていた。白い息を吐き出しながら、街を走る。

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