第26話 もうひとりの幼なじみ

 銀髪に白い肌と対象的な黒い布。大人っぽい、レースの下着が、幼なじみを艶っぽく飾り立てている。


「そ、双空さん? その格好は?」

「もちろん、勝負下着だよ。クリスマスのために、買ったんだぁ。えへっ」


 双空は形のよい胸を張ると。


「だから、翔、あたしのものになって」

「へっ?」


 あまりの展開に脳がついていけず、双空に胸を押されても反応できなかった。


 背中にクッションが当たり、僕の腰の上に双空が乗っかっていた。

 数センチ、弾力に満ちたお尻がズレていたら、大変な事態になっていただろう。

 お尻だけでも破壊力があるのに。


「えへっ、翔、ギュッとしちゃうぞ❤」


 双空は僕に覆い被さってくる。

 彼女の吐息が僕の首筋を撫で、銀髪が肩をくすぐり、双丘が腹部を癒やす。


 スリスリ。

 幼なじみが密着してきた。


 最近、おっぱいの声でデレるようになったとはいえ、肉体的接触はない。

 抱き合うなんて、小学生以来。胸が膨らみ始めた頃が最後だった。

 自称Eカップにまで成長した幼なじみ。


(なんじゃ、こりゃ⁉)


 性格は塩対応なのに、体は甘い。甘すぎる。

 完全に心を奪われた。


「そらちゃん、どうしたの~?」


 蜜柑さんの震え声で我に返った。


「双空、ホントになにやってるんだ?」


 明らかに変なので、無理に引き離すのもためらう。


「翔、なにって、冬山遭難ごっこだけど?」

「冬山遭難ごっこ?」

「冬山で遭難した男女は裸でお互いを温め合う。マンガで見たでしょ?」


 ラブコメの定番イベントなのは知っている。


「あたしたち何度もしたのに、忘れたの?」

「……」

「翔の反応が変。あたしたち、ずっと遭難ごっこで遊んできたじゃない?」

「えっ?」


 という表現が引っかかった。

 僕は双空が正常だと確かめたくて、聞いてみる。


「たしかに、小3の冬までは冬山遭難ごっこをした記憶がある。が、小4の冬には、塩対応を発動させてたよな? 裸で抱き合うなんて、おまえから避けてたじゃん」

「なに言ってるのかな?」

「へっ?」


 背筋が凍りつきそうになった。


「翔は、あたしのおもちゃなんだよ?」

「おもちゃ?」

「あたしは翔をおもちゃにしてるの。だって、翔、嫌な顔もしないで、いろんなプレイに付き合ってくれるんだもん。ロウソクとか、縛るとか、放置プレイとか」

「……子どもの頃の話な」

「さっきから、なんの話をしてるのかな~」


 蜜柑さんが唖然とするなかで、双空は僕の胸にのの字を書く。ギリギリ触れるか触れないかなのは、狙っているのだろう。

 強烈な刺激が全身を駆け巡る。変な声を我慢していると。


「他の男子には触られたくないけど、翔だったらエッチをしてもいいよ❤」


 双空は目をとろけさせて、ささやいてくる。


 完全に昔の彼女で。

 受け身だった頃の自分を思い出す。


(なすがままに快楽を享受すればいいんじゃね)


 抵抗する気が失せた。

 双空が僕のシャツを脱がせようと、ボタンを外してくる。


 1つ、2つとガードが解除されていき――。

 そのとき、ふと塩対応をする幼なじみの顔がちらついた。


 僕は双空の手を押さえる。


「双空、よく聞いてくれ」

「な、なにかな。クリスマスだし、告白してくれるの?」


 首を横に振る。


「まずは、現実を受け止めてほしい」

「現実?」

「そう。僕たちの関係は変わったんだ。僕はエッチなことをして、おまえに塩対応される。それが、僕たちの6年間だ」


 しまった。塩対応の頃を忘れたとでも言わんばかりに。


「ちょっと、なに言ってるかわかんない」

「へっ?」

「翔、昨日もあたしと学校でキスしようとしたよね。先生に見つかっちゃって、怒られたけど。あたしからキスしようとして、翔も抵抗しなかったし」


 頭をかち割られたようだった。


 突然、服を脱ぎだしてからの双空は、昔に戻ったみたいだった。

 現実が見えてない気がしたので、事実を突きつけたのだが。

 まさか否定されてしまうとは。


(マジで、記憶がないのか?)


 あの事件以来、積み上げてきた日々。

 本音を知る前は冷たい態度を取られるのはしんどかったけれど。


 すべてが無に帰したのだとしたら、寂しく思う。

 僕からできることはなくなった。無力感しかない。


 助け船を出したのは。


「そらちゃん、今さら私が言うのは変だけど~」


 蜜柑さんだった。

 双空が暴走する前は蜜柑さんが変だったが、今はいつもどおりに見える。


「素直になれたのはいいけど、変だよ~。あたしの前でエッチなこと言う子じゃなかったし」

「蜜柑、なにを言ってるの? あたしが翔とエッチな遊びをするの知ってるはずなのに」


 さも当然とばかりに双空は答える。

 意味がわからない。


 塩対応の記憶を忘れているのは間違いない。この6年の出来事がすべて消えているのかと思えば、蜜柑さんのことはしっかりと覚えている。


 双空が小学生時代のまま成長した世界線にいる錯覚がする。

 僕と蜜柑さんが正常だとすると。


(まさか、双空は記憶の捏造してる?)


 そう考えるとつじつまが合う。


(どうすんだよ?)


 頭を抱えていたら。


「まあ、いいっか。せっかくだし、3人で気持ちいいことしちゃお?」


 そういうと、双空は僕の腰に乗ったまま、蜜柑さんの胸を揉み出した。


「ふぁ~❤ はぁあんっ❤」

「蜜柑、感じちゃってかわいいんだから」


 修羅場からボーナスステージになって、理解に苦しむ。


「だって、蜜柑。翔のことを意識してるんでしょ。なら、3人でするっきゃない」


 まだ昼間なんですけど。性の6時間には早すぎる。

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