第5章 クリスマスが平和だなんて誰が言った?

第22話 クリスマスハーレム計画⁉

 期末試験も無事に終わり、一気に年末モードに突入する。

 ちまたではクリスマス商戦が真っ盛り。最寄りの繁華街ではイルミネーションが恋人ホイホイの性能をいかんなく発揮する。


 月曜日の昼休み。授業が終わったとたん。


「あてぃくしさぁ、クリスマスまでにイケメン彼氏つくってみせる」


 双空そらの後ろの席に座るギャルが大声で宣言した。


(おま、現実を見ろ!)


 ギャルは特別にひどいだけ。周囲で浮き足立っている男女は何人もいる。


(クリスマスなんて燃えちまえ!)


 期末試験が終わった解放感が、高校生を性の奴隷にするにちがいない。


(どうせ、僕には性の6時間を共にすごす女子はいねえよ)


 やさぐれていたら。


「まだ、2週間もあるよ。諦めなければ、夢は叶う!」


 幼なじみの声が聞こえた。

 ギャルの方を向いて、アイドルも顔負けと言わんばかりに熱く語っている。

 双空の奴、自分は腑抜けているのに、口だけは立派だ。外面が良いと言うべきか。


 苦笑を浮かべていたら。


「しょうくん、そらさん熱血ねぇ」


 杏が弁当箱を持って、やってきた。


「諦めないという点では、熱血だと認めてあげてもいいんだからねっ!」

「しょうくん、まどろっこしい言い方だよぉ」

「ごめん、ツンデレは僕には似合わないよな」


 真面目な話。双空は不器用すぎる。


 もう6年も僕に塩対応をして、失敗しているのに、まだ僕を諦めてないわけで。

 普通の子だったら、僕にフラれる前に、自分から身を引いている。

 表向きの態度には出せなくても、その行動力は熱い。


「ところで、しょうくんはクリスマスどうするの?」


 杏は弁当の準備をしながら、世間話のノリで聞いてきた。


「杏、おまえもか?」

「ふぇっ、しょうくんが怖いよぉ」

「ごめん、つい瘴気が漏れてしまっただけで、杏を泣かせるつもりはない」

「ふぅ~良かったぁ」

「安心していい。クリスマスは空いている」

「やったぁ。言質取ったからねぇ」

「かわいい杏とデートできるなんて、生まれてきて良かったよ」


 残念なのは杏が物理的には男子であること。まだ女子ではないから、おっぱいも平坦だ。

 それでも、杏とデートできるなら、最高である。


 期待に胸を膨らませていたら。


「杏ちゃん、翔くんの予定を確認してくれて、ありがと~」


 蜜柑さんが胸を揺らしながら、近づいてきた。


「別に、あたしはどうでもいいんだけどね」


 双空が後ろにいて、不機嫌そうだった。


 それで察した。

 蜜柑さんと杏が協力しているのだと。


「もしかして、僕、杏と蜜柑さんとハーレム状態なの?」

「あたしもいるんだけど」


 双空から凍てつくような声がした。


『いつか放置プレイもされたいけど、仲間外れは嫌。あたしを愛して』


 あいかわらずだった。

 乳神と再会して1週間以上経つが、なにも変化はない。


「じゃあ、そらちゃんと杏ちゃんと私で、翔くんのハーレム要員になる~?」


 蜜柑さんが僕に上目遣いを向けてきた。


(メチャクチャ艶っぽいんですけど⁉)


 胸が机の上に乗って、潰れているのもポイント高い。

 蜜柑さんとハーレムしちゃうとか、夢だとしてもうれしすぎる。


(っていうか、夢だよな?)


 目をこする。


「蜜柑、翔は変態だよ」

「でも~翔くん優しいし~カラスと戦ってくれたし」


 夢にしてはおかしい。


「私、本妻でなくてもいいから~翔くんに尽くしたいかな~」


 蜜柑さんは頬を緩めていた。


(冗談だろ⁉)


 僕の知っている蜜柑さんは双空のアシストに徹する子だ。

 僕が勘違いするような態度を取るとは思えない。


(いや、待てよ)


 僕は蜜柑さんの作戦に気づいた。


 順を追って、整理しよう。

 クリスマスは態度を変えるきっかけになるイベントだ。

 なのに、双空は素直になれない。

 杏と仕組んでクリスマス会をする流れではあるけれど、このままでは進展しない。


 今まで僕には仲の良い異性がいなかった。

 だから、双空も悠長に塩対応をすることができた。


 が、僕にカノジョ候補が現れたら?


 双空は不安になる。『あたし、このままじゃいけない』と、本気で悩む。

 結果、双空が覚醒し、塩対応をやめられるかもしれないわけで。


(蜜柑さん、良い子すぎて、好きになりそうだぜ)


 下手したら、自分が嫌われるのに。

 そんな推測を立て、女子たちの様子を観察する。


「蜜柑、翔なんかに尽くしたら、おっぱいがなくなるまで揉まれるよ」

『ヤバい。マジで、マジで、ヤバい。ヤバタニエン。あたしがバカすぎるから、ついに翔が最高に良い男って気づいちゃったの⁉ うぅぅっ』


 これで確定だ。

 蜜柑さんは自分を犠牲にしてまで、双空のために動いている。


 蜜柑さんの気持ちをムダにしないためにも。


「じゃあ、クリスマスはハーレムでよろしく。僕が3人とも愛するから」


 軽いノリで言ってみせる。


「翔くん、ありがとね~。でも、そらちゃんを一番愛してあげてね~」

「しょうくん、魔王みたいだよぉ。ボク、しょうくんが喜べるようがんばる」


 蜜柑さんと杏は受け入れてくれたのに。


「変態。おち○ぽ、もげろ」

『クリスマスは勝負。勝つのは、あたし。とっておきの勝負下着も注文したし、負けてたまるか!』


 クリスマスといえば、平和のはず。

 戦争の火種がくすぶっているのは、気のせい?

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