第19章 天文学的トラブル

「悩みってほどじゃないんだけどさぁ」

「うん、お姉さん、なんでも聞くからね~」


 お姉さんの包容力は神がかっている。今日からママと呼ばせてもらおう。


(双空さん、蜜柑さんの爪の垢を煎じて飲んでくだせぇ)


 蜜柑さんは歩いて暑くなったのか、コートを脱いで、手に持つ。

 ブラウスの胸元はキツそう。


 もしかして、また大きくなった?

 成長するG乳。止まらないパイオツ。


「女子の気持ちって複雑すぎて、ホントにわかんない」

「……そらちゃんは複雑さなら全国大会クラスだし~ムリもないよぉ~」

「なんで、双空のことってわかったの?」

「だって、翔くんわかりやすいから~」


 僕がわかりやすい?


 幼なじみに振り回されてばかりの人生。顔に出さない修行は積んできたつもりだ。

 態度に出さない自信はあったのに。


 おまけに、乳神が腹を抱えて笑っている。


「おま、笑うんじゃねえっての」

「へっ?」


 蜜柑さんが目を丸くする。


「ごめんねぇ。翔くん、かわいいと思っただけで、笑うつもりはなかったんだよ~」

「あっ……蜜柑さんに怒ったわけじゃないから」


 乳神は僕しか認識できないんだった。


「妖精さんに笑われた気がしただけ」

「翔くんったら、面白いんだから~」


 今度は蜜柑さんも笑顔になるが、むしろ癒やされる。


「話は戻るけど~そらちゃん、超不器用なだけで、悪気はないんだよ~」

「うん、知ってる。本気で不快だったら、とっくに絶交してるし」

「……翔くんも普段は素直で良い子なのよねぇ」


 同級生は僕の頭を撫でてくる。

 手からフローラルな香りがした。


(女子って、僕と同じ種族なの?)


 ママの美声に耳を傾けていると。


「翔くんと、そらちゃんって、本当に似たものカップルで、ほうっておけないんだから~」

「僕と双空が似たものカップルですって?」

「うん」

「あいつが塩対応すぎて、離婚間際の夫婦状態なのに?」


 おっぱいでデレているとは言えない。


「喧嘩するほど仲が良いって言うよ~」

「先生、塩対応は喧嘩に入りますか?」


『バナナはおやつに入りますか』のノリで言ってしまった。けっして、蜜柑さんを困らせようと思ってのことではない。


「とにかく、ふたりは私から見たら、お似合いの夫婦なのよ~」


 蜜柑さん、強引な返しをする。


 僕が双空を意識するきっかけを作りたいのかもしれない。

 友達思いの蜜柑さんに感動して、反論を諦めた。


「じゃあ、僕たちが似たもの同士っていうのは?」

「だって、ふたりとも素直じゃないからねぇ~」


 すると、乳神がドヤ顔を向けてくる。


(そういえば、乳神も『素直』がどうとか言っていたな)


 意味がわからない。


 とりあえず、都合の悪いものからは目をそらそう。

 蜜柑さんの爆乳と、乳神のロリ巨乳を見比べる。

 蜜柑さんが2センチほど大きい模様。


「私、そらちゃんにも、翔くんにも幸せになってほしいな~」

「ありがとう、ママ」

「私に素直になるんだったら、そらちゃんに優しくしてあげてよ~」


 はぁと、蜜柑さんはため息を吐く。上下に胸が揺れた。

 難しい課題をもらってしまった。


「話を聞いてくれて、ありがとうな」

「ううん、気分転換したかったし~そらちゃんのサポートしたいからね~」


 これ以上、引き留めるのも悪い。

 そろそろ神社から出ようかと思ったとき。


「ここからは我のターンじゃ」


 乳神が笑った瞬間。


「うわぁぁっ」「きゃっ」


 突風が吹いて――。


 ママは白でした。黒や紫でなくて、安心した。

 すぐに風は収まったけれど、バッチリ目に焼き付けました。


「翔くん、見た?」

「み、見てないよ」

「翔くん、優しいウソを吐いてくれて、ありがとね~」

「僕は双空以外の女子には紳士だし」

「そらちゃん、愛されてるよ~」


 そう言って、蜜柑さんは前に一歩出ようとする。


「どこが?」と返そうと思ったとき、さらなる異変が起きた。

 蜜柑さんが小石につまずいて、体勢を崩したのだ。


 一般的にGカップは左右あわせて、2キロを超える重さと言われている。

 バランスが取れなくてもムリはない。

 前のめりに倒れていく。


「あぶない!」


 僕はとっさに手を伸ばす。

 どうにか間に合って、両手に女の子の重さを感じた。


 ぷにぷにした弾力とともに。


 あまりにも極上の手触りすぎて。

 手のひらを閉じたり、開いたり。


「ふぁんぅっ❤ んぅくぅ❤❤❤」


 大人っぽい魅惑的な声がママの口から漏れた。


「あっ」


 なにが起きているか悟った。


「ご、ごめん」


 蜜柑さんが立つのを手伝うと、すぐに彼女から離れた。


「ううん、気にしないで~事故だし~」

「け、けど」


 胸を揉んでしまったわけで。

 さすがの蜜柑さんも動揺したのか、真っ赤になっている。


「僕、なんでもするから」

「なんでも~?」

「僕にできることなら」

「……じゃあ、私とデートしてくれる~?」

「へっ?」


 頭が真っ白になった。


 相手はあの蜜柑さん。包容力があって、僕が双空といがみ合っていても受け入れてくれて。パンツを見たり、胸を揉んだりしたのに、お詫びがデートだという。

 うれしくて、舞い上がりそうになる。


 が、幼なじみのデレを思い出して、胸がチクリとした。

(どう返事をすればいいんだ?)


「童貞よ、浮かれてる場合じゃないぞよ」


 不穏な言葉が聞こえてきて。


「きゃっ!」


 蜜柑さんが叫んだ。

 カラスだ。カラスが蜜柑さんを襲っていた。


「蜜柑さんに手を出すな!」


 すかさず僕は追い払うが。


「こっちからも⁉」


 今度は別のカラスが襲撃してくる。


 僕は両手を使って、二刀流の要領で戦うも。

 3羽、4羽、いや、集団で来られてしまい、手数が足りない。


「蜜柑さん!」


 叫んで声で怯まそうとするも、カラスは蜜柑さんを狙い続ける。まるで、なにかに操られているかのよう。


(もしや……?)


 思わせぶりな態度を考えても、犯人は奴しかいない。


「おまえっ!」


 乳神に怒鳴る。


「目標は達した。カラスどもよ、帰るがええ」


 案の定、神が仕組んだものだった。乳神はカラスもコントロールできるらしい。

 カラスの群れはなにごともなかったように空に戻って行く。


「蜜柑さん、大丈夫?」


 声をかけたが、思わず固まってしまった。


「体大丈夫だよ~」


 ブラウスはボロボロである。ところどころ千切れ、ボタンは外れ、下着もモロ見えている。


「服はダメになったけど~コートでなんとかなるかな~」


 気丈に振る舞うも。


「コートの下が下着って、変態じゃん」


 さすがに、大丈夫じゃない。


「あはは、翔くんにはサービスだね~」


 けっして弱みを見せようとしないママ系同級生。

 放っておけなくて。


「ならさ」


 僕はセーターを脱ぐ。


「僕のセーターを貸すから」

「で、でも、それじゃ翔くんが変態さんだよ~」

「どうせ僕は変態だ。コートの下が裸でも問題ない」

「そらちゃんがいないときは普通だよね~?」

「いいから。もう脱いじゃったし」

「な、なら」


 蜜柑さんは僕のセーターを受け取ると、自分のブラウスを脱ぎ始める。


「なっ」


 寂れた神社で人はいないけど、もっとも危険な僕がいる。

 慌てて後ろを向いたときだ――。


「えっ?」


 幼なじみと目が合った。

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