第4章 熱い冬

第18話 希少生物ロリ巨乳

 12月になって初めての土曜日。

 週明けの月曜日から期末試験のため、孤独に試験の準備にいそしんでいた。


 実は、蜜柑みかんさんからは、プールに行った4人で勉強会をしないかと提案があったのだけれど。


『翔なんかがいたら、勉強できない』と誰かさんが訴えたせいで、見送られた。

 なお、誰かさん、おっぱいで恥ずかしがっていた。せっかくのアシストを活かせないポンコツです。


 土曜日の昼下がり。昼ごはんを食べたら、眠くなってきた。


(気分転換に散歩でもしよう!)


 近所をブラブラ、ブラジャー。オヤジ構文なつまらないセクハラギャグですね。


 たまたま、神社の脇を通りがかる。乳神が祀られている神社だ。

 乳神に用はないけれど、寄っていくことにした。


 丘を登る。木々は真っ裸だ。たんに、葉が落ちただけなのに、文字を見るとエロい。誰なんでしょうね、裸木なる単語を生み出した天才は。


 頂上に着く。近くには誰もいない。


 とりあえず、お参りしておくか。

 小銭を賽銭箱に投げ入れて、二礼二拍手一礼をする。

 参拝を終え、回れ右したときだった――。


 すぐ近くに巫女さんがいた。

 小学校高学年ぐらいの幼女だ。

 なのに、和服でもわかるぐらい大きい。


 どこが?

 もちろん、胸が。


 いわゆる、黒髪のロリ巨乳。ロリなのに巨乳という、自然界では存在できない希少種だ。

 3次元でロリ巨乳が実在するなんて。


(小学生が巫女さんとか、神社の娘なのかな?)


 先日は見かけなかったんだけど。


 詮索はさておき、レアおっぱいに出会ったんだ。目に焼き付けたい。

 相手は子ども。最大限の配慮が必要だ。絶対に気づかれないよう注意を払って、ロリ巨乳を拝ませてもらう。


「我がロリ巨乳のすばらしさに頭を垂れるがええ」

「えっ?」


 仰々しい口調は、どこかで聞いたことがある。


(そうだ、乳神ちちがみだ)


 乳神の声があろうことか、ロリ巨乳のご尊口から聞こえた。


(偶然だよな)


 前回、乳神は音声のみの出演だったし。


「おぬしの目は節穴か」


 またしても、幼女から乳神の声がした。口も動いている。


「我が乳神じゃ」


 幼女は豊かな胸を張る。


「マジで乳神なの⁉」

「さっきから、そう言っておる」

「ははぁ」


 僕は拝み伏した。ズボンに砂がつくが、構わない。


「ようやく、我を尊敬する気になったか?」

「もちろんでございます。ロリ巨乳さま」


 先日は声だけで意味不明な呪いをかけられ、迷惑でしかなかった。

 なのに、今日は姿を現した。


 しかも、幻想上の生物と思っていたロリ巨乳の姿で。認識を改めるのも当然だろう。


「ところで、おぬし、最近はどうじゃ?」

「充実したおっぱいライフをすごしています」


 2次元美少女のおっぱいを賛美し、VTuberの揺れる乳に課金し、蜜柑さんの爆乳を崇めている。


「ふむふむ、良い信者を持って、我は幸せな神じゃ」


 いらつかないのは、見た目がロリ巨乳だからか。


「じゃが」


 神さまの機嫌は一転。ゴミ虫を見るような目を向けてくる。

 同じ年の幼なじみに塩対応されるのとちがって、クセになりそう。


(ロリ巨乳の破壊力はパないです!)


「肝心の呪いはどうしたのじゃ?」

「……あれ、ウザいです」


 かわいい巨乳幼なじみに告白されまくってるんだぞ。

 この3週間で、僕の方から何度コクりそうになったか。


「案の定、すれちがい生活が続いておるようじゃな」

「すれちがいの意味は不明だけど、双空そらの奴、ひねくれてるじゃん。なにをすれば、心を解放できるのか、ちっともわかんないんし」


 我慢していた不満をぶちまける。


「双空嬢が素直じゃない? 笑わせるな」

「いや、あれだけ口の声と、おっぱいの声がズレてるなんて、天邪鬼にもほどがあるでしょ?」

「そういう意味では言うておらぬ」

「どういうこと?」

「素直じゃないのは、誰のことかな?」

「だから、どういうこと?」


 やっぱ、乳神は頭にくる。見た目がかわいくても、ダメだった。


「そなたが自分の本心に気づくまで、呪いは解けぬと言っておこう」

「……僕の本心?」

「うむ。出血大サービスじゃぞ。我に初めての出血をさせるとは、そちもエロよのう」

「悪代官かよ!」


 なにがサービスなのかわからない。

 結局、達成条件が不明確なクソゲーをしていることに変わりない。


「仕方がない。もうひとつだけヒントを出してやろう」

「あざーす」

「この3週間、そなたと双空嬢の関係はどう変わった?」

「うーん」


 少なくとも表向きには変わってないわけで。

 でも、僕の気持ち的には動きがあった。


 ずっと僕を嫌いだと思っていた幼なじみ。

 どうにか縁が切れないようにしていた数年間。

 高校に入って蜜柑さんや杏の協力もあって、絆を保てていて。

 彼女の本音を知った今――。


「別に」


(あっ、つい塩対応をしてしまった)


 誰かさんの真似をしたのではなく。

 脳が乳神の要求に従うのを拒否したのかもしれない。


「これまでも、これからも、どうせ塩対応されるだろうね」


 僕は適当にはぐらかす。


「やっぱ、素直になれぬのか」


 乳神は大きくため息を吐く。胸が上下に揺れた。地震があったのかな?


「そなたたちが乗り気でないのであれば、我が賽を振るまで」


 乳神はぶつくさつぶやくと。


「ちょうどいい。おあつらえ向きの娘が来たようじゃ」


 せせら笑う。


「神のイタズラにおののくがいい」


 完全に僕を挑発している。

 幼女なのも忘れて。


「おい、乳神、なにを企んでいる⁉」


 つい声を荒げてしまう。

 そのときだった。


「翔くん、ひとりで大声を出して、どうしたのかな~?」


 振り向くと蜜柑さんがいた。

 彼女はキョトンと首をかしげている。


「ひとりで?」


 乳神は笑い転げている。

 蜜柑さんが乳神に気づいているのなら、なんらかの反応を示しただろう。


「少し前から独り言をしてたよ~」


(もしかして、僕にしか見えないのか?)


 先日。双空に乳神の声が聞こえなかったように。

 よりによって蜜柑さんに目撃されるとは、恥ずかしすぎる。


「翔くん、悩みごとがあるんだったら、お姉さんに話してみ~」


 爆乳お姉さん系同級生の癒やしオーラが天元突破していて、即オチしそうになった。

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