第16話 僕たちは間違っている

「恥ずかしすぎる過去を思い出したんだけど」


 幼なじみが僕を思いっきり睨んできた。


 プール脇の休憩スペース。水着姿で、豊かな胸を見せびらかしておいて、恥ずかしいとはいったい……?


「もしかして、小4のセックス事件のこと?」

「ストレートに言うな。氏ね」

『あわわぁ。翔、痴女なあたしに引いてないかなぁ。黒歴史すぎて、100回死ねるよぉぉぉ(T-T)』


 エッチな本音をダダ漏れさせていても、お年頃の乙女らしく恥じらっている。


(そりゃ、周りから囃し立てられたら、黒歴史にもなるよなぁ)


 昔の双空は攻撃力にステを全振りしたようなエロさだった。

 防御を知らない人に対して、小学生どもはセッ○スを連呼したわけだ。恥ずかしくて戦闘不能に陥ったのも理解できる。


「あのときはご愁傷様だったな」

「エロ翔が悪いんだからね」

『恥ずかしいんだから、スルーしてよぉ』


 気を遣ったつもりが失敗だった。


(本人の希望しているんだ、話題を変えようか)


 と思ったのだが、ふと引っかかった。

 乳神は呪いについて、なんと言っていた?


 思い出して、要約してみる。


 双空は本音では僕にデレていて、僕が大好き。

 ところが、態度では僕に冷たすぎる。

 本音を無理やり抑えつけて塩対応している。

 とりあえず、あふれ出た感情がおっぱいにダダ漏れしているけれど。

 我慢はイクナイ。メンタルのバランスが崩れるから。

 呪いは解除するには、双空の心を解放すればいい。


 以上が奴から聞いた情報のすべて。


 さらに、僕自身の気持ちも整理する。


 巨乳美少女の幼なじみに毎日何度も告白されてるわけで。

 塩対応には困るけれど、双空のことは嫌いではない。

 むしろ、おっぱい揉みたい。

 猛烈にデレられて、性欲を我慢するのはしんどい。ニヤけそうになるし。


 双空の状況と、僕の感情を考慮した結果。


(やっぱ、呪いを解きたいよなぁ)


 目標を双空の心を解放とする。

 そのうえで、希望どおりに話題を変えるかなんだが。


「やっぱ、エロと向き合うしかないんだよなぁ」


 無意志から湧き上がる衝動に蓋をしたところで、エロい気持ちは消えない。エロい自分を否定しても、なんにもならないのだ。


「人類みなエロ。エロから目をそらすなっての」

「翔、なにをさっきから最低のことを言ってるの?」

「……自分の気持ちに正直になれってことさ」

「ふーん、マジで脳内おっぱいだらけなの⁉」

『翔、あたしの胸に興奮してるのかな? 試しに、おっぱいをテーブルに乗せて様子を見るね』


 双空さん、本当に胸をテーブルに置いた。

 豊かな下乳が押されて、強調される。制服でも破壊力があるポーズなのに、ビキニなので戦闘力は測定不能だ。


 僕は眼球を動かさずにおっぱいを楽しみつつ。


「あの事件のときは、守ってあげられなくて、ごめんな」


 きっかけとなった事件と向き合う覚悟を決めた。


「なにを言い出すの?」

「なにもできなかったことを今でも後悔してるんだ」


 思っていることをストレートに告げる。


「……翔の責任じゃないし」

「で、でも」

「あたしは昔の自分を否定している。学校でエッチなことをする痴女だし。あの事件が起きなくても、いつか問題になったはずだから」


 おぱ声は聞こえない。つまり、本音なのだろう。

 意固地になっている幼なじみに語る言葉が思いつかない。

 決意して1分も経たずに、撃沈した。


 10年以上も一緒にいるのに、なにもできないことが悔しくてたまらない。

 僕にできることは――。


「双空、妊娠はさせない。だから、おっぱい揉ませて」


 セクハラだ。


「いまの幻聴だよね?」

『翔があたしの胸を揉みたいなんて、うれしさしかない。双空ちゃんしか勝たん』


 突き刺すような声と、大歓喜する本音を噛みしめつつ。


(これでいいんだ、これで)


 僕は自分の胸に言い聞かせる。


 本音を言えば、女の子の前でおっぱいを言いたくない。

 僕も恥ずかしいし、相手を傷つけ、社会的に終わるリスクもある。


 それでも、双空の前でエッチでいるのには、理由がある。



 昔、双空が僕を引っ張っていたから。

 今度は僕が彼女をリードすることで。

 昔の彼女になりたかったんだから。


 もちろん、昔の双空みたいなことをしたら、一発でアウトだ。普通に捕まるまである。


 けれど、エッチな僕を見て、双空に我慢をやめてほしかったんだ。


 自分でもメチャクチャな理論だとわかっている。

 実際、いつも塩対応されるし。


 たとえ、間違っていても。


「僕はおっぱい愛を貫くから」


 自分を捨てない。


「せっかく、お礼を言おうと思ってたのに、サイテー」

「お礼ってなんの?」

「盗撮から守ってくれたでしょ」

「ああ」


 幼なじみは銀髪をかき分け、上目遣いで僕を見つめる。琥珀色の瞳は昔と変わらずに、キラキラしている。


「かっこよかったんだからぁ」


 消え入るような声が胸に染み込んでくる。


 僕たちは素直になれない。

 それでも、一緒にいる時間は長い。

 いつか本音をさらけ出せる日が来るのだろうか。


「しょうくん、お待たせ」

「おやつ買ってきたよ~」


 買い出しに行っていた杏と蜜柑さんが戻ってくる。

 蜜柑さんは食べ物と一緒に胸をテーブルに置く。

 ド迫力なメロン乳をガン見してしまい、双空に睨まれたのは言うまでもない。

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