第13話 DokiDoki
しばらく、プールで泳いだ後。
ご褒美タイムがキマシタ!
――ぽよん、ぽよん。
5つのボールがダイナミックに弾んでいて。
あまりに見事な光景に息を呑んでいたら。
「あっ、痛っ」
ボールのうちの1つが飛んできて、顔面に直撃した。
「胸を見すぎな翔が悪い」
双空は憮然とした顔をしつつも。
『あたしのスパイクに見とれてたのかな? ジャンプすると胸が揺れて痛いけど、翔が喜んでくれるなら、がんばるね❤』
すばらしい本音をダダ漏れしていた。
(ビーチバレーのコートがあってラッキーすぎ)
日頃の行いが良いから乳神が恵んでくれたのかもしれない。
4人のビーチバレー。僕と杏の男チーム、双空と蜜柑さんの女子チームでやっていた。
対戦相手のふたりは巨乳と爆乳。ビキニに包まれたお胸様も大胆に運動するのだ。
双空は運動能力が高い。ジャンプすると、銀髪が波打つ。すらりとした足も躍動感がある。
上半身もしなやかで、腕を上げると同時に胸も上に引っ張られ。
たぷんと、反動で双丘も下がって。
ダイナミックな胸と、ボールの動きに何度も目を奪われ、そのたびに顔面に攻撃を食らっていた。
僕はボールを拾い、サーブを打つ。
標的は蜜柑さん。
なぜなら――。
蜜柑さんは運動は苦手らしい。
僕が放ったサーブは蜜柑さんよりも前。
蜜柑さんは懸命にボールを追いかけ、前屈みになる。
両手を前に突き出す。メロン乳がさらに強調された。
レシーブをしようとするも…………。
肘と下乳で、ボールを挟んでしまう。
レシーブだけでもおっぱいだったのに、ボールが下からおっぱいを持ち上げる。ビキニからこぼれおちないのか心配になるほど、おっぱいアピールしていた。
おっぱいがおっぱいだった。あまりの光景に語彙力崩壊。
「てへっ、失敗しちゃったぁ~」
舌を出す癒やし系お姉さん。
「どんまい……ってか、サービスシーンありがと」
怒るどころか感謝しかない。
「翔、えっち」
鼻の下を伸ばしていたら、幼なじみが不機嫌になった。
「蜜柑、疲れたでしょ?」
「う、うん、そ、そうね~」
蜜柑さんは双空の顔色をうかがっている。
以前の僕は、双空の機嫌を回復するための作戦だと思い込んでいた。
しかし、おぱ声を聞けるようになってからは。
「私、ウォータースライダーしたいなぁ~」
「うん、あたしはいいけど」
「私は杏ちゃんと行くから、そらちゃんは翔くんでいい~」
蜜柑さんは双空と僕を近づけようとしていると気づいた。
意味ありげに微笑むし。
「み、蜜柑が杏さんがいいなら、あたしは仕方なく翔と行ってあげるけど」
『蜜柑、ありがと。大好きだよ。あたしの一番は翔だから、女子で一番好き』
双空はツンデレを決めていた。
というか、僕以外との会話でも、おぱ声が聞こえる。
発生条件がよくわからない。
(考えるだけ時間の無駄かもな)
「じゃあ、しょうくん。僕たち先に行ってるね」
杏と蜜柑さんはビーチバレーコートを離れていく。
同中の杏と蜜柑さん、傍からは同性の友だちにしか見えない。
女子になりたい杏にとって、女性は恋愛対象外。かといって、男が好きかと言われると、わからないらしい。
そんな複雑な杏を、蜜柑さんは自慢の包容力で受け止めている。
双空へ気配りしたり、僕がエッチでも笑って許してくれたり、杏を理解したり。
蜜柑さんは尊敬できすぎて、たまらない。
蜜柑さんみたいな人が双空の親友で、ホントに良かった。
なのに。
「翔、蜜柑のこと好きだよね?」
「えっ?」
「美人で優しいし、胸も大きい。翔がエッチな目で見ても怒らない。翔が好きになるのもわかるかな」
幼なじみは自分にウソを吐き、僕の本音もわかってくれない。
だから。
「蜜柑さんは尊すぎるから、僕みたいな変態が汚しちゃいけない人なんだよ」
思っていることを半分だけ言う。
僕も双空ほどではないけれど、素直になれないらしい。
「んなことより、ウォータースライダー行かないのか?」
これ以上、話したくないので話題を変える。
「行かないとは行ってない」
仏頂面で答える幼なじみの姿に安心する。
ウォータースライダーの乗り場に移動する。二人乗りだった。
係員の若い女性は僕たちを見て。
「カップルさんですね」
盛大な誤解をする。
(恋人にしてはカノジョが冷めすぎでしょ⁉)
案の定。
「いや、エロ魔神、あたしの宿敵だから」
双空は僕を敵認定したし。
本音では、『お姉さん、さすがわかっていらっしゃる。このプール従業員の訓練が行き届いているのね。パパに頼んで、会社を買うのもあり』と、係員を褒めまくっていた。
なお、双空の父親は経営者をしている。運営会社を買収できるほどの金持ちかどうか不明だが、相当忙しい人だ。
もっとも、お姉さんにおっぱいの声は聞こえず。
「し、失礼しました」
引いていた。
それでも、お姉さんはすぐに落ち着きを取り戻し、仕事モードになる。
「男性の方が前で滑り台に座ってください。女性は後ろでお願いします」
指示どおり座る。適度に冷たい水が足を濡らす。
双空を待っていたら。
――むにゅ。
背中に大変柔らかいものが当たっている。
双空の腕が僕の腹を掴む。
首筋を吐息が撫でる。
それらの状況で察した。
背中のソレはおっぱいだ。
しかも、僕たちを遮るものは薄いビキニのみ。実質、生乳に触れているのでは?
熱い。まるで、温泉に入っているかのように体が火照っていた。
心臓がバクバク鳴る。
「翔、懐かしいね」
「ああ。小学生のとき、よくふたりで乗っていたよな」
あのときはお互いに発達していなくて、意識はしてなかったけれど。
「……あたし、ドキドキしてるの」
珍しく、双空が素直になる。
「僕もだよ」
今度は僕も本音を答えた。
幼なじみに抱きつかれたまま、滑る。
ドキドキしすぎていて、ほとんどなにも感じなかった。
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