第11話 プールでのマナー

 まんまるメロンおっぱい。おっぱい。


 緑色の布地に、白のラインが格子になった、ホルターネックのビキニ。

 たわわに実った双丘もあいまって、おっぱいがメロンにしか見えない。


 名前は蜜柑なのに、おっぱいはメロンだった!


 双空の胸も僕好みではあるけれど、蜜柑さんはさらに二回り大きい。

 もちろん、サイズがすべてとは思っていないが。

 高級感あふれるメロンを食べてみたくなる。


(甘そうだなぁ)


「翔、ガン見してる」


 双空に指摘されてしまった。

 僕としたことが失敗した。


「胸を拝むときは相手に気づかれず」がマナーなのに。

 最強のおっぱいマナー講師を自負していたのに、まだまだだ。


「あらあら、翔くんも男の子なのねぇ~」


 当の蜜柑さんは笑顔で受け入れる。

 不機嫌さがまったく感じられない。

 仮に本音を隠しているのだとしたら、たいした演技派女優だ。


「蜜柑さん、誰かとちがって甘くて、惚れそう」


 塩対応の大丘双空さんと、砂糖対応の砂糖蜜柑さん。

 塩と砂糖が友だちになったのが、いまだに謎だ。


「あのー、しょうくん、ボクの水着も見てくれるかな?」


 杏が上目遣いで、不安そうに言う。


「杏、かわいい。僕と結婚しよう」


 水着を見るまでもない。けなげな態度だけで守りたくなる。


 とはいえ、杏におねだりされた。水着もチェックしよう。


 オフショルダーのビキニ。白ベースに赤や黄色などの花模様が飾られている。フリルがあるので、平淡な胸も気にならない。


 物理的な性別は男子でありながら、体格は華奢で丸みを帯びている。体毛もほとんどない。

 上半身立派な女子だった。


(はぁ~)


 内心でため息を吐く。

 これだけキュートにもかかわらず、下半身には例のブツがあるのだから。

 おそるおそる視線を下げる。


(あれ? 男のアレはどこにあるんだ?)


 下はスカートタイプの水着で、男の部分が少しも膨らんでいないのだから。


 アレが観測されなければ、男だとは断定できないわけで。

 シュレディンガーの一物いちもつ


(これ、実質、女子でいいよな)


 本人が女子になりたいし。もはや、女子認定。

 なだらかなラインを描く太もも。双空や蜜柑さんと比べても、女子力では引けを取らない。


「杏。水着の選び方が神だ。どうみても、美少女だし」

「しょうくん、ありがと。だーいしゅき❤」


 杏は僕の腕に抱きついてきた。柔らかいものが腕に当たる。


(信じられないだろ、これでおっぱいじゃないんだぜ)


 美少女男の娘に抱きつかれて、周囲の視線が僕に集まる。


「あいつ、かわいい子に抱きつかれてうらやま」

「つか、他のふたりも巨乳なうえに超絶美少女じゃん」

「あんな野郎がハーレムとは世の中間違ってる」


 男どもに嫉妬されて、居心地が悪い。


「あのさあ、せっかくだし、写真撮らない?」


 僕は撮影用のスペースを指さす。


「翔、そんなに水着を撮りたいんだ」

『わーい、翔、あたしの水着で興奮してる。あたしのこと好きすぎ』


 双空は冷ややかな目を向けてくるが、おっぱいは喜んでいた。


「双空はオッケーみたいだし、蜜柑さんと杏はどう?」


 蜜柑さんは左手を胸の下に、右手で顎を触って、なにかを考えている。

 メロン乳が強調される形になり、ありがとうございます。


「せっかくだし、いいよ~」

「ボクも大丈夫」


 蜜柑さんと杏は視線を合わせ、うなずき合う。なにかを企んでいるらしい。

 プールの隅にある撮影スペースに移動する。

 壁に注意書きが貼られてあった。


『ご自由に撮影ください。

 SNSにアップしても問題ありません。

 ただし、絶対に被写体の許可を取ってからにしてください。

 また、見知らぬ人の姿が映り込んでいないか、SNSにアップする前に再度ご確認お願いします。

 No、盗撮‼

 当施設ではトラブルが発生しても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください』


 撮るのはいいけど、モラルを守ってねと言いたいようだ。

(マナー講師さん、こういうマナーを広めてくだせぇ)


「トリッターにアップするつもりはないけど、僕のスマホで撮るよ。この4人以外にばらまかないと、おっぱい神の名に賭けて誓うから」

「了解」

「翔くん、信じてるからねぇ~」

「ボク、女子の水着持ってるの、お姉ちゃんにも内緒にしてるから」


 合意はとれた。


 僕は台にスマホを置くと、カメラアプリにタイマーをしかけ、女子たちのところへ。

 僕が中央になり、美少女3人に囲まれる。


 ――パシャ!


 念のため、写真を確認する。バッチリだった。家に帰ったら、ソフトで加工しよう。


「ねえねえ、今度は翔くんと……そらちゃんで摂ったら?」


 蜜柑さんはニヤニヤする。


「そ、そうだよ。ボク、写真は得意じゃないから」


 杏は蜜柑さんの目を見て、棒読み気味に言う。

 ふたりの企みは、これだったのか。


(ふたりは双空の気持ちに気づいてるもんな)


 お世話好きの蜜柑さんが、素直になれない双空を気遣ったのだろう。

 せっかくの好意を受け取ることにした。


「じゃあ、蜜柑さん、撮影お願いできるかな」

「いいよ~お姉さんに任せて~」


 蜜柑さんにスマホを託すと、双空と横に並ぶ。


「そらちゃん、もっと笑顔になろうよ~」

「で、でも……」

『翔とふたりで写真なんて数年ぶりなんだもん。それに、水着だし……恥ずかしすぎるよぉ』


 照れているようだ。


「翔くん、リードしてあげて~」

「とはいってもなぁ」


 下手に僕が動いたら、塩対応を発動させる。


「とりあえず、そらちゃんの肩に手を回そっか~」


 蜜柑さん、グラビア撮影のカメラマンっぽい。蜜柑さんに言われたら、笑顔になりそう。むしろ、喜んで服を脱ぎたくなるかも。

 双空が文句を言う気配もないし、指示どおりにする。


(うわっ、女の子の素肌やべぇぇ!)


 肩なのに、この柔らかさ。肩でこれなんだ。胸はどんだけなんだろ?

 僕に肩を触られても、双空は身動きひとつしない。


(なにを考えてるのかな?)


 まったくわからない。

 おっぱいの声が聞こえないから。

 上の口が無言だと、おっぱいもしゃべらないのかも。


「ふたりとも笑顔きれいだよ~」


 連続してシャッター音が鳴る。


「ばっちりだよ~」


 どうにか撮影が終わったようだ。


「じゃあ、今度は僕が女子を撮るね」


 杏も含めて、3人がモデルに。

 やっぱ、美少女は絵になる。


 双空は銀髪、蜜柑さんは金髪。目立つ髪にくわえて、ふたりとも美巨乳の持ち主。人が集まるのも無理はない。

 杏も文句なしの美少女だし。


 あまりにも絶景なので、気合いを入れて写真を撮る。

 無我夢中になっていて――。


「許可してないのに」


 双空の怒りを含んだ声で現実に引き戻された。

 双空の視線の先を見る。

 大学生風のパリピがスマホを双空たちに向けていた。


(マナーを守れっての)


 僕は男に向かっていく。

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