第3章 そして、健康になった

第10話 水着イベント

 11月も中旬になり、だいぶ外が涼しくなった。


 そんななか、僕は上半身裸、下半身は水着という真夏の格好でいた。

 健康優良児の小学生ではないので、もちろん外ではない。


 広々とした屋内プール。健康ランドという名前の施設なのに、屋内プールがある素晴らしさ。


 窓からは明るい陽光が差し込んできて、砂浜をイメージした床に降り注ぐ。

 気分は完全に真夏だった。


 僕はひとりで女子の着替えを待っていた。


 先日、蜜柑さんの提案で遊びに行くことになったのだが。

 協議の結果、なんと屋内プールに決まったのだ。


(僕はなにも言ってないよ、運に任せてだからね)


 僕、日頃の行いがいいから、乳の神が水着をサービスしてくれたのかもしれない。


 巨乳女子2名と、かわいい男の娘の水着に期待を膨らませる。

 代償として、待ち時間が長いわけで。


 やることもないので、スマホをいじることにした。


 ここのプールはスマホ持ち込み可で助かった。

 みんな揃ったら、スマホで写真でも撮ろうか。


 なお、プールでのスマホ利用はセンシティブな問題である。

 仲間うちで合意を取ったうえで写真を撮るのは全然おっけー。許可さえあれば、SNSにアップするのも別に悪いわけではない。


 かりに、見知らぬ女性の水着姿が映っていたら?


 水着という非日常かつ、肌を露出する格好をしているわけで。

 盗撮にもなるし、かなりまずい。


 僕はおっぱい好きで変態ではあるけれど、犯罪者ではない。女性を不快にさせたり、プライバシーの問題を起こしたりはしたくない。


(おっぱいはルールを守って、楽しみましょう!)


 そんなことを考えながら、トリッターのタイムラインをぼんやり眺める。


 僕が構築したトリッターは、女の子のイラストで満ちている。

 水着や下着のみ、パンチラなどなど。


 二次元美少女を追っかける中。

 推しのイラストレーターさんの投稿が目についた。

 らぶすかい先生。アマの同人作家さんだから、「先生」は大げさか。


『うえぇーん。今日、投稿しようと思ったのに、描けないよぉ(T-T)』


 らぶすかいさん、弱音を吐いていた。


 珍しい。

 攻め攻めのえちえちイラストを積極的に投稿している人なのに。

 自分の記憶にあるかぎり、鬱ツイート的なものは初めてだ。


 ファンとして心配になってくる。

 まだ誰も来る気配がないし、リプ送っておくか。


『らぶすかいさん、いつも夕飯をおいしくいただいてます。過去絵を何度も見まくりますよ~。らぶすかいさんのペースで、ごゆっくりで、いつまでも待ってます。パイオツ星人ウイングより』


 送ってみた。


 その直後、背後でスマホの着信音が鳴った。

 おそらく、後ろを通りがかった人のだろう。


「翔、なにを見てるの」


 聞き馴染んだ、淡々とした声が耳元で聞こえた。

 振り返る。双空が突っ立っていた。僕のスマホを覗き込んでいる。


「また、エッチなの見てる」

「尊いって言ってくれ」

「尊い? これが?」


 双空が指摘しているのは、らぶすかいさんの過去絵で、二次元美少女の水着イラストである。


「うん、僕、このイラストレーターさんホントに好きでさ」

「へぇー」


 なぜか双空は声を震わせ、頬を赤らめている。

 僕のスマホをじっと見つめ。


「翔、そのアイコンでトリッターしてるの?」

「えっ、ああ。うん」

「そ、そうなんだぁ」

「その人の絵のどこが好きなのか、もっと言って」

「お、おう」


 双空さんの様子が明らかに変だ。

 僕と話しているのに塩対応じゃない。蜜柑さんと話すときみたいに声が弾んでいる。


 ちなみに、おぱ声は聞こえてこない。

(やっぱ、塩対応限定なのかな?)


「一番は質感のある……おっぱいかな」


 人の耳もあるので声を抑える。


「らぶすかいさん、女体への並々ならぬ愛情をお持ちの人で、イラストに現れてるんだよね」

「ふーん、変態ね。翔みたいに」


 急に塩対応になった。

 ………………。

 …………。


(おっぱいの声が聞こえないぞ)


 塩対応でも絶対ではないらしい。


「翔、その人のこと気に入ってるみたいなのに、変態だと認めるのね」

「はっ、おま、ふざけたこと言うなよ」


 つい、怒ってしまった。


「僕をバカにするのは別にいい。けどな、らぶすかい神を変態など言語道断。彼はなあ、僕たちおっぱい星の住人のために身を捧げてるんだ」

「わっ、わかったから」


 双空は真っ赤になって、もじもじする。

 会話はそれっきり終わり。


 無言になったので、双空の水着を観察することに。

 銀髪と水色のビキニって最高の組み合わせかもしれない。


 それに――。

 大きい。上向いた形も。中央に寄って、見事に谷間もできていて。


 ごくり。

 思わず唾を飲み込んでしまった。


 3歳の頃から双空の水着は見慣れているけれど、立派に成長したもんだ。

 これで、僕に塩対応しなければ、文句なしに好きになっているのに。


(あっ、実は、こいつ僕が好きなんだよな)


 僕さえその気になったら、付き合う可能性もあって。

 おっぱいの声を真に受けて、がっつくのはどうかと思うけれど。


 今後の僕たちの関係を考える上で、試してみたいことができた。


「双空、水着かわいいぞ」

「……」


 反応がない。もっと攻めてみるか。


「僕好みのおっぱいだと再確認できたし、最高だな」


 セクハラなのは重々承知。


「翔の…………えっち」

『生きてて良かった。翔、いっつも蜜柑さんの胸ばかり見てるし、あたしのEカップ貧乳に興味ないと思ってたんだよぉ。あたしのおっぱいが好きなら、好きと言ってよ』


 おっぱいがデレた。



 少しは読めてきたかも。

 口では塩対応なのに内心ではデレているときに本音をダダ漏れさせる。

 それ以外のケースでは起こりにくい。


 おぱ声が聞こえる状況の整理はそんなところで。


 問題は呪いをどうやって解くか。

 今日はプールを楽しみつつ、裏ではヒントを見つけたいと思っている。


 どうやろうか?

 そう考えていたら。


「おふたりともお待たせ~」

「ごめんね、ボク、遅くて」


 美少女2人が登場した。

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