第3話 呪いを解くには?

 乳神に呪いを解除させたい。

 けれど、近くに双空がいると、塩対応とデレの声がうるさい。


 僕は本殿の脇にある木陰に移動する。


「なあ、呪いを解いてくれ」

『言うこと聞くと思うか?』

「じゃあ、解除条件ぐらい教えろ」


 おっぱいへの情熱に感動して敬語を使っていたが、呪いはウザい。タメ口に戻した。


『本来なら、ノーヒントなのじゃが……我はパイオツの神である』

「は、はあ」

『おっぱいは包容力と慈愛の象徴じゃ』

「おっしゃるとおりです」


 おっぱい=ママ。ママの癒やしパワーに満ちている、尊き存在じゃ。


『それゆえ、特別にヒントを与えてやる。耳の穴をかっぽじって聞くがええ』

「ははぁ」


 仰々しく頭を垂れながらも。

(態度がデカすぎて、包容力のかけらもないし⁉)

 内心では突っ込んでいた。


『双空嬢、表向きはツンツンしておるが、裏では滅茶苦茶デレているじゃろ?』

「そ、そのようだね」

『人は誰しも本音をストレートに語るものではない』


 ギクッ。


 数秒前の僕のことですか?

 いちおう相手は神。シラを切ることにした。


「うん、僕、蜜柑さんの胸を揉みたいけど、さすがに言えないからね」


 双空の本音情報だと、Gカップ。制服越しに見ると、きれいな形をしているし。

 見たい。揉みたい。顔を埋めたい。


 でも、僕は幼稚園児じゃない。

 欲望のままに動いたら、破滅する。

 湧き上がる感情を自我がコントロールして、社会生活を送っている。


『うむ。人間は子どもから大人へと成長するにつれ、本音と建前を分けるようになるのじゃ』

「うん」

『抑えた欲望はどうなる? そなたはGカップを揉みたい思っておる。じゃが、実際にはできん。我慢して欲求は消えると思うか?』

「いや、ムリっす」


 男子高校生の性欲を舐めたらアカン。


『そうじゃ。エロ動画を見たり、エロマンガやエロ小説を読んだり。VTuberの配信を見る。小説を書く。マンガやイラストを描く。スポーツをする。美味しいものを食べる。他にもいろいろある』


 心当たりがありすぎる。


『人は衝動を逃して、己を制御しておるのじゃ』


 二次元のエロがなかったら、僕もどうなってるか……?


『問おう。エロコンテンツだけで、そなたは欲望を満たせたか?』


 深遠なる質問だった。腕組みをし、しばらく考える。


「厳しいかな」


 僕にも友だちはいる。同じクラスの杏だ。

 杏は僕がエッチな話をしても、笑顔で受け止めてくれる。

 杏に本音を話して、どれだけ気が楽になったか。


『本音を隠してばかりだと息苦しくなる人が多いのじゃ。あくまでも、一般論にすぎないがな』

「一般論?」

『世の中には完璧に擬態できる人間もおる。性欲があっても、エロから解放された人もいるのじゃ』


(修行を積んだお坊さんとかかな?)


『特別な人間じゃ。ほとんどの人間は本音を見せないと、どこかで無理がたたる』

「は、はあ」

『双空嬢は本音では滅茶苦茶デレているが、建前は塩対応。親友の蜜柑とやらですら、そなたへの気持ちは言ってはおらぬ』

「そ、そうなんだ」


 なんで、乳神が知っているのかと言いたいが、腐っても神。呪いをかけたように頂上の力を使っているのかもしれない。


『双空嬢はあれだけのギャップを抱えておりながら、誰にも本音を語らぬ。もはや異常の領域じゃ』


 我が幼なじみ、神様からの異常認定されてしまった。


『じゃが、双空嬢は特別な人間ではない。心にダメージを負っているはずじゃ』

「そ、そうなの?」

『そなたの目は節穴じゃな』

「だって、無表情で塩対応するし。感情が見えないんだから」

『ここからが結論じゃ』


 言い訳していたら、急に話が進んだ。いちおう気を引き締める。


『そなたが本当の双空嬢を理解して、彼女の心が解放されたとき』

「う、うん」

『そのとき、呪いは解除される』


 ようやく、解除条件を聞きだしたと思いきや。


(こりゃ、ダメだ……)

 勝利条件が曖昧すぎる。


 本当の双空って誰がどうやって観測するの?

 同様に、双空の心が解放されたって、誰がどうやって判定するの?

 戦略ゲームだったら、炎上するかも。


 そのあたりの不満を伝えると。


『塩対応ができなくなるほどの絶頂に導けばいい』

「わかった。絶頂させればいいんだな?」


 ……………………って。


「絶頂って?」

『実質セッ○スじゃな』


 ぼかしておいてくれた方がマシだった。

 オッパイ星人の僕とはいえ、健全な高1。16歳と2ヶ月。童貞。刺激が強すぎる。


『おっと、ついうっかりヒントを出しすぎてしまったようじゃ。我は寛大じゃからな』

「……」


 マジで困った。


(セッ○スしないと解けない呪いなんて、エロマンガだろ⁉)


 真に受けて、双空を傷つけてしまったら?

 くだらない理由で、双空の大切なモノを奪うわけにはいかない。


 呪われたままの方がマシだ。


 ノーを叩きつけようと思ったら。


『ウソぴょーん』


 やたら軽いノリで神は言う。のじゃはどうした?


『セッ○スは必須じゃないぞ。あくまでも、双空嬢の心を解放することが大事なのじゃ』


 結局、遊ばれただけか。勝利条件がわからない。


「おい、乳神、ふざけんなよ」


 文句をつける。

 が、10秒以上待っても反応がない。

 もともと声しか聞こえないので、近くにいるのかすら不明だ。


「おい、乳神。どこに行った?」


 再度呼びかける。

 応答なし。乳神、ないなった。


「クソッ。乳神め。せめて、姿を見せて、おっぱいを揉ませろ!」


 つい、悪態をつく。

 すると。


「翔」


 いつのまにか、双空が横にいた。大声を出して、見つかったらしい。


「とりあえず、通報するね。○んじゃえば」

『乳神って誰? あたし、翔の交友関係はチェックしてるけど知らないよ? まさか、あたしの目を盗んで、浮気? 浮気されるなんて、あたしがバカだった。おっぱいを揉ませておくんだった』


 双空は冷めた顔で、スマホを取り出す。

 塩対応も、本音も怖すぎる。


(どう言い訳すんだよ?)


 目の前が真っ暗になった。

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