84限目 亜理紗の勉強①

 亜理紗の目の前にあったのは、国内でも有名な高級ホテであったため目を大きくした。


「シティホテル? 高級ホテルですわよ」


 亜理紗がぼそりとふくと、レイラはなんでもない顔して答えた。


「母が経営していまして、よく一室使用するのですわ」

「ーツ」


 亜理沙は驚きのあまり、言葉を失い口を押さえてレイラの方を見た。

 レイラはそんな彼女の笑顔を見せた。


 ホテルの正面玄関に車が止まった。

 敏則が後部座席の扉を開けるレイラは礼を言って降りた。亜理紗もそれにならった。


 亜理紗は高級ホテルに子どもだけて入る居心地の悪さから、心臓の音が早くなった。平然と足をするめるレイラから離れないようについて言った。


 エレベーターに乗り、カードキーを翳し最上階まで上がった。

 そこで降りると一番奥の部屋へ行き、カードキーをかざして扉を開けると、亜理紗に部屋に先に入るように促した。

 そこは、ベットなどある客室ではなく、ソファとローテーブルがある応接室であった。


「おはようございます」


 扉の前で優しげな笑顔で挨拶をしたのはリョウであった。


「……リョウさん。おはようございます」


 亜理紗が挨拶をすると、リョウは彼女をソファに案内いした。


「よろしくお願いしますわ」


 レイラはリョウに向かってそういうと、亜理紗の前のソファに座った。その隣にリョウは座ると、彼はローテーブルの横に置いてあった鞄から数枚のプリントを出した。そして、その上に鉛筆と消しゴムを置いた。


「なんですの?」

「中学生の総合問題ですわ。全教科入ってますわ」

「そうではなく……。出かけるのではなかったの」

「出かけましたわ。あ、兄の紹介がまだでしたわね」


 レイラはリョウに手の平を向けた。


「私(わたくし)の兄、大道寺(だいどうじ)リョウですわ」


 リョウは微笑みながら首を傾げている。


「同じ、桜花会ですから知ってますわ」

「そうですか。では何か知りたい事がありますか」

「この現状ですわ。何をしようとしているのですか?」

「亜理紗の学力確認ですわ」

「へ?」


 亜理紗は予想外の展開に頭がついていけなかった。


「このままでは学年上がれませんわよ。中等部は成績が悪くても留年はしませんが高等部は容赦ないですわよ」

「……」


 亜理紗は今までの自分の成績を思い出して、暗い顔をした。


「成績が悪いから以前の特待Aにバカにされたのですわよね。留年なんてしたらどんな待遇が待っているのかわかりますわよね。桜花会だからと胡座をかいていると大変な目にあいますわよ」

「……」


 亜理紗は一瞬レイラを見たが、すぐにプリントに視線を移すと鉛筆をとり紙の上を走らせた。鉛筆が動いたと当時にリョウはストップウォッチのボタンに触れた。

 そして、ノートに記載し始めた。

 レイラは亜理紗が問題を解く様子をじっくりと見た。


「終わりましたわ」

 プリントに書いたり消したりを繰り返して数時間後、全ての問題を解き終わった亜理紗がプリントの横に鉛筆を置いた。

 終わったプリントをレイラは全て確認するとリョウに渡して彼からノートをもらった。そのノートには一問に掛かった時間が記載されていた。


 リョウはレイラから渡された答案を見ながら、淡々と感想を言った。


「空白が多いですね。算数は単純計算はミスが多いでし、文章題も理解できていないようですね。英語はそもそも単語の意味がわかっていないのでしょう。理科は計算で落としていますね。社会はそこまで悪くない事から今まで暗記するだけの勉強をしてきたのですね。にしては英語が悪すぎます。ただ、字が丁寧ですね、間違っていますが、式もきちんと書かれているので間違えに気づきやすいです」


 リョウはプリントを彼女の前に置いて書かれている式を指さした。


「たとえば、この問題ですがここをこうすると… 」

「あ、なるほど」


 亜理紗はリョウの説明に頷き、解き直しを始めた。理解できると楽しいようであった。


「お兄様、それは違いますわ」


 しばらく、傍観していたレイラであったがリョウの説明に口を挟んだ。


「それだと、非効率ですわ。これは、この方がよろしいかと思いますわ」


 プリントに端にすらすらと式を書くとリョウは目を大きくしてレイラの顔を見た。


「これをどこで?」

「まゆらさんに教えてもらいましたわ」

「そうですか」


 “まゆら”という言葉を聞いてピクリと眉を動かしてリョウは苦い顔した。


「お兄様?」

「いや。レイラさんの言った方のがいいと思いますよ」


 そう言って、リョウは亜理紗の説明に戻った。亜理紗は、知る事の楽しさを理解できたようで次々とこなしていった。


 全ての問題が終わる頃には、時計の短い針が“3”の数字をさしてした。それに気づいたのはレイラだ。


「あら、夢中になってしまいましたわ。何か頼みますか?」


 レイラはリョウと亜理紗を見て、声を掛けたが2人は話に夢中でレイラの言葉が耳に入って来ないようであった。

 レイラは彼らの返事を待たずに備えつけの電話の受話器をとりフロントにつなげた。軽食と飲み物を頼むと電話を切り、先ほどと同じ席に座った。

 しばらく亜理紗の勉強を見ていると、扉をノックする音がした。

 レイラは返事して扉を開けると、ホテルの従業員が軽食のカートを持って現れた。


 すると、リョウも亜理紗の気づいたようでローテーブルを片付け始めた。


 従業員はローテーブルをきれいに拭くとサンドウィッチと紅茶を並べ、終わるとおじきをして部屋から出ていった。 

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