78限目 桜花会の黒歴史②

 香織は心底面倒臭そうな顔をした。その横で憲貞はワクワクした顔をしていた。


「はぁ、仕方ない」


 頭をポリポリと掻きながら、レイラの方を見た。彼女は話の内容が見えずに首を傾げていた。


「要は、桜花会の神格化話がでたんだよ。で、その中心となったのが憲貞なんだよ」


 投げやりに話をしているが、それでも憲貞のとても嬉しそうな顔をしていた。


「憲貞は馬鹿だけど、初等部の頃から生徒に人気があったからね。ただ、不安に思った今の生徒会の人間が特待Aを桜花会につける提案をした。第二の中村幸宏を出さないために監視の意味でね」

「そうなんですね」

「後、主従関係についてだっけ? ついでに私が話しちゃうね」


 そう言って憲貞の方を見ると浮かれた顔をしていた。こちらの視線に気づくと慌てて真面目な顔を作った。


「構わない」


 香織は憲貞の行動にため息をつきつつ話を進めた。


「これも中村幸宏が原因なんだよね。彼が気に入った桜花会の生徒がいたんだが彼女は黒服と付き合っていたんだよね」


 レイラは目を大きくした。現状、桜花会と黒服と友人関係になるのも難しい。


(学園外で知り合ったのか?)


 レイラのその様子に気づいた香織は穏やかに笑った。


「当時はそこまで桜花会と一般生徒の境がなかったら問題なかったんだ。けど、彼はそれが気に入らなくて脅して自分の側に置いていたんだよ。その時、彼が彼女に扇子を渡してそれを常に持っていろと言ったらしい。自分のものと言う証に使っていたみたいだね」

「それが、主従関係なんですの。でしたら、そんなもの失くせば良いのではないですか?」


 香織は困った顔をして「そうだね」と言った。憲貞はこの件の説明を全くする気持ちがないようで、黙って香織とレイラを見ていた。すると、香織がまたため息をついた。


「自ら間違っていたと桜花会は言いたくなかった。それでなくとも不信任案で生徒による反組織が誕生してしまったからね。だから、その制度は元々あったものとしたんだ。更に、扇子をもらい会長の側にいる事は名誉な事とした」

「そうなんですの」

「あれは素晴らしかったよ」


 すると、ずっと黙っていた憲貞が嬉しそうに言葉を発した。すると、また香織はため息をついて眉をひそめた。


「なんの話?」

「桜花会会長とその扇子の引継ぎには式典が行われるんだ。扇子の持ち主が次期会長に扇子を渡す、それを主従関係になる相手に渡すんだ。その時な、主従関係になり扇子を受け取るものは次期会長に膝をつくのだ」


 そこまで言うと当時を思い出しニヤニヤと笑いながら香織を見た。


「いつも私に偉そうな態度をとっておるからな。あの時はとても気分が良かった」

「そうか」


 楽しそうな憲貞に対して香織はめんどくさそうな顔をしていた。


「式典……、そうですわね」


 引き継ぎの式典が3月に行われる事は知っていたが、自分とは無関係だと思っていたので内心同様した。


(式典までに亜理紗とある程度、関係をよくしたいな。式典で暴れる事はないだろうけど……。しかし、うまくハマるように考えたな)


「以上が説明になる。何か疑問があるのか」

「いえ。ありませんわ。桜花会の信頼を取り戻す方法は憲貞様が考えたのですか? すごいですわね」

「……」


 レイラがそう言う、憲貞は頬をかいて視線を逸らした。何も答えない彼に、レイラは首を傾げて香織の方を見た。すると、彼女は笑いを堪えていたようだが我慢できなかったようで大笑いをした。


「香織……」


 憲貞はそんな香織の事を眉を下げて小さな声で呼んだ。先程の自信満々な態度は消えていた。レイラは黙って答えが出るのは見守っていた。


「ここで訂正しなくてもいいけど、レイラが真実を知った時憲貞の事をどう思うだろうね」

「ーッ」


 憲貞はレイラと香織の事を交互に見た後、覚悟を決めたようにつばを飲み込んだ。


「実はこの話は初等部の時から計画していたのだ」

「それはすごいですわね」

「計画していたのは現在の生徒会長である江本貴也だ。私も香織も彼の計画に乗っただけだ」


 レイラは目を丸くしていると、憲貞がばつの悪そうな顔していた。


「あの、生徒会長が計画していたことには驚きましたが、そんな顔しないでください。憲貞様が考えたと思い驚いていたので納得しましたわ」

「あ〜、レイラ、それはフォローになってないよ」

「え、あ、その……失礼いたしました」


 レイラが視線を地面に落とすと、憲貞は「構わない」言った。レイラがゆっくりと顔を上げて憲貞を見ると彼は笑っていた。

 そして、勢い良く立ち上がると、自分の胸に手を当てるとじっとレイラの方を見た。


「私の頭が良くない事は事実だ。しかし、好かれているから大丈夫だ。当時も江本会長が桜花会のために全力を尽くしてくれたのだ」

「そうなんですか」

「そうだ。その証拠に、今回の亜理紗の件も全て彼の案だ。彼は私を愛しているからな。なんでもしてくれる」


 いつの間にか両手を前出して、力説する彼にレイラは圧倒されて何も言えなくなってしまった。


「亜理紗の案件? もしかて、私(わたくし)を次期会長にすることも含めてですか?」


 憲貞は“しまった”という顔をして香織を見た。彼女はため息をついて首をふった。


 何も言わない憲貞にレイラは「分かりました」と一言言った。


「江本会長に愛さているって桜花会と生徒会は仲が悪いのではないのですか?」

「うむ。問題はない。私は全ての人間に愛されている。レイラ君ももっと私に素直になるといい」


 自信満々に言う憲貞にレイラ少し考えてから口を開いた。


「えっと、今日はありがとうございました。憲貞様、私(わたくし)は尊敬しておりますわ。これから会長の仕事教えてくださいね」

「レイラ君は私を尊敬しているのか。ありがとう」


 憲貞が心底嬉しそうに笑った。元々、顔の整った彼がそんな風に微笑むと絵になる。


(女子なら頬を染めそうな笑顔だな)

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