79限目 亜理沙と言う人間
学生証を機械にかざし、桜花会室の扉を開けて中に入ると部屋にソファに座る亜理紗が見えた。彼女はレイラを見ると付けると立ち上がった。
「レイラ……サ……マ」
言いづらそうに敬称をつけてレイラの名前を呼んだ。レイラはため息をついて彼女の近くに行くとソファに座るように促し、その隣に自分も座った。
亜理紗はじっと床を見ている。
「別に“様”をつけなくても構いませんわよ」
「では、レイラ。なぜ、亜理紗を助けたの?」
(助けられた事は理解しているんだ)
「え、可愛いから?」
「……なんなのよ。あのまま、事実を言えば亜理紗は桜花会退会、更に退学になったわ」
亜理紗は、あいからず床を見たままレイラに答えた。そんな彼女をレイラは微笑みながら見いている。
「おこらなかった未来はわかりませんわ」
「なんで、なんでよ。なんで、上手くいかないのよ」
(逆にこの行動で何が上手くいくと思ったんだ?)
亜理紗は、両手でスカートを握りしめてた。その手の甲に涙が落ちた。
「中庭で、扇子を見せびらかせば誰もが亜理紗がもらったと思うでしょ」
「桜花会の人間、しかも亜理紗が中庭にいれば近づきませんわ」
「なんでよ」
「怖いからですわ。黒服だけではなく、桜花会の後輩も威圧してますわよね」
「……そんなことは……」
亜理紗は思い当たることがあったらしく、少し考えてから「そんな事より」と言って涙を出てふき、話題を変えた。
「なんで、あそこで生徒会とか桜花会の役員の方々が出てくるのよ」
「苦情があったと言ってましたわ」
「亜理紗が中庭でゆっくりしているだけでなんで苦情なのよ。信じられないわ」
亜理紗が勢いよく顔を上げて、レイラを見ると彼女は困った顔をした。
「先程伝えたように、桜花会の人間、しかも亜理紗が中庭にいれば近づきませんわ」
「なんでよ」
(ループしてんな)
レイラがどう答えようか迷っていると亜理紗は自分の膝を叩いた。
「本当に信じられないわ。本当はあそこで全生徒が亜理紗が扇子の所有者であることを認めるはずだったのよ。そして、次期会長であるはずの圭吾様は“選ばれると思っていた”とお喜びになるのよ。香織様は、レイラに渡したことが間違えであったことにお気づきになるはずだったのに」
亜理紗は感情的になり、どんどんレイラに顔が近づいていった。
(やっぱり、可愛いよなぁ。アップで見ても可愛いと思えるのはすげー)
鼻が触れるくらいまで、顔が近づくとレイラの心臓は早く動き出した。
「ちょっと、聞いているの?」
「……え、あ……」
(えっと、桜花扇子の意味の説明しなくちゃいけねぇのか? でもなさっきの説明で理解する気がないなら良いかなぁ。めんどくさいし)
「それなのに、生徒会長が出てきて更に憲貞様が圭吾様と香織様を連れて亜理紗を追い詰めるなんて予想外だわ。更に査問会にかけられるなんておかしいでしょう」
「わ、私(わたくし)は想定内でしたわ」
早くなる心臓音が聞こえないようにレイラが下がるとその分だけ亜理紗がレイラに近づいた。
「なんでわかるのよ」
「な、な、なんで分かんないのですか」
レイラは近づく亜理紗の可愛らしい唇に目を奪われた。
(もう、これは、求められてるよな。いいよな。うん、合意だ)
レイラの中でプツリと何かが切れると、彼女は亜理紗の唇に自分の口をつけた。その瞬間、亜理紗は目を大きくしたがレイラが気にせず彼女を抱きしめた。
「うーん、うー」
亜理紗は力いっぱい暴れて、レイラから離れると真っ赤な顔して「何するのよ」と怒鳴りつけると共に右手が飛んできた。レイラ、彼女の細い腕を掴み動きを止めた。
(やっぱり、女の子の力はこんなもんだよな。彩花は強すぎだろ)
「貴女は、なんなのー。亜理紗の口は安くないのよ」
「あ、初めてでした?」
「当たり前よ。貴女なんかに奪われるなんて……」
キッと睨みつける目には涙が浮かんでいた。その顔を見ると、レイラは眉を下げて頬をかいた。
「あまりに、可愛い顔が近かったから……」
「可愛い、可愛いってなんなのよ。亜理紗は……」
「可愛いですわ。まぁ、今回(キス)のことは女同士ということでノーカンですわ」
「そんな、勝手ですわ」
そっぽを向く亜理紗にレイラは苦い笑いを浮かべた。
「大体、圭吾様のどこか好きなのですの」
「それは、家柄が良いですわ」
「私(わたくし)も悪くないですわ。桜花会の人間は皆良いですわ」
「……顔がいいですわ」
「私(レイラ)も綺麗ですわ」
「……優しいですわ」
「圭吾様の優しさに触れたことがありますの?」
「……それは、えっと、挨拶をすると笑顔で返してくれますわ」
「私(わたくし)も返しますし、香織様も憲貞様も同じですわよ。睨んで見下すのは亜理紗くらいですわ」
「……」
全て言い返されしまったため、それ以上亜理紗は声をあげることができず悔しげな顔していた。
「圭吾様はモテますわよ。だから、他の方にとられる……」
「だから、いいのよ。皆様が羨ましがる方と付き合えるなんて素晴らしいわ」
嬉しそうに笑う亜理紗を横目にレイラは「なるほど」と頷いた。
「つまり、学園の生徒が羨ましいと思う存在になりたいわけですわね。別に圭吾様と付き合うとかではなくてもいいでのではないですの?」
「え?」
「私(わたくし)と出かけましょうか」
「いえ、あ……」
驚いて固まっている亜理紗の両手を包むように握りとレイラはにこりと笑った。
「ついでに、兄も紹介しますわよ。大道寺兄弟とプライベートで遊んでいるというのは自慢になりますわ。では、明日、10時に迎えに行きますわ」
「え、あ、明日?」
突然で一方的な約束に亜理紗が驚いていると、レイラはどこかに電話をかけ始めた。そして、一言二言、言葉を交わすと電話を切った。
レイラはニヤリと笑って亜理紗の方を見た。
「なに?」
すると、亜理紗の携帯がなった。彼女は携帯を取り出すと表情された名前を見て顔を青くした。
「はい。お母様」
『今、大道寺家から電話があったわ』
「そ、そうなのですか」
亜理紗は驚きながらレイラの顔を見た。レイラはニヤニヤ笑いを浮かべている。
『どうやら、そこのお嬢さんが貴女と遊びたいから予定を聞いてきたわ。穀潰しにしてはよくやったわ。どうあれ、大道寺と繋がれるのは素晴らしいことよ』
「はい」
『絶対に粗相のないように気に入られなさい。そして、家族ぐるみで仲良くできるようにするのよ』
「はい」
『いいわね。やっと、役に立ってくれて嬉しいわ』
「はい」
電話が終わると、彼女はその電話を嬉しそうに握りしめた。そして、満面の笑みでレイラの方を見た。
「レイラ様、ありがとうございます」
「え? “様”つけ? 敬語?」
レイラが驚いて、亜理沙をマジマジ見ると彼女は携帯をそっとカバンにしまった。
「ええ。もう亜理沙にとってレイラ様は、レイラ様ですわ」
(いきなり、どうした。家使って強引に予定作ったから怒ると思ったんだが……)
「どうしたのですの?」
「レイラ様のおかげで、お母様が亜理沙を褒めてくださいました。役に立つと仰りましたわ」
亜理沙は自分の胸の前で手を組んで嬉しそうにレイラを見た。
「亜理沙はレイラ様の言うことなんでも聞きます。だから、絶対に捨てないでくださいね」
「ええ」
レイラは彼女の言葉に返事をしながら、幸せそうな亜理沙を見て同情した。
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