76限目 桜花会と生徒会

 レイラは彩香の頭をなぜながら、目を細めた。


(そういえば、主従関係と不信任案の成り立ちって……)


 レイラは彼女に聞こうと思って口を開けたが、彼女の笑顔を見ると思いとどまり口を閉じた。その様子に気づき首を傾げる彩花にレイラは笑顔をおくった。


(きっと、あまりいい話じゃねぇよな)


 今までで一番嬉しそうに笑っているので、その気持ちを崩したくはなかった。


 その時。


 カチャリと扉の鍵が開く音がして扉が空いた。レイラと彩花はその音に反応してそちらを見た。

 扉から入ってきたのは憲貞と香織だ。

 二人は抱き合うレイラと彩花を見ると眉を顰めた。


「レイラ君何をしているのだ」

「え?」


 低いで憲貞は2人を睨みつけながら、言った。


「中村さんだったかな。レイラと仲が良いからと抱きつくのは少し図々しいんじゃないかな。彼女は桜花会だよ。黒服が気軽に触れて良い存在じゃない」


 香織の冷たい声が部屋中に響き、彩花は体をびくりと震わせた。そんな彼女をレイラはぎゅうと力強く抱きしめ、香織に反論しようとした時また扉の鍵が開く音が空いた。


 入室したのは貴也だ。


「そんなに強く言うことはないのですはないですか? 彼女たちは身分を超えての友情ですよ」


 貴也はそう言いながら、レイラと彩花の側にきた。


「友情? 桜花会の人間は全ての生徒に愛されるべきだが、特定の生徒と仲良くする必要はない。彼女は何かレイラ君から利益を得ようとしているのではないのかい」

「利益、天王寺会長は少し考えが汚れていますね」


 憲貞の方をクルリと向き、反論するとすぐに香織に睨みつけられた。


「汚れている……江本会長。それは少し言葉が過ぎますね。特待Sとはいえ黒服だ。立場をわきまえてほしいね」

「大変失礼いたしました。」


 貴也は丁寧に頭を下げて謝罪をすると、レイラの方を向き直った。そして、彼女に向かって頭を下げた。


「レイラ様、中村がご迷惑をおかけしました」

「え、いえ、そんな事は……」


 優しく微笑みレイラに謝罪をすると、彩花の方を向き「行くよ」と短く声をかけた。

 笑顔であったがそこから強い圧を感じレイラは素直に手を離し、彩花もすぐにレイラから離れた。その様子を見ていた憲貞は腕を組み目を細めた。


「しっかり、管理してくれたまえ」

「管理? 生徒会は優秀な人間ですから必要ありません。桜花会こそ管理をしっかりお願いしますね」


 貴也はチラリとレイラの方を見て言った。更に、憲貞が何かを言おうと口を開けたが言葉が発せられる前に貴也は彩花を連れて扉に行くと彼女に学生証を出すよう促した。


 2人はそれを内側のカードキーに翳(かざ)すと扉を開けてでて行った。


 2人がでていくと香織がにこりと笑い、憲貞は困った顔をしたためピリピリとした雰囲気はなくなった。


「レイラ、黒服と仲が良いのは構わないが生徒会の人間と親密な関係になってはいけないよ。いや、いけないと言うか……。桜華の学生に見られてはらない」


 先程とは全く違う、いつも優しい笑顔を香織は見せた。レイラがわけがわからず首を傾げていると、困った顔をした憲貞が口を開いた。


「桜花会の神格化がここの絶対の規則なんだ。それは、私たち子どもではなく大人のためなんだかね」

「桜花保護者会ですか」


 レイラは思い出した様にはっきりと言葉にした。すると、憲貞と香織は同時に頷いた。


「そうだ。保護者会とは名ばかりの大人のための集まりだよ」


 香織が鼻で笑うと「それで、この世界が変わるかもしれないからな」と憲貞が付け加えた。そしてレイラの方を見た。


「桜花会が神格化されると、たまに勘違いをした者もここに入ってくる」


 その言葉に、レイラは亜理紗を思い浮かべた。

 憲貞は困った様にな顔してほほをポリポリとかいた。


「すると、黒服の不満がたまる。それを全て受けて処理するのが生徒会なんだ。ほっとくと桜花会に対して対抗する組織ができる可能性があるからね」

「……」


 レイラは黙って憲貞の説明を聞いていた。憲貞はレイラにわかりやすく、更に彼女が傷つくことがないように言葉を選びながら話した。


「要は、桜花会と生徒会は相容れないと言う形をとっている。だから、桜花会に問題があれば生徒会に苦情が行く。生徒会はそれに全て対応するため黒服に信頼されたいるんだ」

「わかりましたわ」


(今頃、彩花も江本会長に同じ説明を受け取るのかな)


「本来は特待Aが桜花会の人間の暴走を止めなくてたはいけない立場にいるのだが……亜理紗君は難しかったようだ」

「特待Aも不満があれば生徒会に言うはずなんだけどね。桜花会の神格化を叩き込めれている特待Aが桜花会の人間を攻撃したのは驚いているよ」


 2人は顔を見合わせながら首を傾げていた。


(亜理紗をいじめてた以前の特待Aの話か)


 彼女たちを煽ったのが彩花であったのを思い出したが、レイラは必死にそれが顔に出ないようにニコリと笑顔を作った。


「だから、あまり強く出ない子をつけたらあの有り様だよ」


 香織は頭を抱えて大きなため息をついた。


(うん? 亜理紗の新しい特待Aの話か? )


 レイラは中庭で亜理紗に怯えて従う二人の男子生徒を思い出した。


「でも、レイラ君が引き受けてくれてよかった」

「そうだね」


 憲貞と香織は心底嬉しそうに、レイラを見た。

 レイラは自分が思っているよりも重い物を引き取ってしまったと後悔した。そして、これからの事を考えると不安になった。


「そんな顔をしないでくれたまえ。今年度は私も香織君もいる」

「来年は副会長の圭吾に書記の真人がいる。彼らは桜花会の立場も生徒会の立場も理解しているから力になってくれるよ」


 信頼されて、期待されている事が分かってるし自分が会長としてやっていける下準備をしてくれている事は理解しているが不安が取り除く事ができなかった。


「レイラ君、早速だが何か聞きたい事あるかい」


 憲貞はそう言いながら椅子に座った。それに続き香織も座った。レイラが不思議な顔して憲貞を見ると彼は眉を下げた。


「実は、レイラ君を次期会長に指名してしまったから、説明をしようと桜花会室で待っていたのだがなかなか戻らないから会議室に戻ってきた」

「憲貞は心配してたよ。何か事故でもあったのかもって顔を青くしてさ。隣の部屋だからそれは有り得ないって言ったんだけど見に行くって聞かないからさ」


 心配そうな顔をする憲貞とは対照的に香織はケラケラと笑っていた。レイラは「申し訳ありません」と頭を下げた。


(じゃ、ここで聞くしかねぇな)


 レイラは深呼吸をすると、彩香から聞いた“主従関係”と“不信任案”の話をした。そして、それらの成り立ちを聞くと、香織がレイラの横に落ちている本を指さした。


「それ、生徒会の? 中村さんに見せてもらったのかな」

「あ、はい」


 レイラは慌てて自分の横に落ちていた本を拾った。


 憲貞は顎に手を当て少し考えた。それから香織の方をチラリと見た。彼女がうなずくと憲貞はレイラの方に視線を向けた。


「君は、中村幸弘を知っているかい」


(また、お前か)

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