40限目 兄の愛
レイラがベットに入ろうとすると、窓が明るくなった。不思議に思ったレイラは窓の外を見た。
門の外に父、貴文の車が停止していた。その車のハザードランプがレイラの部屋を照らしていたのだ。
レイラは眉を寄せ、車の方を見た。
運転手の川野が後部座席の扉を開けると兄、リョウが降りてきた。扉の隙間が貴文の手らしきものが見えた。
(奴ら一緒だったのか? 襲われそうになった娘を放置してゆっくりご帰宅とはいい身分だなぁ)
リョウが降りるとすぐに車は出発した。リョウは彼を出迎えた家政婦ユリコに鞄を渡すと玄関へ入っていた。
(ユリコさんはいるのに……。トメさん、サナエさんはいない)
レイラは“ククッ”と笑い前かがみになり口を抑えながら、ベッドへ大の字に倒れた。
天井を見ると笑うのをやめた。
「レイラは愛させれてなかったのか。だから悪役令嬢になったのかな」
ぼーっと天井を見ているうちに瞼が重くなりレイラはそのまま眠りについた。
レイラが目を覚ますと窓の外はもう明るかった。ゆっくりとベットから起きて、椅子に座ると、パソコンを起動した。
メールサイトを見ると下書きがマークがついていた。レイラはすぐにそれを開いた。
まゆらが書いたものであった。昨日のお礼と桜華に入る決意が書かれていた。
レイラは返事を書こうとしたキーボードに触れたが……。思い返し、マウスを握り、メールサイト退会の所まで進める。
(クリックすればもうまゆタソと連絡はとれねぇ)
レイラはクリックしようとしたが、指が動かなかった。何度も挑戦するが指が震える。全身がまゆらと離れるのを拒否していた
(メールくらい、いいかなぁ)
レイラがマウスから手を離すと……。突然、横から手がのびてきてクリックボタンが押された。
画面に『退会を受付ました』と表示された。
レイラは驚き、勢いよく後ろを向くとそこにはリョウがいた。
「代わりにやっておきましたよ」
笑いながらそう言うとマウスから手を離した。レイラはリョウを睨みつけた。
リョウはそれに一切動揺することなく、ニコリと笑った。
「もう会わないなら必要ないですよね」
「―ッ」
レイラは更に眉間にシワを寄せ、拳を握りしめた。
(クソ野郎)
レイラがいくら睨んでもリョウの態度は一切変わることがなかった。レイラは睨むことの無意味さに気づいて、ため息をついた。
「なんのようですか? いくら妹とはいえ勝手に入室するなんて無礼ですわ」
「何を言っているのですか? 何度も扉を叩いのですよ。しかし、返事がありませんでした」
「返事がなければ、不在と思って諦めてください」
レイラは少し強めの口調で彼に伝えるとリョウは首をふった。
「そうもいきません。これから伊藤(いとう)カナエさんとの打ち合わせです。呼びにきました」
「そんなの、ユリコさんか誰かに頼めばいいではないですか」
「レイラさんと話がしたかったので、引き受けました」
「話……?」
レイラはため息をついて、パソコンの方を向いた。レイラの目に『退会を受付ました』という画面が映り気持ちが沈んだ。
「お兄様と話すことはありませんわ」
「そんなにつれないこと言わないでください」
リョウはリョウなりに何か考えていることはレイラも感じていたが、パソコン画面を見ると今、笑顔で話せる気分にはなれなかった。
しばらく沈黙が続いた。
「すいません」
その沈黙を破ったのはリョウだ。
チラリと彼を見ると落ち込んでいるようであった。その姿を見ると自然と力が抜けた。
(まぁ、オヤジに昨日“あー”言った以上、まゆタソとの連絡は切らなきゃいけなかったしな。俺の甘えをとめてくれたんだよな)
レイラはパソコンの電源を落とし、ゆっくりと立ち上がった。目の前には自分より背の高いリョウがいた。
彼は眉を下げて、レイラを見ている。レイラはチラリとベットの横にあるテーブルと椅子見た。
その意図を理解したようでリョウはパッと表情を明るくした。
「私の質問にまず答えてください」
「勿論ですよ」
レイラはゆっくり椅子に座った。リョウは彼女の後を追い、彼女の対面にある椅子に腰を下ろした。
座るとレイラは一度深呼吸をした。それから笑顔を作りゆっくりと話した。
「まずは昨日、最終判断は私ができると言っていましたよね。それは何に対してですか?」
リョウはテーブルの上で手を組み困った顔をした。
「婚約者の件です。父が言った通りあくまでも候補ですので」
「そうですか」
(それは結果的に白紙になったからまぁいいか)
「私が図書館であった方になぜ、お兄様は会われたのですか」
レイラの言葉に、リョウは一瞬言葉につまり目を泳がせた。レイラはそんな彼をなにも言わずに見ていると、“うーん”と唸ってから口を開いた。
「それですか……。少し前、父が帰宅したのをご存じですか?」
レイラは窓から父の車を見た日の事を思い出した。
「知ってますが……」
(なんだ? 誤魔化そうとしているのか? なら、質問変えるか)
レイラは少し考えてから質問した。
「父と会ってまゆらさんの話をしたのは登校日の前日ですの?」
すると、ばつの悪そうな顔して小さな声で答えた。
「……いえ。もう少し前です」
(まゆタソの名前で誰だがわかったようだな。彼女の事は前から知っていたのか)
リョウは眉を下げ悲しげな顔をした。
「私たちは大道寺です。それを利用しようとする人もいます」
(なるほど。“私たちは大道寺”の言葉の意味はそっちか。まゆタソが家を利用しようとしているから彼女に会って忠告したのか)
「私(わたくし)の交友関係を父に伝え妨害したのはわかりましたわ。ではぜ、私(わたくし)の交友関係や行動をご存知なのですか?」
「……」
リョウは目を大きくして固まった。そして、下を向いて首をふっている。
(なんだ? そんな、言いづらい事したたのか? あ、そうか。初等部のとき)
レイラは初等部に入学したころ毎日、そばにして自分のことを何でも知っていたリョウの事を思い出した。
(授業中もだったから、教師に注意をうけていたな)
「私(わたくし)の事を追っていたのですか?」
リョウは目だけを動かしてレイラを見ると、眉を下げて何も言わずにじっとみた。レイラはその姿に怯(ひる)んだ。
(きれいな顔で上目遣いをされると、相手が男でも戸惑うな)
レイラは少し考えてから「お金」とぼそりとつぶやいた。
その言葉を聞いた途端、リョウは真っ青な顔になり下を向いた。レイラはため息をついて自分の髪をかいた。
(言う気はないのか。まぁ大方ストーカー行為だろうけどな。あ、でも盗聴の可能性があるのか。俺の乱暴な話し方知ってたもんだ。盗聴器どこだろう。部屋か? 俺にはついてないような。毎日違う服着てるし。まさか埋め込み……? いや、こわ。考えるのやめよう)
レイラはチラリとリョウを見るとからは床を見て何も言わない。
(黙秘権ってやつか? しゃーないな)
「とりあえず、私(わたくし)は自分の宣言どおり“しばらくは”まゆらさんと距離をとりますので二度と彼女を怯えさせることはしないで下さい」
リョウは「しばらく……」と言う言葉に引っかかったようでその言葉をオウム返しすると黙り込んだ。
(なんだ? まだ何かするつもりか? あぁ、めんどくせいな。大道寺なんかに生まれたから自由がマジねぇ。う? 大道寺? あ、ソレじゃなくなればいいじゃねぇ? まだ、仕事出来ねぇ年齢ってのが痛いが施設でも行くか。うん)
レイラはパチンと手を叩いた。すると、リョウはレイラの方を見た。
「もし、これ以上彼女に何かするのであれば私(わたくし)は家を出ることにしますわ」
「え」
レイラの言葉に、リョウは大きな声をあげて立ち上がった。
「何を言ってるのですか? あなたは中学生ですよ。ここを出たら何も一人ではできませんよね?」
「働く以外はできますわ」
(前世、一人暮らし歴は長いんだ。それに今は頭もいいときた。なんとかなるだろ)
「できません」
リョウはキッパリとレイラは否定すると目を見開いて、首を大きく振った。
「レイラさんは外の世界を知らなすぎます。大道寺家での、この家の生活はとても恵まれている環境ですよ。普通じゃありませんよ」
(そりゃそうだ。こんな金持ちそうそういねぇよ)
必死になるリョウをレイラは冷めた目見ていると、「聞いてますか?」と大きな声を出された。レイラは彼の言ってることはよく理解できたし、子どもの自分に信用がないことも分かっていた。
「では、こうしましょう。一度家を出ますわ。それで……」
「ダメに決まってます。もう、わかりました。今後、彼女と接触することがありましたら妨害はしません。むしろ歓迎しましょう。これでいいですか? 勿論、父にもその旨は伝え反対されても戦いましょう」
リョウは手を握り、力強く言った。まるでやけになっているようであった。それを見て、レイラはにこりと笑った。
「わかりましたわ。お兄様は私(ワタクシ)が心配なのですわよね」
「当たり前です」
鼻息を荒くして語る兄をレイラは嬉しく思った。
(なんだ、レイラ愛されているじゃねぇか)
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