4限目 図書館

「椅子を私の方に寄せて下さり、嬉しいですわ。そんなに私の事が気になるのかしら」

「え……、はい」


 顔を赤くして、視線を逸らすまゆらを可愛く感じたが不思議だった。


「私たち初対面ですわよね?」


(俺は前世の記憶でまゆらがわかったが、まゆらは入学して始め各キャラと合うと思っていたんだが違うのか? まさか、過去の因縁みたいな?)


「あ……」


 まゆらは眉を下げ首を傾げてレイラの顔をみた。顔を傾けたため眼鏡がずり落ちた。それをまゆらは慌てて抑えている。


(なんだ、それ。マジ、カワユス)


 レイラはそんなまゆらが可愛くて、微笑みながら見ていた。


「え……あの、私……」


 レイラはにこにことし、頷きながら彼女の次の言葉を待った。

 まゆらは右手を左手で包み、それを胸の前に持っていき、呼吸を整えた。


(こんなに緊張するなんて、まゆらは人見知りなんだなぁ。ネットでは積極的って話だったがまだ中学だからか?)


「私、レイラさんの事知っていたのです」

「え?」


 その言葉に驚き思わずレイラは声を出してしまった。“転生者”という言葉がレイラの頭をよぎった。

 思わず、レイラはまゆらのことをじっと見た。すると、彼女は目を伏せて小さな声で話した。


「あぁ……ごめんなさい。私、何度も図書室でレイラさんを見かけて……綺麗な人だと思って……ごめんなさい。気持ち悪いですよね」


 まゆらは顎に手をあてて、目をキョロキョロと動かし床を見ていた。

 それを見てレイラは安堵して穏やかに笑った。


(まゆタソはまゆタソだった。てか、俺(レイラ)はまゆらに好印象スタートなのか? 俺として嬉しいがゲームてはどうなんだろう。俺(レイラ)はまゆタソをいじめるだよな? 違うのか?)


 ゲームの内容がわからないレイラは戸惑ったが、頭を下げるまゆらは可愛く思えて、優しく肩を優しく撫ぜた。


「気持ち悪くなんかありませんわ。むしろ、キレイと言って頂けて嬉しく思います。だから頭を上げてください」


(俺(レイラ)はめちゃくちゃ美人だからな、見とれるのもわかる)


「本当ですか」

「ええ」


 まゆらはレイラの言葉に、ゆっくりと頭を上げ嬉しそうに微笑んだ。


「えっと、それで敬語の理由でしたわね。もったいぶるような形になってしまいましたが、たいした理由ではありませんわ」


 まゆらは頷きながら、真剣な顔でレイラをみた。あまりに真面目な顔にレイラは話しづらさを感じていた。


「だだ、家の決まり事だからですわ。ね、たいしたことありませんでしょ」


(2人きりならともかく、公共の場はマズい。誰に聞かれたらメンクドクセーんだよ)


「決まり事ですか……?」

「そうですわ。私(わたくし)の家では話し方も服装も全て決まっていますの」

「そうなんですか……。それは誰が決めるのですか?」

「誰……? うーん、母か父でしょうか……?」


 まゆらの質問に曖昧にしか答えられなかった。レイラはレイラの課せられている物を誰が決め居ているか分からなかった。

 最終的承認するのは父であるが、言葉遣いや立ち振る舞いはマナーにのったものだ。そのマナーを行うと決めのは誰かわかない。ただ、外で粗相があるとトメを通してか、また両親から直接怒られる。

 服についてはトメがいつも着せてくれる。


 レイラは今着ている白いワンピースを見た。


「なんであいまいなんですか? その今着ているワンピース自分で選んできたのではないのですか?」

「いいえ。家政婦が着せてくれましたわ」

「そうんなですか」


 まゆらは不思議な顔でレイラの顔を見た。


(そーだよな。中学なれば服くらい自分で選んで着るよな。楽だったからつい甘えちゃってたな。まぁ、トメがいるかぎりやめるきはねぇけど)


 まゆらは目を大きくしたまま何も言わずにレイラを見ていた。しばらくして、ゆっくりと口を開いた。


「ここにいるのもですか? 誰か行くよう言われたのでしょうか」


 遠慮がちに言うまゆらにレイラはハッキリと返事を返した。


「それは違いますわ。図書館へは私の意思で来ておりますの」


 まゆらは心底嬉しそうに「そうですか」とはにかんだ。


「では……あの、私の本を取ってくれたのは……?」

「私の意思に決まってますわ」


 そう言いならレイラはまゆらの顔をじっと見た。


(もしかして、俺(レイラ)の行動が全て誰かに決めれてると思ってるのか? うんわけ、ないだろ。意思を持った人間だぞ)


「そうですよね。私が困ってから助けてくれたのですよね。すいません……変な事聞いてしまった」

「いいえ。服などを決められていると言ったから、私が家の者の言いなりになっているように感じたのですわよね」


 レイラは優しく笑いかけた。


「話し方や服は幼い頃からですのでそれが普通になっているだけですわ。それと、本を取ったのは貴女が気になったからですわ」


 ニコリとレイラがほほ笑むとまゆらの頬が真っ赤になった。そして彼女は両手で頬を抑えながら身体をゆすっていた。


(ヤバ、カワユス)


「そうですわ。一緒に勉強しませんか? 私、ソレよく分からなくて困っていたのですわ」


 レイラはテーブルに置いてあるさっき、まゆらにとってあげた本を手の平を上に向け4本指でさした。


「え?これですか……?」

「それの前の巻で構いませんわ。理解していらっしゃるのですよね?」

「は、はい。私でよろしければ」


 嬉しそうに元気よく承諾した。そして、テーブルに置いてある本の前の巻を鞄から取り出すとテーブルの上に置いた。


「これですよね。えっと、どこが分からないのでしょうか」


 まゆらはそう言って、ゆっくりと本のページをめくり始めた。レイラは、彼女がめくる本の内容をじっと見た。そして……。


「ここですわ。ここがどうしてこの様に解釈しているのか理解できなかったのですわ」


 レイラが手のひらを見せて四本指で本のページをさすとまゆらはゆっくりと頷き説明をはじめた。

 まゆらの説明はとても分かりやすく目からウロコが落ちた。本来、分からない問題はすべて学校の教師に聞くが今は夏休み。

 家庭教師を雇うという話があったがレイラはそれを断っていた。習い事が多くウンザリしていたため、成績を落とさない条件で家庭教師の話は流れた。


 しばらく、まゆらの話を聞いた後レイラは自分の左うでにある時計を見て、眉を下げてまゆらの顔をみた。


「もう、こんな時間ですわ。申し訳ありませんが、お暇させて頂きますわ」

「そうですか」


 まゆらは本から目を離さずに静かに言った。


「ええ、今日は本当にありがとうございます」


 そう言って、レイラはテーブルの上に出した私物を片付け始めた。その間もまゆらは本を見たまま動かなかった。


(なんだ……?)


 まゆらはいきなり立ち上がった。そして、レイラをしっかりと見た。


「あの、これきりになってしまうのは寂しいので、連絡先を教えてもらえますか?」


 まゆらは緊張気味に言った。レイラは自分に興味を持ってくれたのがとても嬉しく顔が自然と笑顔になった。


(マジ、まゆタソ俺(レイラ)と仲良くしたいの? やりー。友だちになれんじゃん? 女、最高だな)


「連絡先? 勿論ですわ。座ってくださいますか?」


 まゆらは「はい」と返事をすると椅子に座った。それを確認したらレイラはタブレット端末とメモ帳を取り出した。レイラはメモ帳に文字を書くとそれを渡した。


『ではフリーメールを作りますわ。そこでメッセージを書きたら下書き保存してください。私はそれ見ましたらすぐ消して、返事を書きますわ。それも下書き保存しますのでまゆらさんも同じようにしてください』


 まゆらはそれを見るとしっかりとレイラの方を見て頷いていた。そして、レイラが操作する画面を見て、フリーメールのアドレスとパスワードを丁寧にメモっていた。

 レイラはまゆらがメモを取り終わると更にメモ書きを渡した


『私宛のメール内容や電話番号は全て親に転送されます。しかし、アクセス許可が出ているサイトへの接続はその限りではありません。私の家は友達も制限します。まゆらさんは私が自分で選んだ初めてのお友達ですので親に否定されたくないのです。不便かけて申し訳ありません』


(へへへ。友だちとかいっちゃった)


 そのメモを見たまゆらはゆっくりと首をふった。


「ありがとうございます。私のために……」


 レイラは腕時計を見て慌てた。運転手との約束まであと少しであった。


「それではごきげんよう。そのメモは必ず捨てて下さいね。もし誰かに見られたら二度会えなくなるかもしれませんわ」


 レイラはお辞儀をすると、まゆらの返事を聞かずに鞄を持って廊下へ向かった。歩くと走るの間の速さで玄関へと向かった。


(マズイ、マズイ、マズイ……)


 玄関につき腕時計を見ると、多く深呼吸をして呼吸を整え、汗を拭き身なりを整えた。そして、来た時と同じようにセミが鳴く道を歩いた。降車した場所までくると道路を走る見覚えのある車が見えた。


「お待たせいたしました」


 そう言って運転手は後部座席の扉を開けた。

 レイラはチョーカーを首からとると運転手に渡し「ありがとうございます」と一言伝えると車に乗り込んだ。

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