美術室の怪


 昇降口に立つと、校舎の中から悲鳴が聞こえてきた。


 職員室にも聞こえているのだろうが、特に注意しに出てくるものもない。


 学園祭のあと、少しハメを外すくらいのことは、見逃してくれるようだった。


 校舎の二階と三階を回って、前のペアが出てきた。


「行くか」

と柊が言う。


 うん、と澪は、空気がひんやりしている夜の校舎に柊とともに入っていった。




 月明かりに照らし出された階段を上がると、美術室の前に出た。


「そういえば、ここ、美術の先生の霊が出るって言われてるんだよね」


「ああ、ときどき絵を描いてるみたいだな」

と普通にそこにいる人について語るように柊は言う。


 柊は霊が見えると口に出して言うことはあまりなかったが。


 子どもの頃、一緒に歩いていると、時折、足を止め、顔をしかめていたので、なんとなく察していた。


 そのとき、美術室の中から、声が聞こえてきた。


 ぼそり、ぼそりとなにか言っているようだ。


 つい、黙り込み、聞き耳を立ててしまう。


「……レン


   サイレン

       サイレン」


 サイレン?

と思ったとき、ガラッと柊が美術室の扉を開けてしまった。


 ひっ。

 こ、こういうときって、コソッと様子うかがったりしませんかね~っ?


 そう思いながら見た美術室の中。


 一瞬、イーゼルの前に立つ細身の男の背が見えて消えた。


「今のは……」


「昔、この学園の前で車にはねられた美術教師だろ。

 死んではなかったはずだが。


 こうして出て来ているということは、そのあと死んだのかもしれないな。


 ……それか。

 気にかかることがあって、生き霊を飛ばしているのか」


「ここではねられた美術教師なんて、ほんとうにいるの?

 怪しい学園の七不思議とかじゃなくて」

と澪は訊いたが、


「ただのウワサ話じゃない」

と柊は断言する。


「小学生のとき、見たから」


「えっ?」

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