満月ノ夜ニ
櫻井彰斗(菱沼あゆ・あゆみん)
肝試し
『満月ノ夜、
校舎デ サイレンガ鳴ッタラ
軍人サンニ連レ去ラレル』
うちの学園には七つもない七不思議がある。
ほとんどが何処かで聞いたような、よくある話なのだが。
そのうちのひとつだけは、真実であることを私は知っている――。
その日、歩いていた自分の前に人が飛んできた。
どうやら車にはねられた男が目の前に落ちてきたようだった。
地面に叩きつけられた男は切れ切れに小さな声で、繰り返し、なにかを言っていた。
『……レン……
サイレン……』
サイレン――!
午後八時、満月。
高校の学園祭のあと、勢いあまった
やがて、肝試しをしようと誰かが言い出す。
先生たちはまだ一階の職員室に残っているようだったが、他の階にはもう灯りはなかった。
だが、あまり怖くはない。
グラウンドには結構な人数が居たからだ。
「こんな人数でいっぺんに校舎に入ってったら、ユーレイが現れるスペースがねえよ」
と誰かが言って、どっと笑う。
「だいたい、うちの学校ってユーレイ出るの?」
と真知子が言い、澪の隣にいる亜衣が、
「そういえば、坂田くんのおじいちゃんって、お坊さんじゃん。
この間、満月の夜、この学園で軍人さんが行進してるの見たって言ってたよ」
と言う。
「なんで、坂田のじいさんに見えんだよ。
あのナマグサ坊主、絶対、霊なんて見えないからな」
と
「でも、ここ昔、兵舎があって、爆撃されたんでしょ?
夏にいつも慰霊祭やってるじゃない」
校庭の隅にある石碑を指差し、真知子は言ったが、俊夫が、
「でも、坂田のジジイには見えないよ。
お経あげてるとき、ジジイの頭に手をついてくつろいでる仏様がいても全然気づいてないって
なあ、柊」
と俊夫は澪の幼なじみの柊に言う。
霊が見える柊は少し笑って見せただけで、否定も肯定もしなかった。
幽霊なんて出そうにもない、なごやかな空気の中、肝試しははじまり、出席番号順に男女ふたりずつ出発することになった。
早く終わらせないと、先生に怒られそうだったからだ。
「あ、柊とだね」
と澪は横にいた柊に言った。
女子の大半は柊目当てなので、あとでみんなから吊し上げられそうだと思ったが、まあ、出席番号順だから仕方ない。
「
あとでなんかおごりなさいよ~っ」
と亜衣たちには早速睨まれたが。
先に入った人たちの悲鳴が聞こえる中、柊は黙って校舎を見上げていた。
白い整った柊の顔は無表情で。
幼なじみだが、こういうとき、柊がなにを考えているのか、さっぱりわからない。
柊は昔から子どもらしくないというか。
達観したような物言いで、落ち着き払っていた。
「次、柊と澪な。
そこの昇降口でスタンバイしてろ」
と俊夫が仕切ってくる。
はいはい、と澪は昇降口へとすぐに向かった。
怖がりなのだが、柊がいれば、なにも怖くない気がしていた。
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