第19話 魔法

 僕はルートの酒場に入る。


 夜になると常連客で賑わう酒場だが、昼間だとあまり客はいない。


 それでも、一人の男が隅の方で、チビチビとお酒を飲んでいる。


「いらっしゃい。何だ、領主さんか。酒を飲みに来たのか? サービスしてやるよ」

「あ、いや、今日は酒を飲みに来たんじゃないんです。ちょっとルートさんに話があったものですから」


 僕がそういうと、ルートは僕の耳に口を近づけて、呟く、


「それは、ほかの奴らには聞かれちゃまずい内容か?」

「え、ええ。そうですね」

「じゃあ、ちょっと来い」


 ルートは店の奥に僕を案内した。

 客一人いるが、放っておいても大丈夫なのだろうか。


 僕は心配になったが、ルートは全く気にする様子もなく、奥に向かう。


「それで、何だ話って」

「えーと、実は僕の力のことなんですけど」


 正直に魔法を増やせることを説明した。


「ま、マジで言ってんのかそれ?」

「はい」


 かなり動揺しているようだった。


 それもそのはず。魔法は平民にとっては、ほとんど別の世界の話であり、それを付けることができるなど、流石に簡単には信じられないようだ。


「実はプラウス湖に出る、湖賊団を討伐しようと思うのです。その後、交易船を入手して、安全な航路を確保して、交易を行うつもりです。誰かに魔法を使っていただけると、湖賊退治も、より楽勝になるかと」

「それで俺に魔法を使って欲しいと話をしに来たと?」

「はい、駄目でしょうか? ルートさん以外に頼める人はいなくてですね」

「正直、本当なのかどうか疑わしいんだが……アンタにそんな嘘をつく理由はない、ってことは分かっているんだがな……」


 どうやら信じきれないようだ。


「じゃあ、一回使ってみますか? 魔法」

「な、何?」

「魔法はあまり無駄撃ちしたくはないですが、低級の魔法なら身に付けさせる量も多いので、一回くらいなら無駄撃ちしても問題ないですよ。どうします」

「やらせてくれ」


 ルートは即答してきた。


 僕たちは酒場を出る。


 店に残された客は常連のようで、代わりに店番してくれと、ルートが頼むと、快く引き受けていた。


 誰もいない場所まで来て、僕はルートにローマジックアップを使用した。


 そして、サーチで何の魔法が使用可能になったか、調べる。


 ウォーターバレット。

 水の弾丸を撃ち出す低級魔法だ。

 正直、魔法の中でも威力は最下級レベルの、弱い魔法である。


 と言っても当たれば気絶するくらいのダメージはある。


「手を前に出して、ウォーターバレットって言ってください。あ、ただいうだけでなく、魔法を発動させる、と思いながら言ってくださいね。僕の方は向けないで。あの木に向けてください」


 ルートは僕の指示通り、手のひらを木に向けて、


「ウォーターバレット」


 と言った。


 一回で上手く発動に成功した。


 水の弾丸が木に直撃する。


「今のは弱い魔法でしたが、もしかしたら、もっと強い魔法が身につくこともありますよ」


 低級魔法だけでなく、中級魔法もローマジックアップでは、身つくことがあるようだ。


 中級魔法はこんな弱い威力ではない。攻撃魔法は、決まれば人は確実に殺せるほどの力はある。


「お、俺が魔法を……」


 ルートは衝撃を受けているようだった。


「アンタは俺が思っているより、とんでもないやつだったのかもな……」


 ルートはそう呟いた。


「魔法はいくつか付けてあげるから、湖賊との戦いに協力してくれるかな?」

「それは構わないぜ。確かにハクシュトアは昔から、湖賊どもには泣かされてきた。領主もいまいち討伐にやる気を出さなかったし……連中を一掃できるのなら、いくらでも力を貸そう」


 ルートさんはそう約束してくれた。


「えーと、それで僕が魔法を身につけることができる件だけど」

「分かっている。内緒にしておくよ。これがバレたら、帝国とかに狙われちまうかもなアンタ」


 まあ、それは間違いなくそうなるだろう。

 僕は犯罪者の身だからね……


 その後、僕は約束通りルートにローマジックアップの魔法を三十回ほど使用した。


 中級の攻撃魔法が運が良かったのか、十個身についた。これなら湖賊退治も問題なく行えるだろう。


 僕は館へと戻った。



 ○



 元領主代行ロンドの娘である、レンティはイライラした気分で、家に戻った。


 原因は、新しく領主になった男、ライルである。


 ロンドがハクシュトアのリーダーをしているのが、一番正しいと思っていた彼女にとって、彼が領民達に受け入れられていく様子は、とても平常心で見ていられなかった。


(なんで余所者なんかに……いつ裏切ってくるかもわからないし……どうせハクシュトアをよくしようなんて口だけだし……)


 彼女はとにかく外の人間を信用していなかった。


 小さいコミュニティしか知らない人間にとっては、ありがちな価値観かもしれない。


 酷い目に遭わせると言ったものの、具体的にどうするかは全く考えておらず、レンティは方法を考えた。


 思い浮かぶのは子供の悪戯程度のもので、良い方法は思い浮かばなかった。


 その時、家の扉がいきなり開く。

 入ってきたのは、近所に住む中年の男である。ロンドとは仲が良く、レンティも慕っていた。


「大変だレンティ! ロンドが湖賊団に攫われた!!」


 その言葉にレンティは衝撃を受けた。


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