第18話 レンティ

 湖賊討伐のため、僕たちは部隊作りを行った。


 話によるとプラウス湖には、かなり規模の大きな湖賊団が存在しているようだ。


 全員で500名くらい、団員がいるので領民たち全員で戦っても、数的には負けていることになる。


「数は問題ありません。湖賊は素人の集まりです。ライル様の力で、強化された人たちは、戦闘能力的には、精鋭兵と同レベルになりますので、兵の質は圧倒的にこちらが上です。それにライル様の成長魔法マジックアップを使えば、魔法を使用可能になります。ローマジックアップで、低級魔法を身に着ければ、湖賊は相手にならないでしょう」


 戦闘において、魔法の重要性は僕も理解している。

 一人でも魔法が使える者がいたら、相当有利になる。

 湖賊に魔法の使える人材がいるのかどうか分からないが、多分いないだろう。

 基本的にどこの国でも、平民に魔法は使えないという事になっているから、仮に使える人材がいたところで、自分に魔法が使えるという事を知らないはずだ。


「低級魔法は、ファリアナさんに付ければいいかな? 自分自身には付けることは出来ないし」

「いえ、私は魔法を使わなくとも、問題なく戦えますので。領民の中には、ライル様を非常に信用している方もいらっしゃいますし、その方にお使いください」


 信用している人か……

 まあ確かにいるにはいるけど……

 ルートに事情を話して、使ってもらうとかいいかも。

 彼は金を稼ぎたいようだから、交易の話には間違いなく賛成するはず。

 そのために、湖賊を討伐するという話にも、間違いなく乗るはずだ。


 ほかには誰が……

 まあ、いないけど、ルート一人でも魔法を扱えれば、それでだいぶ有利にはなるだろうし、問題ないか。


「分かった。あ、でも、ローマジックアップって、身に付く魔法の種類がランダムなんだよね。だから、何の魔法が身に付いたから分からない。魔法検査紙が必要になると思うんだけど」


 使えるようになった魔法が分らなければ、使うのは無理である。


 一回一回呪文を言って行けば、どの魔法が使えるようになったかは分かるが、そんなことをすれば分かったのと同時に、魔法を使いきってしまう。


「サーチをすれば使用可能な魔法は分かりますよ」

「え? でも、一回も魔法なんて出ませんでしたよ」

「それは単純に使用可能な魔法がなかったからです。魔法検査紙は、そんなに簡単に入手できるものではありませんし、それに平民への使用は禁じられています。ライル様のサーチで何が使えるようになったかは、調べるしかありません」


 そうなんだ。

 領地にきてから、結構な人にサーチを使ったけど、誰も魔法を使える人はいなかった。


 やっぱ珍しいんだな。魔法を使える人って。


 でも、そうなると僕のサーチで、隠れた魔法使いも見つけられるのか。


 そういう使い方もできそうだな。


「とりあえず、ルートさんに話をしてくるよ。ファリアナさんは、湖賊討伐のための隊を編成してくれるかな?」

「かしこまりました」


 僕はファリアナにそう指示を出し、自分はルートのいる酒場に向かった。



 酒場にいく道中、領民たちに何度も話しかけられた。

 最初とはまるっきり態度が変わっている。


 親しまれるのは良い事だが、今は急ぎの用があったので、話は聞かずに断って先を急いだ。


「待ちなさい!」


 大声でそう声を掛けられた。


 確認すると、ロンドの娘であるレンティが腕を組んで仁王立ちしていた。


 険しい表情をしている。

 何故か知らないが怒っているようだ。

 あまり関わりたくない雰囲気だったが、無視するともっと面倒なことになりそうだったので、話をする事に。


「な、何でしょうかレンティさん」

「この詐欺師! 皆を妙なこと言って騙しやがって! アタシはあんたなんか認めないんだからね!」

「は、はぁ……」


 彼女だけは僕が才能を見抜けると言っても、館にやってこなかった。


 どうしても僕を認めたくないらしい。


 何でこんなに嫌われているのか。

 ロンドはそんなに領主をやりたそうじゃなかったし、別に良いと思うんだけどな。


「とにかく早く皆を騙すのをやめないと、いずれ酷い目に遭わせるわよ!」

「酷い目って……どんな目?」

「え、えーと……酷い目って言ったら酷い目よ! もうここにも絶対にいたくないって思うような目よ! と、とにかく冗談とかじゃないんだからねっ!」


 何をするか全く考えてなかったな……

 小柄でぷりぷり怒るレンティの様子は、どこか可愛らしくもある。


 正直、そんなに悪いことが出来そうなタイプにも見えないので、放っておいてもいいかと僕は思った。


 仮になんかやって来るにしても、子供がやるイタズラみたいなもんだろう。


「じゃ、じゃあ、僕は急ぎますから……これで」

「あ! 逃げるなぁ!」


 と叫んだがレンティは追ってはこなかった。


 僕はルートが経営している、酒場に入った。

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