第12話 魔法を使う

 領主の館に戻り、ファリアナさんに、今日のことを報告した。


「裁縫道具ですか。ハクシュトアにある雑貨屋に売ってありますので、仕入れてきます」

「ありがとうございます」


 ファリアナさんは言葉通り、すぐに布や鋏、針、糸、など裁縫の道具を揃えた。


 また、古くなって破けた服なども、どこからか仕入れてきた。


 これの修繕は練習に使えるだろう。


 何回も練習できるように、多めに持ってきている。


「明日、成長魔法を使うときですが、いきなりできるようになったら、不信感を持たれるかもしれないので、練習したらグングン上達した、という感じに見えるように、成長魔法を使ってください」


 何か難しい気がする。

 まあ、一度、作り終えたら、失敗しようと成功しようと、スキルアップをかければいいんだろう。


「ただ、テクニカルアップの魔法は、最初に何回か使うべきです。ステータスが高ければ、その分、技能レベルも上がりやすくなります。例えば、器用さの現在値が1の人と、100の人がいた場合、1の人は裁縫にスキルアップを使っても、技能レベルが1しか上がらないでしょうが、100の人は10くらいは上がると思います」

「器用さをあげて、不審感は持たれないの?」

「身体能力なら持たれる可能性はありますが、器用さは別です。実感を持ちにくいですから。裁縫の技能レベルが低いと、器用さがいくら高くても、最初から成功はしません。しかし、練習すればすぐに上達はしていきます」

「なるほど……ていうか、ファリアナさん、本当にスラスラ喋るよね。本当に僕以外成長魔法を使える人、見たことないの?」

「はい。あくまで本で得た知識です」


 よほど詳しいことが本に書いてあったのかな。仮に書いてあっても、普通は覚えられないから、凄い記憶力だと思う。


 裁縫を行う準備は行ったし、あとは明日になるのを待つだけだ。


 僕は眠りについた。



 ○



「お、おはようございます……」


 翌日、食事を終えた後、館でリンを待っていたら、おずおずとした様子で、館の中に入っていきた。


「来てくれてありがとうございます」

「お、お礼を言われるようなことじゃ……自分のために来たんですし……」


 リンは少し困惑していた。


 裁縫を始める前に、僕はリンにテクニカルアップの魔法をかけた。


 淡い黄色い光がリンの体を包み込む。


 ちょ、こんな感じで何か起こるの? じゃあ、誤魔化すの無理じゃん。


 と思ったが、特にリンは気にしていないようだった。


 あれ? もしかして、見えてないの今の?


 これも使用者にしか見えないのかな……なら大丈夫か。


 器用さがどのくらい上がった分からなので、サーチで確認する。


 65/151


 えー!? 

 かなり上がった!


 元は確か15だったよね。


 予想の倍以上、上がっている。


 もう一度使うと、今度は35上がって、100になった。


 上がり幅が小さくなった。


 現在地と限界値の差があればあるほど、魔法で上がる数値も上がるということかな。


 念のためもう一度使うと、今度は120になる。上がったのは20だけだ。


 120あれば優秀という話だし、ここまであれば問題ないだろう。


「それじゃあ、何か裁縫で作ってみてください」

「え? 何を作ればいいでしょう」

「そうですねー……まあ、最初ですから糸を使って、この服の修繕をしてみてください」

「修繕ですか……? でも、余計駄目になるかも……」

「大丈夫。いらない奴ですから。ばらばらに引き裂いても良いくらいです」

「そ、そうですか……」


 僕の言葉に少しリンは安心感を覚えたようだ。


 少し指を震わせながら、破けた部分を縫っていく。


 器用さはかなり上げたのだが、やはり技能レベルが低いからか、あまり上手ではない。


 結局不格好な仕上がりになってしまう。


「……」


 しかし、リンはあまり落ち込んでいなかった。

 自分の手を見て、驚いたようなそんな表情をしている。

 彼女の性格的に、出来なかったらかなり落ち込みそうな気がしたので、意外だった。


「……申し訳ありません。失敗しました。でも、何というか、もうちょっとやれば出来るような、そんな感じがするんです」


 器用さを上げたからかな? 

 もう一度、サーチをして、彼女の技能を確認する。


 裁縫が3→5に上がっていた。


 スキルアップは使用していない。一回縫っただけで、普通こんなに上がるものだろうか?


 レベルが低いから上がりやすいのかもしれないけど、器用さを上げたという事で、技能レベルが上がりやすくなっているんだと思った。


 僕はスキルアップの魔法を使用してみる。


 でもこれ、どの技能を上げるか、どうやって指定するんだろうか?


 とりあえず、裁縫技能が上がれって思いながら、魔法を使ってみよう。


 僕はスキルアップを発動させた。


 淡い、緑の光がリンを包み込む。


 今回も見えていないのか、リンは何のリアクションも示さなかった。


 どうなっているか確認する。

 裁縫技能が上がっている。

 このやり方で正しいようだ。


 いくら上がったというと……


 5→20


「え!? 十五!?」


 思わず声出して驚いた。


「え? な、何が十五なんですか?」

「あ、ああ、いや、何でもないです。気にしないでください」


 咄嗟に誤魔化す。


 そんなに上がるのか。びっくりした。


 僕はもう一度、修繕をするように勧めてみる。


 すると、さっきとは見違えるほど、手が早くなりかなりの速度で、服を完璧に修繕してみせた。


「な、何かスムーズにできちゃいました……」


 リンは、出来たことを自分で驚いていた。


 恐るべし成長魔法。


 裁縫なんて何度も練習して、ようやく出来るようになる技術のはずなのに、こんなあっさりと上達するとは。


 道理や常識を無視している。

 まあ、それが魔法と言うものなんだけど。


 リンは驚きを通り越して、戸惑っているようだ。

 この戸惑いをなくさせなければならない。


「やはり僕の思った通りでした。リンさんは、裁縫の天才です!」


 僕がそう言うと、ポカンと表情を浮かべて、


「て、天才……」


 信じられないというような表情だった。


「もっと練習してみましょう! 材料はいっぱいあります!」


 それから、リンと一緒に裁縫をして行き。

 五十くらいまで裁縫の技能レベルを上げた。


 リンは、大都市にある服屋で、高価で売られていても不思議じゃないような、立派でかつデザイン性の優れた服を、一日で作れるようになった。

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