第13話 訪問者

「ありがとうございます!! ライルさんのおかげで、私は自分の才能に気付くことが出来ました!!」


 と何度も頭を下げながらリンはお礼を言ってきた。


 彼女は非常に綺麗なデザインの服を最終的に作れるようになっていた。


 どうやら、裁縫技能を上げたら、『ひらめき』があったようで、優れたデザインの服を作る能力を得たようだ。


 彼女の裁縫の腕は一級品と言っていいレベルまで上がったので、もう誰もリンは無能だという人はいなくなるはずだ。


「あ、今日は遅いのでもう帰ります。このお洋服は、ライル様に差し上げます!」

「え? でもこれ女物ですよ」

「あ、そっかー。じゃあ、好きな人にでも差し上げて下さい!」


 そう言った。いないんだけどそんな人。

 しかし、一気に明るくなったなリンは。

 最初は俯いて暗かったのに、自分に出来ることがあると分かって、よほど嬉しいんだろう。


「あ、そうだ。この裁縫道具と材料はリンさんに差し上げます。必要でしょう?」

「え? 良いんですか? では貰っていきます!」


 道具と材料を持って、リンは自分の家に帰ろうとした。


「お待ちください。リン様」


 ファリアナが呼び止めた。


「な、何でしょう」


 無表情で少しだけ、怖い雰囲気がするファリアナに声を掛けられ、リンはビクッとする。


「実はこちらの領主ライル様は、新しくハクシュトアの領主になったばかりで、あまり領民から歓迎されていません」

「え!? そうなんですか? こんなに良い人なのに!?」

「人柄が領民の方々に伝わっていないのです。今回の件をほかの領民に伝えてくれませんか? ライル様には人の才能を見抜く力があり、そのおかげで裁縫が上手になったと」

「あ、それは元からお兄ちゃんに言うつもりでした。ほかの人も言って頂きたいなら、皆にも言いますよ!」

「ありがとうございます。出来れば、才能を知りたい人は、領主の館に来るようにも、お伝えして頂きたいです」

「分かりました! 全然大丈夫です! 今回のお礼としてなら、安すぎるくらいです!」


 快く引き受けてくれた。


 リンは家に戻った。


「ありがとうございます」


 リンが館を出た後、僕はファリアナにお礼を言った。


 僕の力を広めてほしいとは、自分でお願いするべきだったが、何となく自分から言い出すのは恥ずかしくて言えず、結果的にファリアナさんが言ってくれた。


 僕の気持ちを汲んでくれたのだろう。


「補佐役としては当然の事ですので。上手く、評判が上がるよう祈りましょう」

「はい」


 僕は頷いた。


「リンさんの服は素晴らしいですね。これなら高値で売れそうです」

「う、売る事を考えてるんですか」

「領地の経済力を上げるのは、非常に重要な事です。高い能力はお金を生み出します」


 確かにお金は重要か。

 領地を豊かにするには、何をするにしてもお金が必須だからね。


「さて、今日はサーチ以外の魔法も使ったと思うので、記録しておきましょう」

「わかりました」


 僕は使った魔法の回数をファリアナに報告した。


 メモしている。

 成長魔法の検査は何度も行えないので、メモする必要がある。


 サーチは数が莫大にあるので、いちいちメモは取らない。


 今日の業務は終了した。


 もう遅かったので、夕食を取った後、眠りについた。



 〇



 翌日。


 昼頃、リンは頼み通り噂を広めていたと、ファリアナから報告があった。


 リンの話を真に受けるものは、ほとんどいなかったようだが、僕に興味を持った村人は大勢いるようだ。


 もしかして、話が本当かどうか確かめるため、誰か来るかもしれない。


 僕は領民が館に来ていいように、外には出ていない。


 しばらく待っていると、


「領主!! いるか!?」


 とても領主を呼ぶためとは思えないほど、乱暴な声が聞こえた。


 扉を開けると、男が三人。


 真ん中に大男がいる。

 ロンドよりも体格がいい。物凄く鍛えているようだ。


 彼の左には見たことのある男が。


 確か、酒場をやっているルート、という男だ。


 もう一人は背が低く、細身の男である。


「リンの奴が変なこと言っててな。あれが本当か確かめに来た」


 ルートがそう言った。

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