第11話 リン

 僕は外に出て、領民とのコミュニケーションを図ろうとしたけど、そう上手くはいかなかった。


 無視されたり、話には応じるけど冷たくされたり、散々である。


 ……そういえば、ロンドは、僕にあまり悪印象を持っていなかったな。


 彼に最初は話してみるか。


 そう思って探したが、見つからない。


 どこに行ったから領民に尋ねてみる。

 何度か無視されたが、一人そっけない態度で、湖に釣りに行ったと教えてくれた。


 ロンドは領主代行をやる前は、漁師をやっていたようだ。


 本来は漁師で、その上、魚を取ることそのものが好きなようなので、我慢できず、すぐに湖に出たという。


 一度、湖に出たら、しばらくは帰ってこないようだ。


 しかし、シンシアはなぜ漁師だった彼に、運営を任せたんだろ。


 外部からの人間に統治させるより、元々ハクシュトアにいた者に統治させた方がうまく行くとの判断だろうか?


 実際、僕はだいぶ冷たくされているので、その判断もそう間違ってはないかもしれないけど。


 でも、そんな統治で税とか取れるのかな……


 分からん。まあ、今考えることではないか。


 僕は領民に声をかけ続けるが、結果は同じだった。


 今日はもう諦めようかと思っていると、とぼとぼと元気がなさげな様子で歩く、一人の少女を発見した。


 僕と同じくらいの年齢の若い子だ。


 髪が非常に長い。俯いており、何か嫌なことでもあったように感じる。


 声をかけていいような雰囲気ではなかったが、領主として領民の悩みを聞く必要はあるかもしれない。


 僕は少女に話けた。


「あの、こんにちは」


 少女はビクッ!! と驚いて、体を硬直させる。


「あ、すみません。驚かせてしまって」

「こ、こちらこそ驚いてしまってすみません……あと、生きててすみません」


 え? 何か凄いこと言わなかったこの子……


 あ、あまり突っ込まない方がいいかもしれない。会話を続けよう。


「僕は新しくハクシュトアの領主になった、ライル・ブラックっていうんだけど、今、領民に挨拶をして回っていて……」

「りょ、領主様!? も、もしかして、私に話かけたのは、私を追い出すためですか!?」

「は?」

「お願いします! ま、まだ死にたくないんです! どうかハクシュトアに置いてください!!」


 えー? 追い出すの、おの字も言ってないんだけど。


 今までとは違うけど、凄い困った反応。


 とにかく誤解を解かなければ。


「追い出すために話しかけたのではありません。安心してください」

「そ、そうなんですか? ついに私みたいな無能は、口減らしのために、追放されるのではないですか?」

「ち、違いますよ。そんなひどいことしません」

「そうですか、安心しました」


 少女はホット胸を撫で下ろした。


 ちょっとしたやりとりで分かったことは、彼女は自分を無能だと思っていて、あまり自信を持っていない。そして、追い出されるかもしれないと、不安に思っている。


 しかし、僕個人には敵意があるようには見えない。


 もしかしたら、彼女なら僕の話を聞いてくれるかもしれない。


「君はどうして自分を無能だと思っているんですか?」

「そ、そりゃ、何もできないからですよ。運動もできない、頭も良くない、何の取り柄もないんです」


 本当にそうだろうか。

 仮にそうだとしても、僕の成長魔法は限界値を上げることができるので、後天的に才能を与えることが出来る。


 まあ、限界値を上げる魔法の方は、使用回数が少ないので、なるべく使いたくはないけど。


 元の限界値が高いステータスがあれば、それを伸ばした方がいい。


 一度サーチをしてみた。


 ステータス

 身体能力:21/44

 器用さ:15/151

 知力:13/38


 習得技能

 歩行Lv12 走行Lv9 泳法Lv8 釣りLv3 裁縫Lv3 料理Lv2 木工Lv2 絵Lv1


 ……確かに全能力の現在地も低いし、歩行が一番高くなるほど、技能レベルも低い。


 でも、器用さの限界値は高いから、これをあげれば特技がないってことにはならないと思うけど。


 恐らくだけど、彼女の器用さが限界値に対して低すぎるのは、手先の器用さを必要とするような、何かをあまりやってこなかった、ということだと思う。


 だから、技能レベルも伸びていない。


 この器用さを伸ばして、器用さが必要そうな技能を成長させれば、特技があると言えるようになると思う。


「あの君に特技がないとは、僕には思えません」

「あ、ありませんよ。私は何をやっても、うまくいかないんです。無能中の無能です」


 なぜ限界値が高いのに伸びていないのかは、疑問なところだ。女の子なので、料理とか裁縫とか練習していると思うけど、しなかったのだろうか。


「僕は実は、人の才能を測る目を持っているんです。君の才能も見させてもらいました。素晴らしい才能をお持ちですよ」

「え?」


 少女は困惑する。しまった、切り出し方を間違えた。これで信じてもらう方が無茶だ。


「ほ、本当ですか!? そんな力が!? 私には何の才能があるんですか!?」


 し、信じた。よっぽど自分の状況に、悩んでいたようだ。一歩間違ったら、詐欺とかに遭ってるタイプだ。


 それで、彼女の才能だけど……


 器用さが必要そうな技能の中で、一番高いのは釣りと裁縫か。


 女の子だし裁縫を伸ばしてあげるといいかもしれない。


「服などを作る、裁縫技術の才能があなたにはありますよ」

「えぇ? 服は作ったことありますが、全然下手くそですよ。一回ダメで布を無駄にして、お母さんに二度とやるなって、言われちゃいました」


 何となくそのエピソードで、彼女が高い器用さの限界値を持ちながら、低いままの理由がわかった。


 最初の失敗で全否定されて、努力をすることができなかったのだろう。


 母親に問題があるようだ。


「一回の失敗で、才能は計りません。何度もやっていたら、上達したはずです」

「本当ですか……?」


 半信半疑という表情で見てくる。

 期待したいけど、裏切られたらどうしよう、そんな表情に見えた。


「間違いなく上達します。裁縫の準備をしますので、明日になったら、領主の館に来てください。場所はわかりますか」

「は、はい」

「あ、そうだ。ところでお名前は?」

「リ、リン・マローダです」

「リリンさんですか、いい名前です」

「あ、い、いえ、リンです。最初のリは噛んで言っただけです」

「そ、そうですか。いえ、リンさんも素敵な名前だと思いますよ」


 変な勘違いをしてしまった。僕は苦笑いをして、弁明する。


「それでは明日お待ちしております」











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