第14話 仲間はずれ
「それでも、一緒にここまで来ました。ソフィが戦うなら、私も最後まで戦います!」
「それでもだ、お前はここに残れ!」
「出来ません、厳しい戦いだと聞いています。たとえ置いて行かれたとしても、必ず追いかけます! もし彼等が窮地に陥る事があるのなら、その時は、私は必ずその場に立ちます!」
言い争いになってしまった。僅かに手が震えていた、少し頭に血が上ったのだろう。
「お前の……いや……私は……」
ファブリスは頭に手を当て、いつもの様に唇を噛んでいる。彼も頭に血が上っているのかもしれない。
「私から言うことはもう無い……以上だ、帰れ!」
「待って下さい、ファブリスさんにお話が……」
「いいから、帰れ!」
そう言われて部屋を出された、最後は今まで見たことも無い凄い剣幕だった。くそっ、何なんだ、さっきの言い方。
確かに彼はソフィの従者だ、彼女を悪い虫から守るのは仕方ない、私の事が嫌いなのだろう。それにしても、今の言い方はのではないか、これまで一緒に旅をしてきたのに。
そのまま無言で教会から出て行くしかなかった。本当は昨日の事を伝えようと思っていたが、機会を逸してしまった、それが心残りだった。
「まったく、ソフィにも会えないし。ファブリスも意味が分からない事を言うし、何なんだよ……」
何だかイライラする、それに、ため息をついてしまう。
とりあえず鍛冶屋が空く時間になったら、剣を揃えに行くことにしよう。
私が使う剣は英雄達が使う様な凄い物でない、普通に買えるものだ。それに、今は少し気持ちを切り替えないといけない。買い物をしたら気晴らしになるだろう。
幸いアッテナの街には鍛冶屋がある、包丁や鍬など日常生活で使用するものから、剣や矢なども売っている。
そもそも、街には衛兵など国に所属する兵士が常駐している。それ以外にも冒険者と呼ばれる傭兵の集まりがある、彼等は様々な依頼を受けて、雑用から小さい魔獣や大型の獣などを討伐している。
もちろん英雄達だけが命がけで魔獣と戦っている訳ではない、剣士や魔法使いが流れでパーティーを組んで凶悪な魔獣を討伐する事もある。
むしろ、ある一点において英雄達よりも強い力を持っている人達もいる。
色々な理由はあるが、鍛冶屋が街中で剣を売ってもそれなりに需要はあると、いつかファブリスが話していた。
「ドラゴンか、本当に戦うのかな……」
さて、流石にドラゴンと戦う猛者はそうそういないと思うが、応援が来るなら国の凄い剣士かもしれない。
たまに単独で魔獣を撃退する冒険者もいるという、私も過去にそんな人に会った事があるが。
どんな人が来るのだろうか。先ほどのファブリスとの会話を思い出しながら、少し複雑な気持ちで鍛冶屋に向かっていった。
鍛冶屋に入ると様々な武器が売られていた、もちろん伝説の剣や魔剣と言った凄い物は売っていないが。壁に掛けられた剣と値段を見比べながら、先ほど貰った麻袋の中身と比較する。
ドラゴンが沢山いるなら、剣も複数買っておいた方が良いか。左右と腰に付ければ、三本くらいなら持てる気がする。
攻撃は最大の防御だ、守りを固めた相手には三倍の戦力で攻めろ、いつかタルヴォさんが言っていた。
そう言えば、お金の計算もソフィに教えてもらったのだった。二人で初めて剣を買いに鍛冶屋へ行った思い出が懐かしい。
未だに難しい計算はよく分からない時もあるが、また今度教えてもらおう。
「すいません、ちょっと教えて頂きたいのですが?」
「あぁ? 何だガキ?」
酷い言われようだ。でも背はアレクシス達より一回り小さい、子供扱いされても仕方ないのか。もう成人したはずなのに、まぁ自分の年なんて曖昧ではあるけど。
昔の話だ、皆から自分の年齢を聞かれて答えられなかった、もちろん誕生日も知らない。
その時、ソフィが言ってくれたらしい。私はソフィより一歳くらい年上で、同じ誕生日にしようと提案したのだ。
それ以来、毎年一緒に彼女と誕生日を祝う事になった。ちょっとした時に、昔の思い出がふとよぎる、私のとても大切な記憶なのだ。
いけない、今は剣を買いに来ているのだ、気を引き締めよう。
「あの、剣を三本くらい持ちたいんです。何か身体に上手くまとめる方法はないでしょうか?」
「三本だぁ? お前は馬鹿か、そんなに持って動きにくくなるだろうが」
「そうなんですけど。このショートソードくらいの長さで良いので、三本持ちたくて……」
鍛冶屋の店主はため息をつきながら、ほらと革で出来た鞘を見せた。
「革鞘を両方の腰に下げて、一本は背中か腰に付けるしかないだろう」
「なるほど、それは格好いいかも……? そう言えば、三本も剣を持つ人って見かけませんね?」
「そんな馬鹿いねぇからな……」
あははと一緒に笑いながら、剣と鞘を選んでいく。最終的に一本は短めにして腰に付けるようにした、これなら多少は動きやすいだろう。
そうだ、あと靴も傷んでいる、買わないといけない。早めに買って、慣らしておかなければ。そう思って、その日は一日準備に費やした。
次の日、教会に行くもソフィには会えない。一日中身体を動かした、それに靴と剣を慣らす。教会から荷物を引き取って、併せて山登りの準備をする。
一週間経った、教会に行くもソフィには会えない。何だか馬車が教会の前に沢山止まっている、それと色々な物が中に運び込まれていく。
教会の中に入ろうと信徒の方に声をかけたら、今日も立ち入り禁止だと言われた。やはり戦いの準備だろうか、あれから皆にずっと会えていない。
段々と靴が馴染んできた、左右と後ろの剣を取り出す動きにも慣れてきた。
十日目、教会に行くもソフィには会えない。何だか見たことがない人がいる、剣士が男女で一人ずつ、魔法使いみたいな人が一人。応援に来た人達だろうか、タルヴォが教会の前で彼等と話をしている。
ようやく私も話を聞けた、どうやら出発は二日後になった様だ。戦う場所は山奥らしい。
二日かけて目的の場所に到着し、ドラゴンに強襲をかけるという。もう少し厚手の服を用意しておこう。
十二日目、準備は出来た、朝一で教会に行く。馬車が五台止まっている、いつもの様に御者席で準備をしようとすると、タルヴォに止められた。
私は御者をしなくて良いらしい、そのまま降ろされた。私は馬に乗って行く様だ、それもファブリスの後ろだと言われて困惑した。
しばし待っていると、ソフィ達が出てくる。彼女は凄く格好いい杖を持っている、新調したのだろうか。綺麗な赤い石が杖の先端に付いている。魔石だろう、魔法の力を集中しやすくする石だ。
あと真っ黒の厚手のローブを羽織っていた、綺麗な刺繍が縫われている。雰囲気がいつもと違って凜々しかった。
アレクシスもいつもの剣に加えて、白く輝く剣を腰に携えている。あれがアルヴィドの話していた剣だと思う。
カリーネ、アルヴィド、ルチアも、何だか装備を一新している様だ。皆一様に厚手の服を着込んでいる、山に登るからだろう。
私もある程度は服を着込んでいるが、やはり皆の着ている物の方が格好よかった。
加えて、剣士二人と魔法使い一人も同じ馬車に乗り込んでいく。やはり彼等は今回の戦いの応援なのだ、私も同じ馬車に乗れないのは悲しいけれども。
「あっ、ソフィ!」
ソフィに声をかけようとしたが、ファブリスに止められた。彼女とも目が合わない、集中している様だ。
それに緊張した表情だった、やはり厳しい神託を受けたのだろうか。ならば私も集中しなければならない、ファブリスの後ろに乗るのは癪であるが。
「ソフィ大丈夫かな、皆も何だか雰囲気が違うし……」
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