27.激突-3
グラベルというのは、非舗装路を指す語である。
反対に、舗装路のことはターマックと呼ぶ。
ラリー競技ではよく聞く言葉なのだと、あれから課長補佐に説明された……けど、
「よ、ようするにッ、表面が荒れたデコボコ道ってことですよね……ッ」
まるで削岩機の上に座っているかのように前後左右、くわえて上下に激しく揺れる車内で、わたしは声をはりあげた。
「いや、だから舌を噛むから、あんまり口をひらくなと」
すこし呆れたように課長補佐は言うけど、そうでもしないと気が紛れないんだもん。
だって……、
いい?
片側一車線の未舗装……、もとい、舗装が割れたり
山道のこととて、当然、一直線のストレートなんてそうそうある筈もなく、ウネウネぐねぐねのたくりまわった、カーブ、コーナー、アップにダウンと、それこそ普通に走ることのできない要素てんこ盛りの悪路をね。
唯一の救いは交通量がすくないって言うか、絶無なことで、そうじゃなければ、そうそうに対向車両と正面衝突の大事故をおこしてたんじゃないかと、そう思う。
多分、と言うか絶対、この道、法定速度は40キロだ。
ううん。もしかすると、30キロであるかも知れない。
そんな道をよ? 悪路をよ?
仕方がないと言っても、高速道路も真っ青なスピードで走りつづけているんだわ。
正気を疑うレベルでスピードをだしているから、道の真ん中に、一応ひかれてはある白線だなんてお構いなし。
それこそ道幅いっぱいを使って……、ううん、道幅いっぱいを使わなければ、カーブだってコーナーだって、曲がりきれやしないんだもの。
だから、
対向車線にはみ出してる時に、対面からクルマが来たら……、
まぁ、避けようも、もしかしたら助かりようさえもないんじゃないかしら。
熊よけならぬ対向車よけを意図してでしょうが、曲がった先が見えないブラインドコーナーに差し掛かる手前で、課長補佐はかならずクラクションを目一杯鳴らしているけど、それがどれほど効果があるものか……。
半分(以上?)、
いや、実測何キロでてるだとかはわかんないわよ?
シートベルトに身体をガッチリ固定されているのもあるけれど、運転席側――課長補佐の前のスピードメーターなんて、とてもじゃないけど見る勇気がない。
見てしまったら、きっと今以上に怖くてたまらなくなるに決まってるもの。
だから、わたしに出来ることといったら、ドア内側の
力いっぱい歯を食いしばって、悲鳴をあげないよう我慢しつづける事くらいしかないのよね。
それでも怖さのあまり、ついつい文句や泣き言が、口からこぼれでたりはするのだけれど……。
とまれ、
課長補佐がハンドルを切り、クルマがググッと向きを変えた……途端に、ズルッと滑った。
路面に浮いてた小砂利かなにかを踏んだんだと思う。
時間にすれば、コンマ数秒。一秒にも満たない間だったろうけど、それでも背筋が凍り、全身から血の気がひくには十分だった。
「あ、あ、あ……」
目線は助手席窓から見える
窓の外にはなんにも無い。
視界を遮るモノがなんにも無くて、ただ一面の青色――空がひろがっている。
つまり、ガードレールを突き破ったら、こんな鉄の塊に閉じ込められた状態で、宙に舞うより他はない。
以前、立体駐車場の柵を乗り越え、地面まで落ちたクルマのニュースを観たことあるけど、そのクルマに乗ってた人は助かったのかな?
それとも、そうじゃなかったのかな?
でもでも、きっと、今のわたしたちよりはマシだったのに違いないよね。
タイヤが滑るというのは、バランスを失い、コントロールが出来なくなるということ。
今のわたしたちの場合は、すなわち、『死』。
ガードレールこそあるけれど、その向こう側は切り立った崖!
落っこちたなら、絶対死ぬって!
死なないまでも大ケガだって!
こんな人里離れた山の中ってこともあるし、救急車が来てくれるまで、どれだけかかるかわからないもの!
レールの無いジェットコースターってか、こんな
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