26.激突-2
「くッ!」「きゃあッ!」
どんッ! という鈍い音とともに衝撃がくる。
車体が前に突き飛ばされ、中に乗っている課長補佐とわたしは顔をゆがめ、悲鳴をあげて、それに耐える。
もう何度目か――また北島が、自分のクルマをわざと追突させてきたのだ。
「もしもし!? もしもし!? 大丈夫ですか!? 今の状況を話せる状況ですか!?」
手にしたスマホから、ひっきりなしに叫ぶような声が聞こえているけど、とてもまともに会話できる状態ではない。
「さ、さっきから、何回も何回も、くッ、繰り返し後ろからクルマをぶつけられ――きゃあぁあッ!」
ハンズフリーにしているスマホに、説明の言葉を口にする途中で、また後ろから、ドンッ! と容赦のない衝撃がくるのだ。
課長補佐に言われて警察に電話するべく一一〇番をダイアルしたけど、まさか、ここまでのことをされるとは思わなかった。
これ以上ないほどの害意。
あのボウガンといい、明確にわたしを殺すつもりだ。
なんで!? なんで!? なんで!? という思い。
背筋の
怖い怖い怖い怖い……。
でも、一体なぜ!?
なぜ、わたしのことを殺そうとするの!?
わたしがアイツにそこまでの事をした!?
むしろ、された――されかけたのは、わたしの方じゃないか……!
ワケがわからなくって、じわりと涙がにじんでくる。
と、
「美佳くん、舌を噛むかもしれん! 通話は切らなくていいから、もう話そうとするな! とりあえず、しっかり口を閉じておきなさい! 警察への説明は僕がやる!」
頭の中が真っ白に塗りつぶされてしまいそうな恐怖のなか、課長補佐から注意がとんできた。
それで
グッと奥歯を噛みしめて、『はい』――そう返事をするかわりに、課長補佐の目をみて大きくうなずく。
そう。今のわたしには課長補佐がついている。
あのク○野郎になんか絶対負けない。殺されたりなんかするものか。
そして、
スゥッと息を吸い込むと、課長補佐が声をはりあげた。
「この通話を聞いている警察の方! これより現在の状況を告げる! こちらの現在位置は、
相手が聞き間違えたり聞き漏らしたりしないように心がけてか、一言、一言、言葉を句切って、現在、自分たちが置かれている状況をわたしに代わり、伝えてくれた。
「ボウガンだって!?」
スマホのスピーカーから、そんな仰天したような声が聞こえてくるが、どうでもいい。
ニュースでも伝えられることの多い煽り運転だけれど、そこにボウガンだとか銃器の類いが加われば、それはもう危険運転どころのレベルではない。
たまたま手近なところにあった刃物で、ついカッとなって――などと、実は殺意はなかった、計画性はなかったなどと言い抜けできないのだから当然だ。
でも、そんなことより、わたしには課長補佐に、今、言わなければならないことがある筈だ。――そのことに気づいたわたしは、ギュッと拳を握りしめた。
また、ガンッと衝撃がきて、悲鳴をあげそうになったが踏みとどまる。
「か、課長補佐……ッ!」
「どうした? けがでもしたか?」
覚悟を決めて呼びかけたわたしに、課長補佐は目だけ動かし、そう訊いてくる。
心配してくれている言葉が、あたたかくって、喉まで出しかけた言葉がグッと詰まる。
でも……、
わたしは
「い、いえ、ケガはしてません。大丈夫です。た、ただ……、一言、お
「お詫び?」
「は、はい。わたしのせいで、あんな男に追い回されて、た、大切なクルマをボコボコにされて……、こ、こんな危険にまきこんでしまって……、ほ、本当にも、申し訳ありません……ッ」
血を吐くような思いで頭をさげた。
今度こそ、本当に視界が
休みのたびに遠路はるばるやってきて、それでピカピカにしているクルマをあの雨の日も、それから今も、わたしのせいで汚され、傷つけられている。
会社の上司/部下だとはいえ、それを除けば何の関係もない、赤の他人のせいで、喰わなくてもいいとばっちりを喰っている。
この上、もしも、課長補佐がケガでもしたら、わたしは一体どう償えばいいのだろう……?
そう考えると、申し訳なくって、自分が情けなくって、どうにも顔があげられなかった。
が、
「やれやれ……」
わたしの謝罪の言葉を聞いた課長補佐は、だけど、罵声を浴びせてきたりせず、ぷはっとかるくわらったのだった。
「ホントに真面目だな、君は」
そして、一瞬だけ、シフトレバーから外した右手で、わたしの後頭部をわしゃわしゃ乱暴気味にかきまわすと、
「前にも言った筈だよ?――『僕がなんとかしてみます』とね」
そう言ったのだ。
「まぁ、みてなさい。あと少し行くと、そこから先はグラベルだ。そしたら、やりようはいくらでもある」
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