17.御礼参り-3

 予想していた通り、と言うか、道中は(メチャクチャ)大変だった。

 多分……じゃなくって、絶対に、もし、わたし一人だったら、ぜったい途中でくじけてたと思う。

 目指すべき場所をピンポイントで指定できない――まずもって、出発点からしてダメダメだ。

 狭いようでも広いニッポン、そんなに急がなくてもどこへ行く? だ。

 ホント、どこへ行ったらいいんだか……。

 そんな、何とも不安なスタートで、頼りなくも、ほとんど唯一の決め手はコンビニだった。

 あの日、トイレ休憩に立ち寄ったコンビニの店名をわたしは記憶してたのだ。

 それで、コンビニ会社のホームページで店舗を検索すると、まずは、そこを目指してクルマを走らせ、あとはそこを起点としての推理である。

 指と目とで地図上を薄れていきつつある記憶を頼りに目的地に向け、逆引きしていったのだ。

 当然、それだけで一発正解大当たりとなろう筈もないから、あとは実際にクルマを動かし、試行錯誤の連続である。

 あっちへ行ったり、こっちへ行ったり、コンビニの駐車場を始点と終点として、行きつ戻りつ走りまわった。

 さいわい、かなり郊外……と言うか、田舎なエリアに差し掛かっていたから、少なくとも周囲を確認しながらゆっくり走って後続車をいらつかせたり、ちょっと道路脇に停車し、ルートを確認したりを繰り返しても、交通の妨げになる迷惑度合いはそんな大したものにはならずに済んだと思う。

 つまりは、それだけ行き交うクルマの数が少なかったという事で、それは、プラスと言えばプラスなのだけれども、同時に、マイナスと言えばマイナスなのでもあった。

 何故って、交通量が少ない&人家もまばらという事は、ちょうど折良く通りがかった『誰か』に道を訊いたり質問したりが、事実上できないという事でもあるからだ。(農業を営む人たちは、ほとんどの場合、『職場』が自宅に近いから、サラリーマンなどとは違って、買い物等の生活活動、あるいは都会(?)へのお出掛け以外、そうそう表をしない。基本、農家は年中無休で忙しいので)

 結果、母さんとわたしは、コンビニの駐車場や路肩に駐めたクルマの中で、頭を突き合わせては、このあたりかなぁ、違うかなぁ……などと、さんざん頭を悩ましつづけたのだった。

 あの日は、多分、この道を通った筈……、でも、そうすると、記憶に残ってるこの通過点とのつじつまがあわない……。こんな、目立つ施設は絶対見てない……、さっきの角で間違えたのかな等々々。

 ある程度のトライアンドエラーは覚悟してたけど、あまりにも成果が出ないと、やっぱりダレる。

「なかなか正解に辿りつかないわね~」

 コンビニで買ったサンドイッチをぼそぼそかじりながら、わたしが溜め息をついてしまったのは、褒められないにせよ、だから、仕方がないとそう思うんだ。

 と、

「ねぇねぇ、美佳ちゃん」

 おなじように食事をしながら、同時に地図アプリを見ていた母さんが、タブレットの画面を指さしながら、わたしを呼んだ。

「なに?」

「ちょっと、ここ見て、ここ」

 そう言いながら、空撮写真モードになっている地図の一点を母さんは指さす。

「これ、何かしら? こんな山の中に、工場……なのかなぁ?」

「どれどれ……?」

 サンドイッチを飲みこみ、母さんが言うそこを見てみると……、

「ここだ……!」

 思わず、そう声がもれていた。

 いま現在、わたしたちがいる……、さんざん駆けずりまわったエリアよりも、更に山ふたつか三つ向こうの離れたあたり――山腹に切りひらかれた平地の一画に、しろい屋根の正方形をした建物が建っている。

 一見して平屋。おなじ敷地に、庭だろう空き地をはさんで広壮な家が建っているけど、それに比較しても更に大きい。

 なるほど、母さんが、『工場』と言うのももっともだった。

 でも、わたしは、そこに見覚え……、と言うか、何か心にピピッとくるモノがあった。

「え? そうなの? ここが山神さんの家……?」

 地図をめつけるようにして黙り込んでしまったわたしとタブレットの画面とに目を往復させながら母さん。

 確信はない。

 でも、わたしの女の勘が、そうだ。ここだと告げている。

「うん」

 わたしは頷いた。

「母さんが見つけたここが、山神さんの家だと思う」

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