時を隔てた用心棒⑩
紅葉視点
紅葉はヴィンセントの言葉を聞き思考が停止していた。
―――ヴィンセントが、私のことが好き・・・?
―――・・・そんなこと、考えたこともなかった・・・。
―――いつもお兄ちゃんのように、後ろから優しく見守っていてくれる感じだったから・・・。
そこでまるで計ったかのように剛明から終わりの宣告を受けた。
「三分経ちました」
どうやら行って帰っての時間も含めて三分だったらしい。 ヴィンセントの言葉を聞き、余計モヤモヤとした気持ちが湧いてくる。
「どうですか? 話ははかどりましたか?」
「はい。 気持ちを告げられてスッキリしました。 先程はありがとうございます」
ヴィンセントはスッキリとした表情をしているが、紅葉はスッキリなんてするわけがない。
「紅葉さんは? もう言うことはない?」
「・・・」
あまりにも突然な告白過ぎて何も考えられなかった。 だが何も喋れなかったことで、それを肯定だと受け取られてしまったようだ。
「では俺たちはこれで。 紅葉さん行こう」
ふらつく紅葉を剛明が支えてくれ、そのままこの場を後にした。 今の彼氏は剛明だ。 抵抗するわけにはいかない。
「紅葉さん大丈夫?」
「はい・・・」
「どこかで休む?」
「そうですね・・・」
のはずなのだが、何故か今現在剛明を彼氏とは思えなかった。 人の心は複雑だ。 固まった人間関係ならともかく、まだ付き合い始めて数時間も経っていない状態では心が揺らぐのも不思議ではなかった。
「なら俺の家にしようか。 ここから近いし」
「はい・・・。 って、え!?」
「どうかした?」
「流石に家は・・・ッ! まだ付き合ったばかりですし」
「でも紅葉さんの体調や精神面的に家の方がよくない?」
そんな状態だからこそ剛明の提案にすんなり頷くことができない。 もしヴィンセントの件がなければ、あっさり付いていった可能性もあった。
―――えぇ、どうだろう・・・。
―――確かに家の方が色々と対処しやすいだろうけど、二人きりはそれはそれでヤバいような・・・。
「紅葉さんとさっきの人さ。 どういう関係なの?」
「・・・あ、えっと親戚です」
「日本語を勉強しに来た?」
「あ、はい! そうです。 ヴィンセントから聞いたんですか?」
「そこまで話を合わせているんだね。 俺の前ではもう無理をしなくてもいいのに」
「あ・・・。 そうでした。 先輩に話しておかないといけないことがあるんです」
「・・・うん」
剛明は真剣な表情に戻った。
「ヴィンセントと出会ったのは一ヶ月前です。 その出会った時から一緒に住んでいました」
「一緒に!?」
「はい」
「え、紅葉さんって独り暮らしだよね?」
「はい」
「二人で住んでいるのか・・・。 じゃあやっぱり親戚というのは嘘なんだね」
「・・・はい。 嘘をついて、隠していてごめんなさい」
「俺たちは付き合ったばかりだし問題はないよ。 付き合っているのに一緒に住んでもらったら流石に困るけど・・・」
「ですよね・・・」
「どうして出会った瞬間に彼を家に引き取ったのかは聞かない」
「・・・聞かないんですか?」
「うん。 何となく分かるから」
「え?」
「それに本当に二人は付き合っていなくて、何もやましい関係はなかった。 いや、あったとしてもそれは俺と付き合う前のことだ。 過去を追求する権利も必要も俺はないと思ってる」
「・・・ありがとうございます。 寧ろヴィンセントは私と剛明先輩の恋を応援してくれていました」
「そうなのか。 じゃあ今の紅葉さんに聞きたいんだけど」
「何ですか?」
「俺とさっきの彼、どっちが好き?」
「・・・えっと」
少しだけ言葉に詰まっただけだった。 しかし、僅かとはいえ確かに言葉に詰まってしまったのだ。 それに剛明は過剰に反応した。
「それが紅葉さんの答え?」
「え?」
「今俺たちは付き合っているんだよね?」
「あ、はい・・・」
「さっき告白をしたら凄く喜んでくれたよね? あれは嘘だったの? 本当だったらここで躊躇わずに俺を選んでくれるはずだよね?」
「だからそれは・・・。 って! ちょっと、剛明先輩!?」
いつの間にか剛明の家に到着していたようだ。
「剛明先輩! 止めてください!!」
拒む紅葉を剛明は無理矢理家の中へと連れ込んだ。 後ろからでも感じたことのない雰囲気を放っていて、ハッキリ怖いと思った。
―――何・・・!?
―――こんな剛明先輩、見たことない・・・ッ!
紅葉を部屋の奥へと連れ込み壁際へ追い込む。 その拍子にゴミ箱が倒れ体勢を崩した紅葉も倒れ込んだ。
「痛ッ・・・」
「実はさ。 俺も紅葉さんの優しさには出会った時から惹かれていたんだ」
「・・・え?」
「一目見た時に思った。 俺は紅葉さんのことが好きだなって。 でも無理矢理その気持ちを隠していた」
「どうして・・・」
剛明は屈み込むといきなり足を撫でてきた。
「ッ、剛明先輩、止めて・・・」
「どうしてって・・・。 紅葉さんを苦しめちゃうかもしれなかったからかな・・・?」
「嫌・・・ッ!」
恐怖のあまり紅葉はヴィンセントからもらったスマートフォンを操作し、言われていた黄色のアプリをタップしていた。
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