時を隔てた用心棒④
ヴィンセントは危険人物ではなかった。 しかし、日常生活で危険があり守ってもらったようなこともない。
―――もう慣れちゃったな。
―――ヴィンセントが近くにいるのが当たり前になっている気がする。
そこで疑問を感じた。
―――そう言えば、私たちの最初の出会いって何だったんだろう?
―――何となくは聞いてみたことがあるけど、思えばちゃんと聞いたことはないかも。
―――後で聞いてみようかな。
考えているうちに食事ができる。 他のことを考えていたせいかヴィンセントに言われているバランスのいい食事ではなく、簡単で偏った献立ができてしまった。
「たまにはこういうのもいいかもね」
「あはは・・・。 フォローありがとう」
いつも通り朝食を一緒に食べる。 そして早速大学へ向けて出発しようとした。
「はい。 ヴィンセントの上着」
「ありがとう」
「いつも思うけど、ヴィンセントの上着って何か重くない?」
「こういうゴツい服が結構好きなんだ」
「別にそんなゴツい程でもないような・・・」
大学には当然のようにヴィンセントも付いてくる。
―――ヴィンセントはいつも私の斜め後ろにいる。
―――付き合っているわけじゃないから、隣に並ぶのは遠慮しているんだと思うけど・・・。
―――もしかして斜め後ろにいる方が私を守りやすいのかな?
「紅葉おはよー! ヴィンセントくんもおはよう!」
大学内を歩いていると友達と会った。 ヴィンセントの紹介は適当にしてあり、今では慣れ親しんだ日常となった。
「ヴィンセントくん、日本はどう?」
「とてもいい国だよ。 もうここから出られなくなるくらい」
「本当ー? 日本人としてそう思ってくれるのは嬉しいなぁ」
「僕も日本へ来れたことを嬉しく思うよ」
「でも日本語は割と最初からペラペラだったよね?」
「うん。 日本へ訪れる前から日本語の勉強をしていたからね」
「流石ッ!」
ヴィンセントは紅葉の親戚で、日本のことを勉強するために日本を訪れ今一緒に大学で勉強しているということにした。 そして日本にいる間は紅葉がヴィンセントの世話をしている。
―――そういう設定にはしているけど・・・。
―――海外に親戚がいるって流石に無理があるんじゃないかな?
それでも友達はすんなりと受け入れてくれ不審がられることはなかった。
「そう言えば紅葉! ついに今日じゃない!? バイト先の先輩とデートなんでしょ?」
「そうなの! もう今から緊張し過ぎて心臓がドキドキしっぱなしだよー」
「初めて先輩から誘われたということは、何か今日は特別なサプライズみたいなのがあるのかもね?」
そう言われ想像してみて赤面したのが自分でも分かった。
「も、もう! そういう期待させるようなことを言わないで! 何もなかったら凹むから!!」
「はは。 ごめんごめん」
話しているとヴィンセントが申し訳なさ気に言った。
「紅葉ちゃん。 楽しそうなところ悪いんだけど、そろそろ急がないと講義が始まっちゃうよ」
「あ、うん。 そうだね」
「紅葉がヴィンセントくんの世話をしているって聞いたけど、まるで逆だよね」
「べ、別にいいの! ほら、ヴィンセント行くよ!」
図星をつかれたことを勘付かれないうちにこの場から離れようとした。 だが焦って方向転換をしてしまったせいか足を盛大に捻りこけそうになった。
「わッ!?」
「紅葉ちゃん! 大丈夫!?」
それを何とかヴィンセントが支えてくれた。 今だけに限らずこういう些細なピンチはしょっちゅうでその度に支えられている。
用心棒の仕事なのかは分からないが、これが日常を守ってもらっていると言うのなら確かに用心棒なのかもしれない。
―――用心棒としての最大の仕事だぁぁぁ!
―――気を付けないと・・・。
「大丈夫。 支えてくれてありがとう」
―――何か情けないなぁ・・・。
ヴィンセントに守られながら講堂へ入り講義を受ける。 そして友達の言ったことを思い出していた。
―――今日は何か特別なサプライズがあるかもしれない、か・・・。
―――今はヴィンセントが近くにいてくれるのが当たり前だけど、いつまでこの状態が続くんだろう?
―――・・・流石にずっとじゃないっていうのは分かっているんだよね。
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