時を隔てた用心棒②
時を遡り一ヶ月程前のこと、雨宿りにと寄ったスーパーでついつい買い込んでしまい、紅葉は一人家へ帰る途中だった。 歩道橋に足をかけると丁度階段で小さな子がボールで遊んでいるのが目に入る。
―――わぁ、何か危ない・・・。
雨が降った後ということで滑りやすくなっていて、足元を見ていなかった子供は案の定足を踏み外し紅葉に向かって落ちてきたのだ。
「嘘ッ・・・!?」
咄嗟に子供を抱え守ろうとするが、女子の力では支え切れず紅葉ごと階段から落ちそうになった。
―――もう、駄目かも・・・ッ!
強烈な痛みと大怪我を覚悟し目を瞑った。 だが転げ落ちることも痛みを感じることもなかった。
―――あれ・・・?
どうやら更に後ろで誰かが支えてくれたようだ。
「・・・あ! ごめんなさいッ!」
咄嗟に離れ大きく頭を下げる。 子供も不安気な表情をしていたため、頭を撫でた。
「僕、大丈夫?」
「うん。 お姉ちゃんありがとう!」
子供は元気よく去っていった。 そこで支えてくれた人にもお礼をするため向き直る。
「あの、助けてくれてありがとうございました。 ・・・ッ!」
お辞儀をしてその人のことを見て驚いた。 どう見ても日本人ではなく金髪碧眼のとても綺麗な顔立ちをしていたからだ。
もしかしたら日本語が通じていなかったのかもしれない、そのような心配は杞憂に終わる。 ただ彼の言葉は少しおかしなものだった。
「・・・ようやく見つけました。 僕の命の恩人である紅葉さん」
「・・・へ?」
これがヴィンセントとの出会いだった。 外国人の知り合いになど心当たりはなく、命を救った記憶なんて当然ない。
「ようやく見つけたって、どういうことですか?」
「僕の名前はヴィンセント。 ずっと貴女を探していたんです」
「私たち初対面ですよね・・・?」
「僕のことを忘れていても仕方がありません。 でも僕は貴女のことが分かります」
「どこかで知り合いましたか?」
「はい。 100年以上前に」
「100年・・・。 はいッ!?」
“あぁ、助けてくれたけどちょっとおかしい人と絡んでしまった”なんて思っているのが分かったのか、苦笑いを浮かべながら何故そのようなことを言ったのか説明してくれた。
どうやら彼には前世よりも更にずっと前の記憶があるらしい。 その初めて出会った昔にヴィンセントは紅葉に命を助けられたという。
そしてその恩返しをしたいがために、わざわざ日本語を勉強し、日本まで来て紅葉を探していたという。
「今が僕の人生4回目です」
「4回目で今初めて私を見つけたんですか?」
「いえ。 僕は生まれた時から既に紅葉さんの記憶がありました。 だから一生をかけて探し、幸いなことに毎回見つけ出すことができています」
「でも私には記憶がないんですけど・・・?」
「はい。 紅葉さんの記憶は受け継がれていないようです」
「そうなんですか・・・」
そう言われても信じ難い。 というより、信じられる要素が一つもなかった。
「どうして命の恩人が私だと分かったんですか? それに名前まで」
「このようなことを言うのはあれなのですが、毎回顔が全く一緒なんですよ。 もちろん髪型や服装とかは全然変わっていますけどね」
「嘘・・・!?」
「不思議なことに名前も毎回同じで“紅葉”です。 ご両親は毎回別の人なんですけど。 それに僕は運命の人だと感じているからか、何となく分かるんです」
確かに名前を言い当てられたことを思い出す。 だから前世の記憶があるのは本当なのかと思ってしまう。
―――実際にテレビで前世の記憶を持つ人はいるとか、見たことはあるけど・・・。
そう考えれば絶対にないという話ではないのかもしれない。
「それで、貴方は私をどうしようとしているんですか・・・?」
「はい。 どうか貴女の用心棒にならせてください」
「用心棒?」
「貴女は僕の命を救ってくれました。 だから僕も命を懸けてでも貴女を守り抜きたいんです。 そのために生まれてきましたから」
「今までの4回の人生もそうしていたんですか?」
「はい。 ・・・でも既に遅かったようです」
「・・・遅かった?」
「こんなにも若い貴女に会えたのは初めてなんです。 今までは見つけるのが遅くなり、紅葉さんは既に誰かのものになっておられました」
それはつまり結婚して既に隣に他の誰かが立っていたという意味だろう。
「そうなれば異性である僕が付き纏うのは流石に難しい。 だけど今の貴女では、僕には守れるチャンスがある」
「でも私今、好きな人がいるんですけど・・・」
そう言うとヴィンセントは少し考える素振りを見せこう言った。
「はい、構いません。 僕は全力でその恋を応援し紅葉さんを支えます」
「いや、そう言われましても・・・」
「もし紅葉さんが好きな人と一緒に住むことになったら、その時は綺麗に消え去ろうと思います。 僕のせいで命の恩人である紅葉さんの幸せが失われてしまうわけにはいかないですから」
「・・・」
「潔く身を引きますので。 どうか、その時まで。 その時まで僕を紅葉さんの傍に置いてください」
深く頭を下げるヴィンセントを紅葉はジッと眺めていた。 どうしようかと迷ったがヴィンセントは引く様子がなかったため渋々OKを出すことにしたのだ。
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