時を隔てた用心棒
ゆーり。
時を隔てた用心棒①
大学生になった紅葉(モミジ)は一人暮らしを始めた。 そうは言っても学業もあり半分くらいは親に援助してもらっている。 実家に比べれば小さな部屋。
それでも自分だけの場所があるというのが嬉しかった。 しかし、だ。 本来紅葉一人しか住んでいないはずのアパートなのに、隣には一人の男が座っている。
しかも金髪碧眼でこれまで生きてきて絡んだことのないような彼。 ヴィンセントと同棲を始めてから一ヶ月が経つ。
「紅葉ちゃん。 今日の予定は午前中から大学。 そして夕方からバイト。 夜からは剛明くんとデートだね」
ヴィンセントはスケジュール帳を眺めながら言う。
「すっかり私のスケジュールを把握しているね? それはヴィンセントのスケジュール帳なのに」
「そりゃあ、僕は紅葉ちゃんの用心棒だからね」
「もう用心棒じゃなくて執事みたいになっているけど」
それを聞くとヴィンセントは立ち上がって、紅葉に向き直ると恭しく片膝を立て頭を下げた。
「何かご用立てはありませんか? 紅葉お嬢様」
「そうねぇ・・・。 って、何かむず痒いよ!」
「自分で言ったのに」
金髪碧眼のヴィンセントだから余計に変な気分になってしまう。 ただ用心棒というのも冗談で言っているわけではなかった。
「でも本当に剛明先輩とのデート楽しみ!」
「そうだね。 今までずっと剛明くんへのアタックを頑張っていたもんね」
「うん! いつも私からだったから、初めて剛明先輩に誘われた時は心臓が飛び出るのかと思った」
はしゃぐ紅葉を見てヴィンセントは目を細める。
「本当に嬉しそう」
「うん! 本当に嬉しかった。 でも思えば、どうして急に私を誘ったりしたんだろう?」
確かに紅葉はバイト先の先輩である剛明(タケアキ)に猛烈なアタックをしていた。 しかし暖簾に腕押しではないが、あまり手応えを感じていなかったのだ。
なのに突然自分のことを受け入れてくれたことは嬉しくありつつも、疑問を感じてはいる。
「紅葉ちゃんの頑張りが実ったんだよ。 夜のデートのためにも日中は頑張ろう」
「そうだね!」
剛明へのアタックはあまり芳しくなかったが、アタックする前からいつも可愛がってもらっていた。 そのうち徐々に剛明に惹かれていった。
―――まだ剛明先輩には一告白をしていないし、デートもしたことがない。
―――だけど先日デートのお誘いがあって初めて手応えを感じた。
―――・・・まぁ、ちょっとは違和感があるけど。
―――このままゴールインとか有り得るのかな・・・?
ウキウキと将来のことを考えているとヴィンセントが突然立ち上がる。
「じゃあ今日は紅葉ちゃんに頑張ってもらいたいから、久しぶりに僕が朝食を作ろうかな」
「え? いいよ!」
「いいじゃん。 久しぶりにさ」
「大丈夫! 私がやる!」
ここは自分の家でもあって、これ以上彼に世話をしてもらい負担をかけたくなかった。 そのためヴィンセントを座らせ、率先してキッチンの棚を開ける。 普段あまり触らない場所。
戸棚の上がどうなっているのか正直分からなかった。
「わッ!?」
扉を開けるとまるで雪崩のようにたくさんの容器が溢れ出てきた。 ペットボトルの空やタッパーなどのプラスチック製品だ。
「いったぁー・・・」
とはいえ、量だけはかなりあったため紅葉は驚いて尻もちをついた。 慌ててヴィンセントが駆けよってくる。
「紅葉ちゃん、大丈夫!?」
「何とか・・・」
「僕が片付けておくから」
「ありがとう。 でも私がちゃんと片付けなかったのが悪いし、私も一緒に片付ける」
ヴィンセントに片付けてもらい、朝食は紅葉が全て作ることになった。 申し訳ない気分を感じつつ、隣で朝食を作り始める。
―――・・・ヴィンセントと一緒に住み始めてからもう一ヶ月か。
―――早いな。
―――ヴィンセントとの出会いは本当に突然だった。
―――そして一緒に住み始めたのも突然だった。
―――最初は物凄く躊躇ったけど、今ではこの光景が日常だ。
―――いつの間にかヴィンセントとの生活が心地よく感じている自分もいる。
紅葉は料理をしながらヴィンセントと出会った時のことを思い出していた。
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