第6話 

お湯という欲望に抗い、銭湯から出る

そろそろ任務報告しにいかなければならない時間で、フィルとの集合時間だったからだ


つまり、全て友人Aのせいということ


本部の司令官室の前に着くとそこにはフィルがいた


「・・・お待たせ」

「待ってないよ。今来たとこ」


ん?

なぜか、違和感を覚える

いやいや、日常会話じゃないか


「そんな固まんなくてもいいじゃん」


あ、あれ?あんな敬語でついつい話しちゃうあのウブそうな男の子は?

なんで、こんなにチャラチャラしてる雰囲気なの?


「・・・・なんか、あった?」

「なんにもないよ。風呂入ってきただけ」

「・・・・そう。・・・・報告行こう」


若干、距離を保ちつつ司令室に入ろうとするが


フィル?が私に壁をドンッとして、入るのを拒まされる

顔が近い

青い眼に深みがかかっていて、私は恥ずかしくなり顔を思わず背けてしまうと


フィル?が上品に笑った


「・・・・なにやってるの?」

「いや、まだ2人でいたくてさ」


フィル?は入りたがっていないようだった


あと気づいたことがある

フィルの身長が縮んでる、友人Aくらい小さくなってる


??いや、夕方になると身長が縮むって話を聞いたことがあるがこんなに小さくなるものなのか?


若干、私より身長は大きかった気がする??


「すごい困惑してるね。かわいいよ」

「・・・・誰?」

「みーちゃん!!」


私は偽物だと断定して問い詰めようとしていたら、←できるとは言ってない

フィルの二人目が現れた?


「お兄ちゃん。この子、勘鋭いんだか、鈍いんだかわからない」


フィル一人目。みーちゃんと呼ばれるフィルが急に女の子っぽい声になった?


「リリー、ごめん。これ妹なんだ。どうしても会いたいって言ってて。ダメって言ったんだけど、やっぱりきてたか」


チャラフィルがウィッグを外し、サラサラなショートの黒い髪が現れた


「はい。ミチルです。よろしく」

「? よろしく」


ミチルという女の子が出してきた手を握ると力を入れられ痛みつけようとされた


しかし、全然痛くない。

握力が弱いのだろう


「お兄ちゃんはあげませんよ?」

「・・・?別にいらない」


しかし、この女の子。

美人だ

さらさらしたショートの黒い髪

肌が透けてるような気がするほど綺麗な肌

なぜ、フィルと見間違えたのかわからないクリリとした目

何もかもが揃っている


「いいよねー。鬼ってだけでお兄ちゃんとずっと居られるんだから」


角がない

人間だ


「・・・報告しに行こ」

「あ、そうですね」


私は避けるように司令室のドアの前に立つと


「じゃ、私は先帰ってるね。お兄ちゃん」

「あっ、うん。じゃあな」

「バイバーイ」


フィル妹がエレベーターに乗り下へ降りて行ったのを見てから司令室のドアをノックする

すると、ドアは自動で開いた

しかし、このドアは手動のドアだったはず


「おかえりー。リリちゃーん。フィルくーん。お姉ちゃん心配だったよー。グヘッ」


司令官が飛びついてくるのを私は反射的に刀でチョップしてしまった


この人は、昔から面倒を見ていてくれた3つ年上の姉さん

神谷 ミコ。

ここの司令長をやっている

私は、この人の下積み時代から知っている


皮肉で司令官と呼んでいる


フィルとも面識があったようだ

なんか、真っ青になって必死に目を逸らしている


何したんだ


司令官は地に伸びた体を持ち上げ、さらさらとした紫色の髪をはらう


「おかえり。報告することなんかある?」

「き、基本的にいつも通りでしたよ?」

「そう。じゃ、三日後に新しい任務やってもらうから存分に休んでてー。じゃねー」

「え?ちょっ」


司令官は、話を淡々と進め終わらせる

そして両手に花ならぬ両手に筋肉になってた人たちに私達はたちを摘み上げられ外に放り込まれた


筋肉達は、扉をバンと大きな音が立つほどの勢いで閉めた


「あっおかりー。早かったねー」


 フィル妹がフィルを出迎えた

 フィルは妹に愚痴を言って慰めてもらっている


 仲がいいみたいだな


 私もこんな風に・・・・・いや、やめよう


 フィルが落ち込んでいるのは本来なら、10日程設けられる休みが今回は3日という通常の三分の一ほどしかないからだ

 フィルはこんなに連続で入ったことがないらしい

 まぁ、鬼によっては毎日入ってる人もいるが負担が大きく精神的に崩壊するか魔獣に喰われるかの二択でこの系統の人たちは一ヶ月後にはいなくなる


 鬼に課される任務は強制で、必ず出なければならない

 まぁ、お察しの通り逆らったら死刑


 今日受けた任務も強制任務だった


 しかし、知人Aのような鍛治屋や司令塔、鬼用病院などで働いている鬼はその任務が出されない

 いや、今のところ出されていないだけだけどね

よほどのことが起こらない限り出されないのだ


 なので、鬼才を持たない鬼はそこで働くことになっているのだろう


 私も本来はここで働く予定だったが、師匠に才能を見出されて、弟子入りした


 私は精神すり減らす作業や精密な作業は向いていなかったため、師匠がいなかったらミスをして、とっくに死んでいる


 特例というわけか

その代わりにと、任務が多いことは納得いかないが。


 鬼達には安全な職などない上に働かないという選択肢は許されないから仕方がない


人類の奴隷だから、

当然だ


「3日って・・・」

「・・・鬼不足。仕方ない」


 こう口では納得しているが、頭の中では『ほぼ毎日任務の私は残りの寿命一ヶ月』で満たされていた


「そうですけどぉ」


 弱音を吐くフィルをフィル妹がよしよしと頭を撫でながら帰って行った


「さようなら」

 

 私も帰るか

 知人Aが待ってるだろう

 そう思った矢先、私の電話が鳴る


『リリちゃん。司令室に戻ってきて』


 司令官か


 私はそれを見て、自分の足を元あった場所に戻して振り返り扉を開ける


 すると、さっきの筋肉たちが椅子と脚置き場になっており司令官の下着がチラチラと見える


 それに加えて電球がピンク色に光るものと取り替えられている


 うーわっ。この人の口癖だった

 "あの私をこき使うゴミどもにいつか仕返ししてやる"

 それが叶ってしまっている

 

 SMという奴だな


 筋肉たちの呼吸音がここまで聞こえて正直言って気持ち悪い


「リリちゃんー。やっと二人きりになれたねー。辛かったー。フィル君こう言うのに耐性ないからねー。この前遊んであげようとしたら怯えられちゃった」


 私が耐性持ってるみたいな言い方やめて欲しいんだけど

 私はこう言うの理解持ってないタイプで行きたいんだけど

 まだ未成年なんだから


 7歳の時にこれを見せられた時、どれほど衝撃を受けたことか

 衝撃で固まっていたのをこの子はこういうのに耐性があると勘違いされた


 筋肉たちの興奮している顔も生理的に無理だし

 司令官は幸せそうに頬を赤らめている

 刺激が強すぎる


「そろそろリリちゃんにもこいつらみたいな豚を何匹かつけてあげたいんだけど。生憎、希望者が多すぎてねー」

「・・・・いらない。・・・・連れてきたら異動願い出す」

「えー。いいのー?こいつらはいいわよー私の言うことをなんでも聞いてくれる。お礼に叩いてあげると本当にブヒブヒないて惨めな姿を見るの。可愛くて仕方ないわよー。リリちゃんは絶対才能あるのにー」


 無理だ、キモい

 変態とは相いれない

 むしろ、相入れたくない


「フィル君の奴隷希望者もめちゃくちゃいるんだけどー。男が半数占めてるのが面白いわよねー」


 あっ、新しい扉を見せようとしてきている

 話を逸らさなければ

 

「・・・・呼んだ理由は?」

「これ見せるためって言ったら?」

「・・・・帰る」


 司令官が筋肉椅子から立つと筋肉たちが外に出る


 大事な話、なのはわかったけど

 いきなりすぎて温度差にビビるわ


「で?フィル君はどうだった?」

「・・・鬼才の応用も、銃の腕もいい」

「ふーん。まぁ、当たり前か」


 当たり前なのか?

 死なないための努力は当たり前ではあるがあのくらいの強さは別に当たり前ではないと思う


「ペアはフィル君で登録していい?」


 私はコクリと頷く

 しかし、これだけだとは思えない

 わざわざ司令官が大好きな筋肉たちを外に出したくらいだ。


「さて、本題に入ろうか」


 私は司令官の紫色の目を見つめる


「そんなに見つめられたら照れるじゃないか」

「・・・・本題に入る」

「わかった、わかった。今日の任務の遺品回収任務でリリちゃん達が埋葬した鬼達いたじゃない?遺体の傷、妙じゃなかった?」


 見ていたというのはこの人がここの司令官を任される由縁、この人の鬼才『支配者』。

 自分の部下の持つ情報を共有できる


 部下の時、なのでちゃんとプライベートは守れてはいる・・・・・と思う

 そこに這いつくばってる筋肉むちむちの変態は知らないけど。


 おそらく、私の目と事前にリンクしていたのだろう

 だから、調査書も出していないのにも関わらず、私が任務で起きたこと全てを把握しているのだ


「・・・おかしな点は見当たらなかった気がする」

「いいやおかしいよ。リリちゃんが戦った中型は針のようなもの使ってきたでしょ?切り傷ばかりで刺された痕のないあの遺体はおかしい」


 確かに切り傷ばかりだったが針は抜いたのではないのか?


「抜いたんじゃ?と考えているだろうけどそれもない。鬼なら出血時の対処法は心得ているはずだ針が刺さった時の出血はその針を抜かない方がいいなんてこと知っているだろうしね」


 まぁ、確かに

 抜くと大量に血が噴出するけど

 刺さりっぱなしでも死んでしまう

 死の直前で抜いたのではないか?


「そもそもその針、遺体の近くに無かったしね」


 ぐぅ


「リリちゃんー。もしかして、感情なかったりする?今の悔しい顔をしていい所だよ?」


 悔しいわ

 表情筋が死んでしまってるだけ

 変な言いがかりだ


「えー。でも、フィル君の前では結構微笑んでたよー?」


 それは、・・・っていうか。

 こいつ私の心読んでるな


「読んでないよー。ただリリちゃんの考えてることが頭に入ってくるだけ」


 それを世間一般では読んでることになることを知らないらしい


 『支配者』の力か

 勝手に覗かれたのは不本意だがこれの方が話が早く進む

 とりあえず、許すか

 どこから聞いてたんだ?


「んーとね。興奮してSになりたいって考えてたところくらいかなぁ」


 そんな気持ち悪い司令官みたいなこと考えた覚えはない


「あーっと?Mだったけ?」


 ぶっ飛ばすぞ?

 もっとない。

 それで鬼の切り傷は誰にやられたんだと考えてる?


「?他の魔獣じゃないの?」


 他の魔獣は、あの辺りにいなかった

 魔力の気配がなかったし足跡や匂いもなかった


「そう。じゃ、仲間割れの線も視野に入れとくわね。」


 仲間割れ・・・・

 人間同士ならまだしも

 鬼同士が争うだなんてね。人間が世間への鬱憤を私達で晴らすように

 鬼は鬼同士で鬱憤を晴らしているのかもしれない


「リリちゃんは、人間と鬼が全くの別物だって考えてるのね。・・・・まぁ、リリちゃんの場合はあんな過去があるから仕方ないか(ボソッ」


 ?


「とりあえず、3日後はその調査に行ってもらうからね。忘れないように。風邪をひいたとしても行ってもらうからね。我々人類の危機に関することだから」


 わかった


「あとリリちゃん、最後にお姉さんとして忠告。鬼も人類に含まれることを忘れないでね。」


? わかった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

泣いた黒鬼、剣を持つ ただの枝豆 @EdamameSandanju

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ