第3話

すっごく外の空気が・・・・・まっずい!!


ゴミの匂いと腐った物の匂い、排気ガスの匂いもする


くっさい

吐きそう☆


さっきまで青かった空が赤く、コンクリートまでも赤く染まっている

鉄臭く、1秒でもここから離れたいと言う嫌悪感がついてくる

そり立つビルには何かしらの肉片がへばりついている


世界が色あせている

きっと、鬱の人が見る世界だな


ここが黄泉の本質

街とは違い、なんの整備もされていないただの荒んだ壊滅世界


ここが私たちの職場であり鬼たちの住処である


人間の安全のため平和のために働かせられる

それで得られるのは自分の存在権のみ


私は、厳しい現実を目の当たりにして、心の喜びの顔がスッと消えて真顔になる


昔に読んだ文献ではここは首都東京のパラレルワールドらしい

人の生む負の感情がここを腐らせた


ビルは斜塔となり、瓦礫にもなっている

普通に立っているビルはもうない


こんな殺風景でゴミ溜めのような外の景色は吐き気を催すほど帰ろうという意思が強くなる


てか、もう帰りたい

こんなところで死にたくないし


『任務内容の確認をします。1.鬼の武器回収 2.中型魔獣の討伐 以上です』


「はーい」


フィルがまたもや機械に向かって返事をする

青い眼をキラキラとさせた少年は私には眩しすぎるほど陽キャ感が増していた。

どうしてこんなに光っていられるんだ


まぁ、そんなことは置いておいて

私は地面を踏み躙り、蹴ってその元東京を走る


しばらくすると沈黙に耐えかねたフィルが話しかけてきた


「あ、そうだ。リリーの鬼才ってなんですか?」


鬼才、簡単に言うと鬼の持つ異能力のことだ

鬼が当然に持つ物


それによって、鬼の仕事が決まる

業務系なら人間界に送られ働き、攻撃系ならば前線は駆り出される


そして、最大のプライベート


誘拐の原因にもなるため、周りに誰もいないことをしっかり行ってから確認する


フィルはよっぽど沈黙が耐えられなかったのだろう

周りに人がいないわけだが、割と簡単に聞いてきた


話を繋げようとしてくれたのだろう

とても、ありがたい


 だけど、その話は私に振っても意味がない


「・・・・私には鬼才がない」

「ええ!!」


急なフィルの大声に驚いて、躓きそうになる

フィルに合わせていたとはいえ、このスピードでこけたら流石に足から血が出る

危なかった


「・・・?」

「鬼才を持ってない鬼は、絶対に任務用鬼にはなれないはずです」


知らなかった・・・

常識ですよと言わんばかりのあの目が私を苦しめる

フィルこそ常識外れなことするじゃんと叫びたかったが、そんな勇気もなく、ただ黙ってしまった


昔からガッカリさせるのが得意だったからもう慣れている

しかし、ここまで驚かれると悲しくなるな


私は無意識に初めて会う人には自然に見栄を張ってしまっているようでこんな反応は知り合った人と話す度に出てくる


「・・・別に闘いに支障はない」

「あ、なんかすみません」

「・・・気にしなくていい」


沈黙が生まれる

フィルがこの空気に勝てなかったのか、再び口を開く


「あっ、僕の鬼才は『影法師』で、影を自由自在に使える能力なんだ」

「・・・すごい」


 ここだけのシーンを見ると僕は鬼才を持っていますよといった自慢をしてくる嫌な奴に見えるが、今まで必死に話を繋げようとしてくれていたことからそれはないとわかる


それに、任務において能力確認の方が最重要だからそんなことは気にしてられないしね


今までやってなかったことの方が問題だしね


「こういうことができます」


フィルが私に駆け寄り、私の影に触ると私の影からごっつい兵士のようなものが出てきた


私はその兵士をペチペチと触れてみる

影だけれどちゃんとした実体は持っているようだ

これ、壊れるのかな?


「・・・一回戦ってみる?」

「え?いいですけど。こいつは実戦では使えませんよ?」

「?」


私は首を傾げて、フィルの目を見る


「これ、使おうとすると僕が無防備になっちゃうんですよ。だから、僕は獲物にこの銃を使ってます」


確かに、脳内だけでこの兵士が動かせたらペアなんていらない、上に軍隊にも匹敵してしまう


そんな強い鬼に仲間を派遣されるわけがないか


「・・・オートにはできないの?」

「無理ですねー。こいつはただの武器ですから」

「・・・そっか」


ダメ押しで聞いてみてもダメだったか


残念。

帰ったら手合わせしてもらおう


「そ、そういえば、今日の任務って中型魔獣にやられちゃった鬼の武器の回収だったよね。」

「・・・・そう」


言い方が軽い・・・・

私は、この作業のような言い方に違和感を覚えてしまう


「・・・・回収じゃない。弔い」

「え、ああ、そうですね」


 鬼に人権が存在していること自体がおかしいため、どうしてもみんなの言い方が軽くなってしまうのだ


昔それに疑問を持ってしまい、他の人に聞いたが「みんなそう言う」と答えられた


正直言って怖かった

同じ目、同じ顔でみんなそう答えるのだ

今でも鮮明に覚えている


 私の場合はそのみんながいないからこんな違和感を持ってしまうのだろう


はは、悲し


 私達が死んだ鬼たちの生きてた証の持ち帰り人間に渡す

しかし、それは人間たちによって再利用され、武器の素材となる


最悪で効率的な循環型社会

悲しいことに私たちのいた証など何一つ残らない


鬼に人権はないのだから


そんな事を考えてしまったため私は一言も喋らず走り、気まずい雰囲気になりそうになったが


血の匂いがしたことでそんな雰囲気は消え去った


「リリー!」

「・・・・」


これほどまでに強い血の匂い

しかし、あたりには匂いの主は見当たらない


おそらく大量に血を流したのだろう


匂いの方向に行ってみると

私達は小さい洞窟の前にSOSと並べられた石を見つけた

それを見て魔獣の罠の可能性もあったため、フィルが閃光弾を洞窟の中に放ち、中を確認する


「この人達・・・・」


男女の鬼が互いにもたれかかり支え合って亡くなっていた。

男女の鬼は手を重ね合え、男の方の鬼には薄い口紅の跡がついていた


今まで、ずっと寄り添い互いを信頼しあい愛しあっていたことがわかる

それが血生臭く、このようなロマンもクソもないようなところで終わってしまったのだ


この2人が人間だったら、戦場で一緒に死なずに2人で平和な暮らしができただろうに


そう考えてしまうと嫌でも自分の手を握りしめてしまう


魔獣に襲われなければ、逃げれていたら、


そう思うと手を握りしめてしまう

私の拳がギシギシと音を立てていたのにフィルが気付いて、私の手を握る


「埋葬してあげましょう」

「・・・・うん」


私達はその男女の角を落とす

そして私は大きく三つ編みにしていた自分の髪を結んでいたリボンを解く


そして、そのリボンで彼らの手が離れないように固く結び、手を繋げたまま土に埋めて埋葬した


そして、私達は手を合わせる


「・・・・安らかに」

「おやすみなさい。」


私達はこの鬼たちの武器を鞄に入れて、第二の任務である討伐対象を探し始める


走る度、髪の毛が顔や首に当たる


中型魔獣は弱く私1人でも ザワ 容易く倒せる相手のはずだが、訓練された鬼2人がやられてしまう ザワ ほどとなると通常とは違いかなり ザワ 厄介な敵であるだろう


ザワザワ鬱陶しい


私は、チクチクと顔に当たる三つ編みを解いたのせいでできた羽ねている自分の髪を触り、立ち止まり


「・・・・邪魔」

「え?はい!」


フィルが真っ青な顔をしてびっくりしていた

私がフィルのことを邪魔と言ったのだと思ったのだろう


「・・・・・・フィルのことじゃない」


私は慌てて訂正する


この髪のままだと、魔獣討伐に邪魔になる

よし、髪切ろう


そう思い私は、持っていた刀をやたら長い自分の髪に当てて力を入れようとすると


「ちょっとちょっとちょっとーーーー!!」


女の子のような綺麗なフィルの手が私の手に割り込む


「?」

「?。じゃないよ!!ちょっと待っててください」


フィルは自分の影に手を当てて目を閉じる

すると、髪を止めるのにぴったりな大きさの黒いゴムが出し、私に渡す


「これで止めてください」

「・・・ありがとう」


私は、フィルから貰ったゴムを咥えて、時間のかかるはずの大きな三つ編みをほんの3秒で終わらし

とめてみせた


「は、早いですね。僕も昔、妹の短い三つ編みやったことあるんですが小一時間くらいかかりましたよ」

「・・・5歳からやってるから慣れてる」


黒い瞳を輝かせながらフィルは、私の手を見つめてくる


「・・・どうかした?」

「ああ、いえ、すごいなぁと思いましてそれにしても何で手間のかかる三つ編みにするんですか?ポニーテールの方が楽なんじゃないですか?」

「・・・一つ結びとしては同じ」


フィルが微妙な顔をして私を見る


「思ってたんですけどなんでわざわざ任務に露出度の高い服着たり、結ぶのがめんどくさい三つ編みにしたりしてるんですか?」

「・・・・師匠の命令。」

「今度合わせてください、ぶっ叩きます」


フィルがにっこりとして私にそう言ってきた

私はそれにクスリと笑ってしまう


笑ったのは久しぶりな気がする


「・・・フィルは師匠の足元にも及ばない」

「でも、ゆる・・・・」


私達は突然、背筋がぞわりと不快感を覚えた


「っ・・・・近くに魔獣いる」

「はい。周辺、魔力が高くなってますね」


久しぶりだったのに・・・・


「そろそろ集中しなければなりませんね」

「・・・・最初からしてた」

「行きましょう」

「・・・・待って」


フィルは曲がり角を進もうとしていたが

私は嫌な予感がしたので、フィルを引っ張って止める


フィルは雰囲気で察して銃を構えて戦闘体制に入る


私は地面の赤い土でできた石を踏み潰し、それでできた粉を前方の曲がり角に投げつけると


それに反応し、曲がり角の壁に針が1本突き刺さる

やはり、罠だ


「ここでは、不利そうですね。上に上がりましょう」


フィルが小声でそう私に伝えてから影をビルに伸ばして円状の影を作り出す


一言で言うと簡易エレベーターを作ったようだ


髪留めといいこれといい本当に便利だ

私も鬼才がほしいな


私はそれに乗りビルの上へと登る


針を飛ばした方向へと目線を向けると

下の広場に肉塊から針が一本出ている魔獣がいた


「あの針が武器でしょうし、遠距離戦は不利ですね。一気に距離を詰めたいところですが、死角のない広場の中央を陣取ってますね。動かせたら楽なのですが・・・」

「・・・・なんとかなる」


私は刀をさやから抜き、自分の足に力を入れ、銃の如く勢いで魔獣の元へ飛んだ


「えええええええ!!」


フィルの叫びを無視して、飛んでくる針の回避に神経を集中させる


一本、二本、三本と丁寧に避けていく

一本ずつしか撃ってこない


撃てないのか


私は、四本目を避けそれと同時に攻撃しようとすると目の前には針があった


一本ずつしか撃ってこないというのはフェイクだったらしい


「危ない!!」


フィルが私の前に影の壁を作って五本目を対処してくれた。

作ってくれた壁を蹴りつけ

私はそのまま勢いを殺さず魔獣の肉を斬ろうとするとブユンといって、魔獣が肉を凹ませ回避した


私は斬ろうとした勢いを殺さず回転しながら地面に着地した


自身の肉を自由自在に操れるようだ

初攻撃を逃したのは痛いが、次の攻撃に備えなきゃいけなかったので距離を少し取るべき


そう一瞬で感じ、足を動かそうとすると


「そのまま斬ってください!!」


という叫び声で私の体がフィルを信じた

私は刀を赤い空へと向けて斬る構えを取る


そのワンテンポ後、魔獣に満月のような綺麗で大きな丸い穴が空いた


フィルが持っていた長い銃が空けたようだ


そのチャンスを私は逃さず二本目の刀も取り出し魔獣の紫色の血や、臭い魔獣の肉片を浴びながら魔獣を切り刻む


その姿はまるで魔獣を喰っているような姿である

肉片系統の魔獣だから仕方ない


こいつらは痛みを感じず、核を壊さない限り永遠に再生し続ける


 もし、攻撃をやめたら

取り込まれ殺されるもしくは再生され、今までの努力が水の泡と化すことになるだろう


だから、私は斬る。

斬り続ける


相手が動けなくなるまで

肉片系統の魔獣相手に攻撃する時は止まってはいけないのだ


体を削ぎ落としながら核を探すと、口の場所が露わになり、無数の小さい針が存在していて引っ込み始めた


飛び散るときの合図だ


私は諦め距離を取る

しかし、その時魔獣に毒があったのか

体が脱力し片膝をついてしまった


この程度ならいずれ回復するから問題ない

そう自分に言い聞かせて


脱力する体を起こし

顔についた魔獣の紫色の血を腕で拭う


決定打と運がない

あれだけ闇雲に斬っても核が現れない

核がかなり小さい個体のようだ


魔獣はブクブクと震え再生を始めたようだった

まだまだやれるという主張が感じとれる


しかしその反対に私の腕はガクガクと震え、限界を感じた


次の一太刀で全てが決まる

そう覚悟を決めて、私は刀を構える


「詠唱終わりました!!行きます!!!」


フィルの声だ

私はその声を聞きまた足を止める


するとミサイルを飛ばしたかのような音がフィルの方から鳴り響く


その次の瞬間、魔獣はサイコロステーキのような形でバラバラと崩れた


その落ちてくる大量に落ちる肉片

せっかくフィルが作ったチャンス逃さまいと集中する

時間が遅くなるような感覚に陥りつつ


中から核、魔獣の心臓を見切り


それを私は躊躇なく斬った


すると次の瞬間、魔獣がジュワーという汚い音を出しながら溶けるように消えて行った


「・・・討伐完了」


私は、新手が来ないうちにフィルの所に戻る


「結構簡単でしたね」


詠唱の影響か、腰を抜かしたフィルがそう言う


「・・・フィル強い。・・・その銃も」

「あ、ああ、これですね。弾は影をつかってるんです。対象の内部に入った瞬間爆発する様にしていて結構威力出るんですよ」


フィルが照れて頭を描きながら説明してくれる


影だから弾費もいらないとなると需要が高い

詠唱は必要なようだが、連発もできるようだしかなり強いのではないか?


すると、フィルがなにかを思い出したように私の両腕を掴んでくる


「あ!後、一人で先に突っ走らないでください」

「・・・ごめん」


私は俯いてそう言う

もっと安全にできたはずなのに完全に油断してしまった自分が情けない・・・


「っつ、次は、ちゃんと対策を考えてからにしましょうね!」


フィルは何かに動揺しながら、そう言った

何故動揺しているのかはわからなかったがもっともなことだったので頷く


次があるかどうかはわからないが。


任務完了のサイレンと帰還命令の合図のサインが空に浮かび上がる


どう言う仕組みかは私も知らない


「帰りましょうか」

「・・・うん」


私達は、ヘリコプターに戻り椅子に座る


「お疲れ様でした」

「・・・お疲れ」

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