第44話

右手に青白い光が蘇った。


レイナのように光が薄く纏わりついている。先程までより光り輝いているようにも見える。


「昔の女でも思い出した?」


「ああ、アリア《あいつ》以外の思い出がなくてな」


「素敵な人だったんだね……」



ブカァァァァ


前方から聞こえる。

複数いる……


「セツ!」


「やらせてくれ!!」


手を横に伸ばし、前に出ようとするレイナを制する。


うっすらと姿が明らかになる。

群れの数は3体。それぞれの距離がかなり近い。俺は脇差しを地面に落とし、背中に抱えた大ククリ刀に手を伸ばす。


敵はかなりの興奮状態にある。一匹でも仕留め損ねたら面倒だ。


手から溢れる魔纒の雫をククリ刀に滴らせるように意識する。青い光は大きな刀身を包み込んだ。


そして、真横からの一閃で3体のブーガを纏めて捉えた。


「があぁぁぁぁぁぁ!!」


狙い通り、全ての獲物に刃が掛かった瞬間。俺は声に力を乗せるように叫んだ。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁああぁ!!!!!」


だが、手応えは無く、勢い余ったククリ刀に引っ張られるように俺の体は大きく流れた。


ガンッッ!


そして、右側の壁にククリ刀がぶつかり、鈍い音がした。


3体のブーガは剣筋に沿って両断されていた。まるで、豆腐を切ったような感触だった。



「なにこれ……」


レイナが立ち止まり、呆然としている。


魔纒まてんじゃないのか?」


「そうなの?」


「違うのか?」


「わからない。でも………うん。まぁ、いっか」


キョトンとしていたレイナは、考えることを放棄したような諦めの表情に変わる。


魔纒に関するレイナの知識はすべて経験則であり、他の使い手の魔纒を見たのは初めてだという。


これまでの「身体強化」とは全く異なることは明らかだった。あれが「属性付加」なのか?

レイナの火は燃焼。俺の水は鋭利性の増強効果があるのかもしれない。


再現しようとしても、先程のように薄く輝く光は出ない。むしろ、最初の頃よりもボワボワとしており、野暮ったい。


「だめ」


レイナが俺の手を掴む。


「たぶん、瞬間的に魔纒を使いすぎたんんだと思う。源の魔力が尽きかけてる」


レイナは魔纒の放出を止めるとともに俺の魔力を探った。


かつて、アリアも俺に触れ、体内にある魔力を感じ取っていた。俺の魔力は平均並みだと言っていた。


「魔力の“量”は使うことでしか鍛えられない」


レイナの言葉通りだとすれば、俺の魔力量はあれから変化していない。


俺は魔法も使えないし、魔纒を行使したのも実質3回のみ。あれだけの攻撃で、魔力が切れかけているのも当然かもしれない。


「すまない…」


「なんで謝るの?」


「ハイブーガに遭遇する前に力を使い切ってしまった」


洞窟に入る前から、魔纒を温存するように散々注意されていた。行動中もレイナは俺の余力を気にかけてくれていた。


にも関わらず、このザマだ。


俺は先の戦闘で、街の防衛よりも自分の欲を優先した。


殺伐とした雰囲気が残る戦場で、レイナはくすっと笑う。


「よく覚えといて。あれがハイブーガだよ」


レイナが、示した先には6つの塊となったブーガの死骸が転がっていた。


うち2体は、体色がやや黒ずんでいるように見える。

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