第42話
翌日、俺は予定よりも早く目が覚めた。興奮しているのか、体が少し汗ばんでいる。テスラやソフィを起こさないようにそっと階段を降り、裏手の水浴び場に向かう。
朝の空気は程よくヒンヤリとしていてとても静かだ。
水浴び場の扉を開けると、レイナの姿があった。
ほんの一瞬で、後ろ姿ではあるがレイナのありのままの姿を見てしまった。
「あっ!??」
レイナは咄嗟に服を羽織る。身体はまだ濡れたままだ。
「すまない!」
水の音が一切しなかったので誰もいないと思っていた。俺はすぐに扉を閉めた。
一緒にブーガを狩るようになってから、レイナは俺と同じ宿に拠点を移した。
だが、水浴び場で出くわしたことはない。
そもそも、女は建物中にある浴室を使うことになっていて、水浴び場は男専用のはずだった。
「あははっ……おはよう、セツ。こっちこそ変なもの見せちゃって、、水をかぶって気合いを入れたくてさ」
「本当にすまない……」
「謝ることないよ。私が悪いんだし……見ちゃったよね?」
「後姿だけ…」
「だよね。困っちゃったね。お嫁にいけなくなっちゃう……セツ、私をもらってくれる?」
元気で、たまに男っぽい、いつもの声ではなく、艷やかな声でレイナは呟いた。
俺は何も答えられなかった。
ーー昨晩、テスラが作ってくれた朝食を食べ、ダンジョンへと向かう。
街の出口には多くの門兵がつめていて、ダンテの姿もあった。
「帰ったら祝杯だ」
ダンテは、片手を上げる。
「お前の奢りでな」
俺は、力いっぱいその手を叩いて、討伐の成功を誓った。
ダンジョンへの道の途中にはところどころに野営のテントがあった。リーガンが緊急召集で呼び掛けた冒険者たちである。
テントの数は、ダンジョンに近づくごとに増えていく。
「そろそろ始めるよ」
俺はしっかりと頷いた。ダンジョンの入り口まであと10分程度の地点で、レイナがブーガ玉を地面に投げつける。
おなじみの悪臭はまたたく間に辺りに充満する。
冒険者たちもテントから続々と出てきた。装備を身に着けた状態であり、準備はすでにできているようだ。
E級中心の構成ではあるものの、経験が比較的多い熟練者をアスカが選抜してくれた。
冒険者の視線を感じる。俺の前を先導するアスカはそれに応じることなく、堂々と道を突き進む。#C級以上__トップクラス__#たる風格を感じる。
それからダンジョンに着くまでに、3つのブーガ玉を使用した。
ダンジョン入り口にはアスカを始めとした大勢の冒険者が待機していた。
レイナはアスカと目を合わせて、暗黙の了解を取ったあと、最後のブーガ玉を地面に叩きつけた。洞窟の中からブーガの咆哮が聞こえる。
「後は頼んだよ」
俺とレイナのふたりはブーガ玉の匂いが染み付いたローブを脱ぎ捨て、横の茂みに身を潜める。
来る…ブーガの足音、うめき声が近くまで迫っている。
アスカが放った矢をきっかけに、ブーガたちと冒険者との戦闘が始まる。
これもレイナが提案した作戦である。あえてブーガ玉を外で使用することでブーガたちをできる限り外へ追い出す。
そして、俺たちは、守りが薄くなったダンジョンを駆け抜け、最奥へと向かう。討伐は予定通り、ふたりのみで遂行する。
だが、この作戦は街を危険に晒す。そのための防衛手段として、多く冒険者が必要だった。
アスカたちは大量のブーガたちを着実に倒しつつ、徐々に後退し、戦いの場を俺たちがいる場所から遠ざけて行った。
茂みの中、密着した状態でレイナは、耳元でささやく。
「ドキドキするね…」
そして、俺の頬に#口づけ__キス__#をした。
レイナの唇の柔らかさに驚いて、横を見ると、レイナは少女のようにあどけない笑みを浮かべていた。
「セツ、駆け抜けよ」
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