第41話

昨日、いつものようにブーガ玉を利用した誘導作戦で大量のブーガを狩った。いつものように死骸を積み、胴体を切り裂き脂に火をつけたあと、出口へと駆け出した。


そこで、残り香に誘われたブーガに遭遇した。ブーガは俺たちに気づくと逃げ出した。それを追った先に、2人の女性はあった。服は着ておらず、ひどく汚れていた。


すでに亡くなっていたことは近づかずともわかった。レイナはすぐに防具を外し、脱いだ上着を女性にかけた。俺も同じようにした。


レイナは女性の目を閉じたあと、そっと女性の恥部へ手を伸ばし、感触するように何かを調べていた。


思い返せば、ブーガの繁殖の道具にされたかどうかを確認してたんだろう。


「畜生が……」


憎しみと怒り、そして自責の念が入り混じったレイナの声がよみがえる。



ーー「セツ、相棒を解消するなら今のうちだよ」


今日にでもハイブーガを討伐しに行く気だろう。


「その気はない。共に行こう」



レイナほどにしろ、俺自身も負の感情で満たされている。ハイブーガを1日も野放しするわけにはいかない。何よりも、ブーガ狩りに専念しておきながら、被害を止められなかった自分を許せなかった。


女性ふたりの死体はレイナがダンジョン外の湖で綺麗に洗い、家族が見守る中、レイナの魔法で燃やした。

街に連れ帰れば、好奇の目に晒される可能性もある。家族の希望だった。


俺たちは、最後の火が消えるまでそこに居た。辺りは暗くなり、街に戻ると門にはダンテが立っていた。俺に気づいてはいただろうがこちらを向くことはなく、闇に染まった目の前の草原を真っ直ぐに見つめていた。ほんの些細な異変も逃さないように。


宿に帰ると、テスラが娘のソフィを抱きしめていた。その手は震えていて、頬には涙がつたっていた。



ーー「すぐに他の冒険者を手配しよう」


リーガンの声に応じるようににアスカが立ち上がる。


「ダメ。かえって足手まといになる。明日早朝に私とセツでけりをつける」


「それは駄目だ。ギルドマスターとして承認できない」


「ハイブーガはD級の中でもトップクラスの破壊力を持ちます。それに、多数のブーガとの混戦が予想されます。従ってこの依頼はC級依頼となります。D級のレイナさん、E級のセツさんではこの依頼を受注することはできません」


「じゃあC級に上がる」


さもそれが簡単のことかのようにレイナは言う。リーガン、アスカも異を唱えない。


「王都のギルドから連絡行ってるよね?私をC級に昇格させるようにって。私もそう要請されてた。でも義務が増えるのが嫌だったから断ってた。でも、必要と言うならら了承する」


この国ではD級冒険者ですら上級冒険者に位置付けされる。それは冒険者になること自体のハードルが高く、その5割がE級という実情があるからである。

そして、D級は全体の3割。つまり、C級の時点でこの国のトップ2割以上の強さであることを意味する。また、C級以上への昇級権限は王都しか持たない。


レイナはそれに相当する強さを国から認められており、それだけの“実績”を残してきたことになる。年齢こそ聞いてないが、外見、言葉使いからして彼女はかなり若い。おそらく20歳満たしているかどうかだ。耳は尖っておらず、エルフの血筋である可能性も低い。


「驚かないのね?」


しばらく黙っていた俺にレイナが尋ねる。


「強さは知ってる。だが、実績の点から考えれば疑問が残る」


「上級冒険者になるまでには経験が重視される。だが、C級以上の“一級冒険者”はいくら経験を積んでも意味がある。求められるのは質の高い実績だよ」


少なくともC級以上のモンスターを倒した経験があるということだろう。もしかしたらそれ以上の……


「セツもでしょ」


「セツさんはそれでもD級です」


アスカが口を挟む。


「なぜ隠すの?同等の等級以上の冒険者がいれば、1つ下のクラスも依頼に同行が許されるでしょ」


アスカは再び、口をつぐむ。


「アスカの言い分もわかるよ。それでも命の保証なんかない…今回は特に。でもね、これが最善なんだ。私でも勝てるとは言い切れないこの戦いには……」


レイナが俺の方を向く。

黒く輝く瞳は、俺に助けを求めている。


「私にはセツが必要なんだ」


俺は、レイナに精一杯微笑む。


「言ったろ?共に行こうと」


俺は自分の体に拡散している魔力を両手に集めるイメージで精神を整える。


根拠はないが、あの時のように確信があった。


俺の両手は青白い光りに包まれた。


リーガンは目を見開き、俺の手を指差す。


「セツ……それ………魔纒まてんか?」


「おそらく」


ダムッドの魔法の盾を破壊したときと同じ光が絶えず、両手から溢れ出している。


「なんだ、私と同じか」


そう言ったレイナの身体を赤い光が包み込んでいた。

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