第38話
翌日、俺は無事にE級冒険者としての登録を終えた。アスカとリーガンはD級からのスタートを許可してくれたが、それはクルクの紹介状あってのことだ。トスマンテに来てからE級しか狩っていない俺にはその資格はないと考えた。
それに、当分はブーガの大量発生に対応すると決めていた。ダンテの想いを知ったからである。
依頼には「通常依頼」と「常設依頼」がある。
通常依頼は、依頼の執行者とその報酬に限りがあるもの。ギルドのクエストボードに貼られた依頼書から適当なものを選び、ギルドに申請。執行者として受理されたら、モンスター討伐や素材収集などの依頼内容を討伐する。
依頼は原則一度きりで、ギルドに手続きをしていない冒険者が依頼を執行しても報酬を得ることはできない。
一方、常設依頼に申請は不要だ。大量発生に伴うブーガ討伐もこの常設依頼に当てはまる。クエストボードに貼られている間は誰でも依頼を執行する権利があり、何度でも報酬が受け取れる。
ただ、その分、報酬が低めに設定される場合が多い。ブーガ討伐においては大量発生に起因するため、討伐で得られる素材の価値相場が下がっており、メリットがさらに少ない。 意図せず遭遇した場合に狩る程度で、現状、ブーガ討伐を主目的とする冒険者はわずかとのことだった。
リーガン曰く、大量発生の傾向は1ヶ月前から。2週間前にピークに達して以降は高止まり状態であり、減少傾向は見られないという。
ブーガは寿命が短い分、幼少期の成長スピードが凄まじい。生まれてから1週間で成体に至る。増殖数が討伐数を上回っていると想定される。
ーー洞窟に入り、行き止まりの開けたスペースを見つけた俺は、鞄からあるアイテムを取り出し、両手で握り潰した。
それは手にへばりつき、とてつもない異臭を放つ。
ブォォォォォンーー!!!
それから10秒もしないうちにモンスターの雄叫びが聞こえ、足音が近づいてくる。効果は予想以上だった。
通称、ブーガ玉。メスのブーガの肉と脂で作られた臭い玉である。交尾の相手を求めるオスのブーガどもを引き寄せる効果を持つ。
効果は最低でも2時間以上、大量発生時であれば計30体を容易に誘き寄せるため、挟み撃ちをされない場所で使うことをリーガンたちに強く念押しされていた。
ブガァ!?
一体目が姿を表すと同時に、左胸の心臓めがけてククリ刀を上から振り抜いた。昨日の反省を生かし、刃が抜けなくならないようにやや浅く、ブーガの肉体を切り裂いた。
ドンッ!!
巨体が地面に倒れる。
俺は体液でベトついた刃先を死体になすりつけてふいた。
遠くで、ブーガの足音が聞こえる。俺は刀を構え直し、獲物の到着を待った。
ーー33体目、もしくは34体目のブーガを倒し終えた。
25体目あたりから、ブーガ玉の効果が低下したのか、出現の間隔が広がってきた。放つ匂いもだいぶ薄まってきたように感じる。
もう3体を討伐したあと、撤退の準備に入る。討伐証明となる耳を切り取りつつ10分ほどその場で待機し、効果が完全に切れたことを確認した。
ククリ刀を納刀し、来た道を戻る。
ーー「ぐっっ!」
突如、殺気を感じ、身体をねじったおかげで致命傷は免れたが、左肩を切りつけられた。
ブーガだ。道のくぼみに潜んでいたらしい。
俺は後退して距離を取り、脇差しを抜刀した。
傷は思ったより浅い。石斧の切れ味が鈍いせいだろう。痛みはあるが戦闘には問題ない。
ブグゥゥッ
フーフー!!
一撃を加えたことで、調子に乗っているのだろうか、鼻息がやけに荒い。
相手の攻撃後のカウンター狙いで脇差しを低く構える。
ブガッ!?
ドンッ!!!
次の瞬間、その巨体が前のめりに倒れ込んだ。
首には脇差しよりやや短いぐらいの
目線を再び上げると、ブーガの死骸をはさんだ先に白髪の女性がひとり立っている。
「鼻がやられてるんだよ。こいつらの臭さを甘く見たね」
後に俺の相棒となるレイナは、死骸に刺さった愛刀を抜きながら、教えてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます