第39話

ブフッ!?


レイナが速く鋭い剣閃でブーガの首を切り裂く。


ブーガは石斧を落とし、首を押さえ、倒れる。ほとんどもがく様子はない。

俺は、石斧を拾い、すでに絶命したブーガの左胸に振り落とした。#核__コア__#を破壊する感覚を得てから力を緩める。


ブーガの首は胴体と比べ、肉や脂肪が少ない。首を攻撃し、窒息死または出血死に至ったあとで、相手の武器でコアを破壊する方法が有効だと、レイナは言う。


オーガを確実に仕留めた後、俺は死骸を抱え、壁際に積み上げる。レイナはナイフを拭きつつ、次の獲物に備える。

俺たちはこの一連の動作をしばらく繰り返していた。


レイナに救われた後、俺は彼女に教えを請いた。快よく了承してくれたレイナは、今まさに実践を通して戦い方を教えてくれている。


それから、場所を移動することなくすでに15体ほど狩り終えている。ブーガの出現頻度が再び高まったのは、“即席”のブーガ玉のおかげである。


レイナは尻尾の形状からメスのブーガを見見分け、左胸あたりを解体。ナイフですり潰した後に、その液体を周囲の地面にまいた。まもなくして、オーガの雄叫びが聞こえた。


オーガ玉を使用して、大量討伐をしているとオスの血の香りに誘われ、貴重なメスブーガが現れることがあるらしい。

レイナはそれを有効に利用した上、一部の素材を手持ちの瓶に格納。次の狩猟時に使用するブーガ玉の材料を確保していた。


「そろそろ、交代しよっか?」


俺は頷き、レイナと立ち位置を交代する。

すれ違いざまに、何かの薬草を差し出された。


「ハズの葉だよ。よく噛んで飲み込んで」


言われた通り、それを噛むと強烈な苦味が口の中に広がる。


「あはは。いい顔だね。だが、鼻が生き返ったでしょ?」


確かに、強い苦味と鼻に抜ける清涼な香りのおかげで嗅覚が回復している。

この空間に充満する悪臭に気づかなかったことに自分自身驚いている。先程の敵襲に気づかなかったのもこれが原因だろう。


しばらくしてオーガが2体現れた。俺はククリ刀で、1体目の首を切りつけ、一旦距離を取る。


オーガが倒れ、2体目が激怒。こちらに突進してきた段階ですれ違うように首を刈り取る。そして、レイナが石斧を使いトドメをさした。


「イイね!その調子。突きの場合は頭蓋ずがいを狙って。硬いけど、刀が抜けやすいから!」


その後も、レイナに指導を受けながら、狩りを続けた。


二人で100体ほど狩った頃だろうか、レイナが「腹が減った」というので今日は切り上げることになった。


積み上げたブーガの死体の腹部を切りつけ、脂と血液を垂れ流しにしたあと、レイナは、短く詠唱。火をつけた。


「あいつらに飯をくれてやる必要はないよね」


火はまたたく間に空間に広がり、俺たちは素早くその場から立ち去った。




ーー「乾杯!」


ギルドで討伐証明を渡し報酬を受け取ったあと、俺たちは昨日と同じ酒場に来た。


レイナはこれでもかというぐらい顔を真上に向けて、冷えたエールを一気に流し込む。

空になったコップをテーブルに置いた直後におかわりが運ばれてきた。どうやらいつもこんな調子のようだ。


「今日はありがとう。助かった。俺がおごるから好きなだけ飲んでくれ」


レイナは、エールを飲みながら首を横に振り、俺の申し出を断る。


「ありがたいんだけども、おごりで飲むエールは美味しく感じないんだよね。自分の稼ぎで飲みたいの。さっきの報酬でここの代金を払って、残りは折半しよう」


「せめて、多めに払わせてくれないか?」


「それもダメ。冒険者の報酬は折半であるべき。場所を見つけたのも、最初のブーガ玉を使ったのもセツでしょ」


こちらを睨むように訴えるレイナは少しも譲る気はないようだ。俺はそれを了承した。


「いつもブーガに慣れてるんだな?」


「あぁ、ここに来る前からずっと狩ってるからね」


「ブーガばかりを?」


「女の敵が許せないの……よっ」


そう言って、皿に豪快に盛られた肉をつまみ口に運ぶ。


「いつも単独か?」


「うん。女の子はブーガを嫌がるからね。男は……長続きしないかな」


「口説かれるか?」


図星のようで、レイナは苦笑いを浮かべる。


「ブーガを狩りたい冒険者なんて、めったにいないしね。セツもわかったと思うけど、慣れたら単調な作業の繰り返しだから。その割に、油断したときのリスクは高いし」


確かにそのとおりかもしれない。トスマンテ付近にはあの洞窟の他にも2つのダンジョンがある。E級冒険者が昇級を目指すにしてもブーガばかりを狩るメリットは少ない。


「たまに、組まないかって声をかけてくる男はいるけど、だいたいパターンは同じ。1週間くらい狩猟した後に口説いてくる。それをフッてオシマイ」


俺から見てもレイナの器量はかなり良い。

長い白髪を後ろに束ね、褐色の肌とのコントラストがキレイで目を奪われる。男が近づいてくるのも無理は無い。


「俺と組まないか?」


ブフッ


エールを飲んでいたレイナは少しむせて、コップをテーブルに置いた。


「俺は口説かない。約束する」


「そこまではっきり言われると傷つくんだけど…」


「レイナは綺麗だ。とても魅力的だ。でも口説かれたくないなら口説かない。何よりも目的が同じだ。協力したほうが多くのブーガを狩れる」


レイナはじっと俺の目を見つめる。黒い瞳はビー玉のようにキラキラと輝いている。


「いいよ。組もう。でも、セツは強いから、押し倒されないよう気をつけなきゃね」


レイナはそう言ってはにかんでいたが、それは無理だろう。


レイナは間違いなく俺より強い。

俺はそれを確信していた。

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