第33話

「念の為、紹介状を見せていただけますか?」


俺はクルクと話すことを避けるようにアリアの集落を出た。

貰った紹介状を使う権利も俺にはないと思っていた。


俺は心苦しさがありながらも、紹介状をアスカに渡した。


クルクから話を聞いている。アスカは確かにそう言った。

どこから、どこまでの話だろうか。


「たしかに。クルク様の筆跡に間違いありません。ギルドマスターの元へご案内します」


アスカはカウンターの切れ目からこちら側から出てきて、フロアの端にある階段へ向かう。俺はそれを追う。アスカは2階を通り過ぎ3階へと向かう。


「2回は食堂と酒場です。ギルドメンバーであれば、割引価格で飲食ができますのでぜひご利用ください」


「クルクとはどうやって連絡取ったんだ?」


「今朝、白狼便でこちらに手紙を」


白狼便。白狼に荷物などを運ばせているというのは集落で聞いていた。

人を乗せては通れない道を駆けるため、かなり早く届くという。


「どこまで聞いている?」


「すべて...だと思います。あなたが異世界から来たことや、ダムッドの所業、その顛末」


クルクがその手紙を書いたのは、アルクが集落に帰った後だ。

老化薬でアリアの寿命が縮まったこと以外はすべてが伝わっているとみていいだろう。


ダムッドを私情で始末した俺をクルクはどう思ったのだろうか。軽蔑しただろうか。


「クルクから何か伝言はあるか?」


階段を登り切ったアスカはこちらを振り返り答えた。


「ありません。ただ、『俺の友をよろしく頼む』と。そう手紙の最後に書いてありました」


笑顔でそう答えるアスカを見て、胸の中のもやが少し晴れるような気がした。

いつか、クルクとエールを飲み会える日が来るだろうか。



アスカは階段前の部屋をノックする。

「どうぞ」と男の声がしたあと、アスカは、ドアを開けて入室を促した。


「セツだな?待ってたよ。さぁ、長旅で疲れたろう?かけてくれ」


部屋にいたのは奥の机に座る年配の男性一人だけだった。中央には大きなテーブルがある。俺は言われるまま手前のソファに腰かけた。


「俺はリーガン。この街のギルドマスターをやらせてもらっている。ようこそトスマンテへ」


リーガンは白髪でかなり高齢に見えるが、俺を見つめる瞳は力強く、精力に満ち溢れた印象を受ける。


「セツといいます。よろしくお願いいたします」


「かしこまらんでいい。冒険者として生きていくならなおさらだ。敬意は行動で示せばいい」


「わかりま...わかった。ここにしばらく滞在したい。よろしく頼む」


「クルクから話は聞いているよ。いろいろあったみたいだな」


やはり、ギルドマスターにも話は伝わっているらしい。


「クルクの手紙は昔のパーティメンバーである儂とアスカしか見ていない。もちろん君が異世界から来たことも。安心してくれ」


俺は、リーガンの横に腰かけたアスカを見る。髪は茶色で女性にしては短い。大人びた雰囲気こそあるものの、20歳くらいにしかみえない。

クルクが冒険者として活動していたのは80~70年前だったはずだ。


「私はハーフエルフなんです。クルク様の年下ですがほぼ同世代と考えてください」


アスカは隠れていた耳を俺に見せるように髪を上げる。言われてみればエルフほどではないにしろ、ややとがっているように見える。


「仲間を救ってくれてありがとう。心よりお礼申し上げる」


リーガンは深く頭を下げた。アスカもそれに続くように頭を深々と下げた。

彼らとクルクとの強い絆を感じた。

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