第32話

歩いて向かったため、夕方に湖を出て、その日は野営。次の日も朝から歩き、日が下り始めた頃にトスマンテに着いた。街は大きな石壁に囲まれており、入り口である門には衛兵らしきヒューマンが1人立っている。


「やぁ。新顔かな?」


男は俺に気づくと、微笑みながら声をかけてきた。


「あぁ、ここに来るのは初めてだ」


「身分を示すものは何かあるか?」


「ない。田舎から出てきてな。ここに来る前はエルフの集落に世話になってた。ないと入れないか?冒険者ギルドに入りたくて来たんだが」


「アリアの集落か!ヒューマンが滞在するとは珍しいな……身分証がないと検査が必要でな。気を悪くさせて申し訳ないが協力してくれるか?」


俺は頷いて了承した。身分証、検査のことは事前にアルクから聞いていた。

トスマンテほどの街になれば、入るのにも滞在するにも身分証が必要となる。主な目的は犯罪者を侵入させないためだ。


冒険者ギルドに登録すれば、身分証代わりとなるギルドカードが手に入るが、トスマンテに入る際には検査が必要になるだろうとあらかじめ言われていた。


男は門に併設された小屋から束になった紙を持ってきて、俺の顔をチラチラと見ながらパラパラとめくる。おそらく賞金首のリストだろう。


次に両腕をめくるように指示された。

意図がわからなかったが、俺は言われたとおりにする。


「この国では犯罪者には腕に入れ墨が掘られるんだ。うん…大丈夫だな。ありがとう。これで検査は終わりだ」


「行っていいのか?」


「身分証が発行されるまでは、衛兵が同行する決まりになっている。行こう。ギルドまで案内するよ」


男は街の内側にいた衛兵に声を掛けたあと、街の中心へ歩き出した。俺はそれに付いて歩く。


街はなかなかの賑わいで、集落よりも人の数はかなり多かった。ほとんどがヒューマンだが、耳の尖ったエルフや、犬の耳が頭に生えた男もいる。他の種族かもしれない。


衛兵に連れられて歩いているせいか、たまに視線を向けられるが敵意は感じない。


「俺はダンテ。あんたは?」


「セツだ。よろしく頼むよ」


「こちらこそよろしくな。検査しといてなんだが、冒険者は大歓迎だ。近頃はブーガが大量発生しててな」


女攫いのブーガ


アリアがかつて、そう言っていたのを思い出した。


「モンスターか?」


「あぁ、人間の女を攫うんだ。ダンジョンの外でも出現が報告されてる。だから女や子どもは安心して街の外を歩けない」


「何故、女を攫う?」


「んー………着いたよ。冒険者ギルドだ。詳しい情報はここで聞くといい」


ギルドは街のど真ん中にあった。

年季を感じる3階建ての建物で、入り口のドアからは大勢の話す声が聞こえる。


ダンテに続いて冒険者ギルドに入る。

中は思ったより広く、剣や斧、杖を持った冒険者で賑わっていた。


少し汗臭くはあるが、肉や魚の焼ける芳ばしい香りもする。

どうやら食事処も併設されているようだ。


「こっちだ」


ダンテに付いてギルドの奥の方へと進む。


「アスカ。調子はどうだい?」


「あら、ダンテさん、どうかされましたか?」


仕切り机カウンターの奥に座っていたアスカはダンテの声に反応して立ち上がった。


「新規の冒険者を連れてきたんだ。登録をお願いしていいか?」


ダンテは身分証がないことや検査は済んだことなどをアスカに伝えてくれた。


「承知しました。こちらで引き受けます」


「ありがとう。宿がないようなら、ウチを紹介してくれ。まだ空きがあるはずだ」


「わかりました。ご苦労さまです」


「じゃあな。また会おう。」

ダンテは振り返ってそう言うと、急ぐようにギルドから出ていってしまった。


「ごめんなさい。最近はモンスターが多くてダンテさんも忙しいんです。ここからは私が説明しますね」


アスカは、申し訳なさそうに苦笑いする。


「いや、こちらこそ急に申し訳ない。エルフ……アリアの集落から来たばかりで何もわからないんだ」


「セツさん……ですよね?」


急に出てきた自分の名に驚く。

ダンテは俺の名前を伝えてなかったはずだ。


アスカは真剣な眼差しで俺を見つめる。


「お待ちしておりました。クルク様から話は聞いております。ようこそトスマンテへ」

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