第31話
「その光は何だ……?」
アルクが近づいてくる。
「いやわからない」
俺の体を包む青白い光は弱まるように消えた
「
魔纒
アリアが教えてくれた。魔力を体に纏い身体を強化する力だと。そして、魔法にも対抗できる力だと。
これが、そうなのだろうか?
感覚を探るように体に力を入れるが、光は出ない。
「切れると思ってたんだろう?」
「あぁ、確信してたよ。」
だが、根拠は全く無かった。あの時の俺は、感情的ではあったが、クルクのように我を失ってはいなかったと思う。
アリアは言っていた。「我欲を張りな」と。それが魔纏習得への道だと。
「我欲を張るってなんだろな…?」
俺にも欲はある。
この異世界で未知なるモンスターと出会いたい。もっと強い者と戦いたい。旨いものを食べたい。
だが、そんな欲は森で戦っている時から持ってたはずだ。青白い光も、その時の独特な体の高まりもこれまではなかった。
「欲を貫いたのかもな」
アルクが独り言のように呟く。
「アリアの仇討ちだったんだろう?」
俺は頷く。
その通りだ。俺とアリアが過ごせたはずの時間を奪ったダムッドが許せなかった。
もちろん、人を殺すのは初めてじゃない。
人を殺める道具である刀や銃をこちらに向けた時点で、そいつは俺の敵となる。生きるためにそいつの命を奪う。
それは正しいことで、ためらう必要はないと、かつての#主__あるじ__#である武昌が教えてくれた。
ダムッドも俺に銃口を向けた。刺客を放った。
だが、ダムッドが俺を殺そうとしなくても俺は奴を切っていたと思う。
俺は主の教えから反れた行動を取った。
「ダムッドを生かし、すべての悪事を明らかにすべきだったのかもしれない。国の裁きにかけるべきだったのかもしれない。集落の皆にすべてを明かし、協力を仰ぐべきだったのかもしれない。でもお前は自分の手でダムッドを裁きたかった。そして、その想いを貫いた」
その通りだ。
「俺が言い出さなきゃ、ひとりでケリをつけるつもりだったんだろう?」
「それが我欲を張ることだとしたら、褒められたことではないな……」
「欲とはそうゆうもんだろ。善も悪もないさ。お前が見逃しても俺が殺してたよ」
ダムッドが奴隷のことを話したとき、アルクの殺気が増したのを感じた。
「俺の姉…ルーの母親も人攫いに連れてかれたんだ……。クルクのように、探しに出るべきだったと今でも悔やむ」
ルーを守ることを選んだんだろう。アルクはこれまで見てきた中で1番悲しい顔をしていた。
俺はどう言葉をかけていいかわからなかった。
ーー「一緒に行くか?」
何を言えば良いかわからなかったから、頭に浮かんだその言葉をそのまま口に出した。
「俺はトスマンテに行って冒険者になる。そして、国中、世界中を旅するつもりだ。一緒に行かないか?」
2人なら、もっと強くなれる
2人なら、ひとりじゃ倒せない敵とも渡り合える。
アルクとなら、どこにだって行ける。
アルクの姉を探し出すことだって不可能じゃないはずだ。
「行かない」
少し間をおいてアルクは答えた。
「まだルーも幼いし、クルクも心配だ。何より、アリアがいない。俺は集落を守りたい」
「そうか」
「今は行かない。だが、いずれ旅に出る。お前の言葉でそれを決めた」
悲しい表情は消え、笑っているように見える。
「その時、俺が生きてたら誘ってくれ」
アルクはにかっと笑う。
エルフは長寿。アルクはあと400年は生きるだろう。
アルクが断るのはわかっていたが、俺はかなり本気だった。友との別れが惜しい。
「このまま行くのか?」
「あぁ、お前と違って俺には時間がない。それに、クルクに合わせる顔がない」
「伝言はあるか?」
装備を整えながら俺は少し考えて答えた。
「ナーシャは死ぬまで希望を持っていた。それは幸せなことだと。そう伝えてくれ」
これを伝えることがクルクにとって良いことかはわからない。
だが、俺は心からそう思っていた。
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