第30話

「ひぃっ!!」




突然の出来事にダムッドは悲鳴をあげる。


他のヒューマンは思ったより冷静だ。


ダムッドを除き、戦闘員は残り8人。


男3人が、崖の方向に盾を構え、2人の魔法使いを守る陣形を取った。魔法使いは詠唱を始めている。


剣士1人がダムッドの護衛に付き、他の2人はこっちに走り出してくる。前後やや斜めに連なる形だ。


俺は大ククリ刀を背中から抜刀。体の右後方、やや低めに突き出す形で構え、前進した。


一人目の敵が大ククリ刀の広い間合いに入るのを見計い、水平方向に弧を描くように刀を振り抜く。


ガキッ ザシュッ


「ぐぁぁぁぁあっ」


相手は反応し、剣でこの右薙ぎ(右から左への水平方向の剣撃)をガードするが、剣はあっけなく吹き飛び、ククリ刀は相手の脇腹を切り裂いた。


俺は腰を曲げ体勢を低くしながら、剣撃の勢いを殺さず左回りに体を回転させた。


そして、体が前方を向くと同時に、右下から斜めに切り上げ、2人目を仕留めにかかる。


前進しながらの回転のため、相手との間合いは先程より近く、ククリ刀は相手の胴体を深く捉え、両断した。

うめき声は聞こえなかった。


「死神ニ旋」


全身全霊を込めた一撃で複数の敵に対応するために編み出した技の一つである。




ーーウォォォォン


2人の敵を片付けた後、崖の上から獣の咆哮が響いた。


そして、一度、姿を隠していたアルクが白狼に乗って颯爽と現れた。魔法使いを囲む集団めがけて崖を駆け下りる。


「「ファイアーボール!」」


詠唱を終えた魔法使いが杖をアルクたちに向け、火の玉を発射した。


ドドォォォン!!!!!!!


ファイアーボールが着弾するとアルクたちは崖から剥がされるように吹っ飛び、地面に落ちた。土埃が大きく舞って生死は確認できない。








………相手からはそう見えたはずだ。

だが、違う。アルクは飛ばされたのではく、自ら飛んだのだ。



「よし!!」

勝機を見出したダムッドが声を上げる。


その瞬間、横一閃の突風が、敵の集団を襲う。


「「「ぶはぁぁぁ!!!」」」


戦闘員は突風に抗えず、体を飛ばされる。

魔法使いを含む5人の陣形は完全に崩れた。


#風閃__ふうせん__#


アルクの唯一の魔法である。

殺傷力は低いが、横広範囲に風の圧をぶつける。直撃すれば俺でも踏みとどまることはできない。


ヒュン ヒュン

ザシュッ ザシュッ


「「ぐふぅ!!」」


土埃が薄れた中、放たれたアルクの矢が魔法の使いの頭部を捉える。


ヒュン ヒュン ヒュン

ザシュッ ザシュッ ザシュッ


「がぁぁぁあぁあ!!!」


起き上がろうとした盾役から順番に矢が突き刺さる。


アルクの活躍のおかげで、ダムッドを守るのは剣士ひとりのみ。


形勢は完全に逆転した。


俺とアルク、そして白狼はダムッドたちにゆっくりと歩み寄る。


剣士は腕に覚えがあるのか、こちらの戦力を見誤っているかわからないが、まだ戦意を喪失している様子はない。


「一騎打ちで勝負しよう。俺が勝ったら……」


ビュッ

ズンッ


アルクの矢が剣士の左胸に深く突き刺さった。


「ぎゃぁ…あ…」


助けを求めるようにダムッドに剣士の体がもたれかかる。


「ひぃぁ!!あああぁぁ、な…なんてことを!?」


ダムッドはそれを支えきれず尻もちをついた。


「大勢で待ち伏せしといて、一騎打ちはないだろう。条件反射で射ってしまった」


アルクは少し苛立っている。

このままだとダムッドまで殺してしまいそうだ。


「アルク、ダムッドは俺のものだ」


「わかってる」


アルクは歩みを止めた。

俺はダムッドの目の前で立ち止まった。


「ダムッド、言ったはずだ。次に目の前に現れたら殺すと」


ダムッドの顔がみるみるうちに青ざめた。


「申し訳ございません。申し訳ございません!!出来心でございます。命だけは……どうか殺さないでください。奴隷にだってなります。どうかーー」


奴隷……

その言葉がアルクの琴線に触れたらしい。

アルクは再び、弓を引いてダムッドに矢を放った。


「ひぃっ!」


ビュッ


ダッ


矢はダムッドに当たらず、当たる手前で方向を変え地面に刺さった。


「た…助かった」


ダムッドはそう言うと腰の袋から筒状のアイテムを取り出し、火をつけた。


そのアイテムから赤色の煙がモクモクと立ち昇る。狼煙だ。


「膝に打ち込むつもりだったんだが、これは不味いな…」


アルクの顔が曇る。


「魔法か?」


「いや、おそらく魔法具だろうな。ダンジョンで発掘されたか、魔法使いが作成したものだろう。風の盾だ」


「い…1時間はこのままだ。今助けを呼んだ。私の勝ちだ!!」


ダムッドは更新したように笑みを浮かべる。


さらにダムッドに近づく。どうやらダムッドの周りに半円状の風の層が発生しているらしい。


「アルク、風閃で剥がせないか?」


「やってみよう……精霊よ我が声に応じよーー」


アルクが目を閉じ詠唱を開始する。おれは距離を取った。


10数秒後、突風がダムッドを襲う。


「ひぇぇ!!」


が、風の盾はびくともしない。相殺しているようだ。






それを確認して、俺は壁の前まで歩き寄る。


「も、もう諦めてくれ。約束する!!もう二度と目の前には現れない!!」


「俺もお前に約束したよ?目の前に現れたら殺すと」


俺は両手で大ククリ刀を握りしめ、頭の上に掲げた。


すーはーすーはー

すぅーはぁ


呼吸を止める。


「やっ、やめてくれっ」


どうやら自分の命を守りきれる確信がないらしい。

だが、俺には確信があった。


こいつを切れると。


「お前みたいな奴らはみんな同じだ。一度逃げ切れると次も命だけは助ける。殺しはしない。そう信じてる。だけどな…俺は殺す気だったよ。お前の血で泉を汚したくなかっただけだ」


俺は刀を握ったまま両手の肘から先をぴったりと付けて、体を絞るように力を込めた。


「返してくれ…アリアとの時間を………返せぇぇぇええ!!!!!」


俺は全身全霊の力で刀を振り下ろした。


パンッッ


風船のような音がする。

剣は止まらない。


ザンッ


ククリ刀が地面へ勢い良く着地した。


俺の剣閃は風の盾を破壊し、ダムッドの体を真っ二つに切り裂いた。



ククリ刀そして、俺の体は光に包まれていた。


アリアが放つ魔法のように、青白い光に。

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