第28話

昨夜。アリアが亡くなった日の夜、ダムッドがクルクに会いに来た。そしてナーシャの所有者との交渉がまとまったと囁やいた。


「今の族長はあなただ。恋人を助けましょう」


クルクは一晩中、眠らずに迷った。

タイミングが良すぎることもわかっていた。


だか、僅かな可能性を捨てることができなかった。

翌日の昼、泉の採掘を決意したクルクは契約を交わすため、森の端のキャンプ地へ向かった。


だが、そこにダムッドはいなかった。それどころか、採掘員一人の姿さえなかった。


掘り出した鉱石は原石のまま、山のように積まれている。


アリアとダムッドの契約した採掘期間は限られている。また、キャンプ地や現場を荒らされる可能性もある。

金に強欲なダムッドがキャンプ地を空にする理由はなかった。


クルクは周辺を必死に探した。ナーシャの話が嘘であると認めたくなかった。だが、見つからなかった。

疲れ果てたクルクは、ナーシャとの想い出を辿るように泉に向かい、ルシアと出会った………


真相を知ったクルクはしばらくその場に倒れ込んでいた。


そして、1時間ほど経過した後、


「すまなかった」


そう呟いた。


俺はクルクを背負い、ルシアとともに集落に戻った。

今はアルクの家にいる。


「何事もなくて良かった」


俺とルシア、そしてクルクから事情を聞いたアルクは笑ってそう言った。


「すまない。俺は泉を壊そうとした……」


クルクは俯いたままだ。


「馬鹿、お前のことだよ。クルクが無事で良かった。泉が無くなったとしてもまた作ればいい」


アルクの本心だろう。

言葉をかけられたクルクを嗚咽を漏らしている。


ガチャッ


「クルクお兄ちゃん!」


ルーがドアを開け、部屋に駆け込んできた。


「お兄ちゃん、何で泣いてるの?どこか痛いの大丈夫!?」


「ありがとう。大丈夫。大丈夫だよ…」


駆け寄ってきたルーを抱きしめて、クルクは涙を流し続けていた。



ーー「セツ、少し話せるか?」


ルシアとルー、アルクの奥さんにクルクを任せて俺とアルクは集落を出てた。そして、再び泉へと来た。


すっかり夜になっていて、月がとても綺麗だ。


「セツ、お前は嘘が下手だな」


アルクの言うとおり、俺は噓が得意ではない。だがアルクへの説明に嘘はなかったを。


「嘘をつきたくないから、真実しか言わない。それで辻褄が合わなくなってる。トスマンテに行ったはずのお前が何故ここにいたのか。なぜ、ダムッドが白状したのか?疑問は多い。何かを隠そうとしているのがバレバレだよ」


アルクは呆れたように笑う。


「全部話す必要はないさ。ただ、お前一人が抱え込む必要もない。俺は友の支えとなりたい」


こんな言葉を、恥ずかしげもなく堂々と言えるアルクが羨ましい。


この男と出会えたことを幸せに感じた。

そして、すべてを明かすことに決めた。




ーー昨日、早朝に集落を出た俺は森にいた。


「死に顔を見られたくない」


そう、アリアは願った。ただ、俺はアリアの近くに少しでも居たかった。会えなくても、見届けたかった。


そして、アリアの死を受け入れたかった。生まれて初めて、愛した人がこの世からいなくなることを…


俺は泉の近くの茂みに隠れるように横になり、森と一体となるように時を過ごした。


いつの間にかそのまま眠っていたが、何かに起こされた気がして目が覚めた。

日はすっかり暮れていた。


泉から離れ、集落にそっと近付くと灯りが見えた。


宴の時のような明るい雰囲気はない。


アリアが旅立ったのだろうと察した。


俺は黙祷し、その場を後にした。

そして、再び泉に戻り、再び黙祷をした。

アリアの魂は天国に行く前にここに寄った。そんな気がしたからだ。


そのとき、ダムッドが現れた。


気配を感じ、とっさに姿を隠したのでダムッドはこちらに気づいていない。


ダムッドは商談の時にそばにいた護衛と共にいた。何かを話しているようだった。


そして俺は聞いた。


「ババァの『お告げ』が思ったより早くて助かった」…と。


妙な違和感を覚えた。


族長のアリアが居なくなれば、集落は偉大な指導者を失う。このスキに乗じて交渉を有利に進めることもできるだろうし、何かを仕掛けることもできるだろう。

ダムッドに何かしらの利はあるかもしれない。


ただ、引っかかるのはそこじゃない。


お告げが思ったより早いとはどういうことだ?

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