第16話

アリアが魔法の詠唱を始める。


すると大銀狼は即座に反応し、アリアのもとへ駆け出した。


駆ける速さはただの銀狼より遥かに上だ。


アリアは詠唱を中断し、手のひらを突き出し、大銀狼へと標準を合わせる。


すると、アリアの目の前に人の頭一つ分ぐらいの水球が出現し、大銀狼に向けて発射された。


大銀狼は前進を止めて横ステップで水球を躱すかわす#。


アリアは続けて水球を放つ。


2段目の水球も大銀狼は躱す。


アリアの水球による攻撃はそれから3発ほど続いた。

大銀狼はそのすべてを回避したが、水球と大銀狼との距離は確実に縮まっていた。


この状況を受けて行動を変えたのは大銀狼だ。

大銀狼はやや後退し、戦いが始まった時よりもアリアとの距離が開いた。


アリアが再び詠唱を始める。


「精霊よ。水の檻となって我が敵を封じ込めよ――――」


大銀狼はこの詠唱にもすぐに反応。前進したかと思えば一気に加速し距離を詰めた。


だが、アリアに到達するより前にアリアの詠唱が終わる。


水籠すいろう

アリアが静かにその魔法の名をつぶやく。


直後、大銀狼の周囲の地面から水が湧き出るように発生し、半球状の水の壁が大銀狼を閉じ込めた。



大銀狼は一瞬躊躇するものの、前進を止めることなく大きな牙で食いかかるよう水の檻に突進した。


水の檻は多少、形をゆがめたが、すぐに完全な半球へと戻り、大銀狼を拘束し続ける。


「精霊よ。水の刃となり、我が敵を切り裂け――――」

アリアは水球が発生した直後から、次の詠唱に入っていた。



大銀狼が檻の中で暴れ狂う間も淡々と詠唱を続ける。


徐々に水籠の壁が薄くなっていく。

大銀狼はそれを察したのか、壁への攻撃を止め、突進の準備へと入る。


セツはこれを見て、背中の洋剣を抜刀しようと柄を握る。

だが、クルクの手がこれを制した。


水破斬すいはざん#」

アリアは詠唱を完了し、技名を口にした。


セツは一筋の水の縦線がキラリと光ったことしか確認できなかった。

だが、その直後、大銀狼の体は大銀狼の体は水の壁ごと真っ二つに両断された。


ドサッ


二つの肉の塊が地面へと倒れ、周囲に振動が伝わる。


アリアは静かにそれに近づき、手を当てて、大銀狼の死を確認した。


「すまないね」

優しく笑うような、死を悲しむような表情を浮かべ、アリアは大銀狼に語り掛ける。


そして目を閉じ、黙祷をささげた。

セツとクルク、そして周辺で待機していたエルフたちはアリアと大銀狼に歩み寄る。

そしてアリアに続くように目を閉じて、命への敬意を示した。



パンッ



1分ほどの静寂の後、アリアは手を強く叩いて言った。


「今夜も宴だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る