第15話

「そこまで!」


アルクの声で勝負が終わる。


うおーーーー!!


大きな歓声が沸く

俺は懐かしい回想から引き戻された。


「怪我はないか」

俺はクルクに駆け寄り手を差し伸べる。


「負けたよ。警戒していたのに、もってかれた。完敗だ」

クルクは俺の手をつかみ立ち上がる。



パチパチパチ


拍手の音に振り返るとアリアが微笑みながら拍手をしている。


「強いね。そして人を惹きつける剣だ」


「あんたを魅了するほどにか?」


「かもね」


アリアは俺の問いをはぐらかす。






ワォォォーーーーーン!!!

アリアと俺の会話を遮るように狼の大きな鳴き声が森の方から響き渡った。


アリアの表情が厳しいものに変わる。

観客も興奮から冷め、動揺が広がる。



「近いね。クルク、討伐隊を組みな。私も出る。アルクは避難と防衛の強化を!!」

アリアが指示を飛ばす。言葉は強いが落ち着きもある。民を率いる者の風格だ。


クルクとアルクを始め、エルフたちはアリアの指示に従い動き始める。


「セツ、騒がしくさせてすまない。が、想定内の事態だ。おそらく、お前が狩った銀狼の群れだろう。集落に近づかないうちに討伐に向かう」


「俺はどうすればいい。あんたの指示に従う」


「私たちと一緒に来な。ここはアルクたちに任せて大丈夫だ。防衛戦ではあいつの弓がものをいう」


アリアはアルクたちの行動を見守りながら言葉を続ける。

「それに、見たいんだろう。魔法を」


アリアは不敵な意味を浮かべた。


俺はアリアに連れられて集落の端にある厩舎きゅうしゃに向かう。


そこには白い狼が10頭ほど縄につながれて飼育されていた。


俺の心を読み取ったようにアリアが説明する。

「心配ない。野生の狼とは違う。この白狼は調教済みだ。私たちの足となる。クルクと一緒に乗りな」


「セツ。こっちだ!!」

先に到着していたクルクに促され、白狼へ乗り込む。


「振り落とされないようにしっかりと俺につかまってくれ。」


クルクの言葉に強く頷いた。


「セツ!!」


俺を呼ぶ声に振り返ると鞘に納められた洋剣が投げつけられる。

アルクだ。


「持ってけ!!」


俺は礼を言って鞘につけられた紐を型掛けし、背中に剣を担いだ。

準備が終わると同時に白狼は駆け出した。


クルクと俺、アリアを含めた、五組の騎狼隊が森へと向かう。

馬よりも乗り心地は悪いが、白狼の動きは軽快だ。藪は自らの牙でかき分け、岩場もものともせず駆け走る。


「申し訳ない。俺の失態だ。こういう事態になると想定してなかった」

俺は前にいるクルクに謝罪をした。


「セツのせいじゃない。多くのモンスターは群れをなし、群れのために戦う。無用な争いこそ控えたいが、この戦いは避けられない」


「モンスターと獣は違うのか」


「同じだよ。人じゃない生物を総じてモンスターと呼ぶ。お前が倒した銀狼も、この白狼もモンスターだ。災害でもあるし、食料でもある。手懐ければ心強い味方となる」


「おしゃべりはいったん止めな。近いよ。ボスは私が#殺る__ヤる__#。クルクは私の後ろに。他の者は標的を囲むように広がって息をひそめてな。逃げた小物は任せた。村に向かう奴以外は深追いするな」


3組の白狼隊は無言で森の中に消えていった。


狼の咆哮はまだ続いている。


200mmほど前進した後、俺たちは藪を抜け、ひらけた場所に出た。


そこには俺が倒した狼の3倍の体長を持つ銀狼が待ち構えていた。


グウォォォォォォォ!!!!!!


銀狼は俺たちを確認すると大きな咆哮を挙げた。


白狼がビクッと震える。


「大銀狼だね。群れのボスだろう」

アリアの声は冷静だ。


「幸い、他に仲間はいなそうだ。クルクとセツは身を守るとき以外は手を出さないでくれ。敵の標準を私に集めた方がやりやすい」


アリアは白狼を降り、大銀狼へと対峙した。


アリアの中に秘められた力が拡大していくように感じた。

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