第14話

アリアはクルクとともにこちらへ近づいてくる。


「すまない怪我を負わせてしまった」

俺は戦闘態勢を解いて言った。


「かまわない。それが剣だ。ただ、結構痛めてるね...だれか診療所へ連れてってくれ。ポーションを使用してもかまわない」


負傷した男は付き添いと共に診療所へ向かっていった。


「この前も言ってたな。そのポーションとやらは薬か?」


「あぁ、魔法で作った薬だ。あのくらいの怪我なら、飲んで1分後には戦闘できる状態に回復する」


「それはすごいな」


「だが、作り手が少ないから希少で高価だ。それに、短時間で効果は薄まるし、副作用として体力も持ってかれる。昨日のセツの時のように調合薬が適用できる場合は使用を控えてる」


「急を要する場合や調合薬で治療できない負傷に使用するんだな」


「理解が早いね。それにしても大したもんだよ。エルフは弓矢が得意とはいえ、あいつは集落で2番目の剣の使い手だ」


「1番は誰だ?あんたか?」


「クルクさ」


クルクはすでにアルクから木刀を受け取り、戦いの準備を始めていた。

昨日の談笑していた時の雰囲気とは異なる。

戦士としての威圧感を意識的に放ってくる。



俺はクルクから一定の距離をとって一礼をする。


クルクもそれに応じ、一礼をして剣を構えた。

姿勢は直立に近い。


先ほどの戦いを見て一撃を警戒しているのかもしれない。

一気に間合いを詰めてくる雰囲気ではない。



ザワザワザワ


いつの間にか観客が増えている。

多くのエルフの視線が俺たちに注がれる。


何よりも惚れた女が見ている


負けるわけにはいかない。


俺は体を大きく右に捻り、両手で持った木刀を右後方の地面へと置く。

そして、息を深く深く吸い、地面を強く蹴りこみ突進した。


クルクは立ち位置を変えず、その場で待ち構える。

姿勢は緩やかだ。よけるにしろ、剣で受け流すにしろ、選択肢が多い

防御の構えだ。


相手の間合いに入る直前俺は、前傾姿勢を強めさらに加速する。

他の剛剣同様に俺の太刀も二の太刀という選択肢はない。

全てを最初の一撃にかける。

そのため、前傾姿勢やひねりに耐える体幹はもちろん、足の筋も

極限まで鍛え上げた。

俺の間合いは狭く、刃は相手に深く届く。回避も受けもさせはしない。




「はああああああああぁ!!!!!」

セツの咆哮が集落中に拡散する。








セツは右下から左上へと切り上げる「右切り上げ」の斬撃を、やや横薙ぎに近い形で始動する。


クルクはこれに反応し、刀を立て、受けに入る。

腰を落とし衝撃に耐える備えをみせる。


刀が交錯する。


その間際、セツは左手を放し、右手一本に刀を託す。

そして切り上げるのではなく、右手をたたむように、太刀筋が弧を描くように木刀を振りぬいた。


ガッ バキッ


セツの斬撃はクルクの刀ごとクルクの脇腹に達し、その体を吹っ飛ばした。





―――勝負が決し、セツはこの技「死神しにがみ」が完成した時のことを思い出した。


セツの剣は我流に近い。

城下へと伝わったある流派を自分に合うように大きく変えた。


多くの剛剣は重力を利用して上から下に振り下ろす唐竹からたけを主軸に戦いを構成するが、セツは横や斜め下からの斬撃を多用する。


クルクとの立ち合いのように相手の回避や受け流しを防ぐためだ。


セツは不器用だった。

だから一撃で仕留めることを追求した。


弧を描く軌道も元々の流派にはないものだ。

むしろ邪道とされていた。


始まりは主の武昌が保護した南蛮からの流れ者との出会いにある。

彼と触れ合う中でセツは自分の非力さを知った。

そして、「日本人は引く力が強い」という活路にすがった。


「死神」という名は南蛮物が名付けた。刀を大鎌のように扱う太刀筋を死神が魂を刈り取るさまに例えた。


この技を城下での試合で放った際、あるものが「南蛮に染まった剣」だと非難した。

周りの多くの者もその意見に同意したことだろう。


だが、その様子をみた武昌はその言葉を叱責し、セツを称えた。


「南蛮に染まったのではない。南蛮の領域へと道を開いたひらいた」と。


セツは自分の流派を「蛮開流ばんかいりゅう」と名乗った。

主の言葉を勲章として掲げるように。

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