第13話
カンッ カッカン
木がぶつかる音で目が覚める。
俺はひとまず、寝泊りの場所として診療所の一室を借り受けていた。
おそらく木刀を交わす音だろう。
血が騒ぐ。
広場に行くアルクと数十人のエルフが木刀で対人稽古をしている。
「おはよう。よく眠れたか」
俺に気づいたアルクが声をかける。
「あぁ、おかげさまでぐっすりだ」
アルクはぜひウチで泊ってくれと歓迎してくれたが、
家族の団欒をじゃましたくはない。
俺はやんわりと断っていた。
「エルフは弓だけじゃないんだな」
「ああ、もちろん剣も使う。宴の後は気を引き締める意味でもこうして立ち合いをすることが多いな」
「争いは多いのか?」
「多くはないがある。それに自衛の意味でも訓練しておくにこしたことはない」
俺は頷く。
中には10歳ぐらいの子供や女の姿も見える。
「さあ、やるか?」
アルクは木刀を俺に差し出す。
「剣を作るうえでもセツの太刀筋が見てみたい。
それに......もうその気だろう?」
木刀を受け取り、おれは感触を確かめる。刃渡りの長さは日本刀よりやや短いくらい。
重さは変わらない。実戦を想定したものだとわかる。
違いは両刃の剣を模していることだけだろう。
「この世界の主流は両刃か?」
「ああ、標準的ではあるな。エルフはやや細身の剣を好む」
一人のエルフが俺の前に出てきて向き合い、一礼をしてから木刀を構える。
俺は数歩、前に出て、一礼をし、臨戦態勢に入る。
構えは上段。
柄を両手で持ち、左の肘から先を右手にぴったりとつけて身体を締める。
そして振りかぶるように真上よりやや右側にへ高く木刀を掲げる。
あまり見たことがない構えなのか、相手は一瞬困惑の表情を浮かべる。
そして、右薙ぎ(右からの水平攻撃)の構えにかえる。
俺は二の腕と二の腕の隙間から相手を見つめたまま、動かない。
相手が地面を蹴り一気に距離を詰める。
俺は、相手が自分の間合いに入ったのを確認し、一気に右上から左下へと刀を振り下ろした。
相手はこれに素早く反応し、刀を受けに入る。
ガツンッ
鈍い音がした後、相手の木刀は地面へと転がった。
セツの流派は九州に広がる剛剣派の一つ。
「二の太刀要らず」と恐れられる剣は相手の防御や、防具による抵抗を前提としたものだ。
一の太刀(初撃)で相手を仕留めることを目的としており、ただ全力で刀を振り切る。
セツが相手にはなった斬撃はほぼ垂直に近い
実戦であれば相手の頸動脈を両断する。
刀は弧を描くというより、地面に叩きつける感覚に近い。
セツの今の斬撃も相手の受けがなかったかのようにまっすぐな軌道で地面へと叩きつけられた。
相手が受けに入ってくれたのはセツの狙い通りだ。
セツはさっと構え直しふたたび上段に構える。
相手は立ち上がらず、苦悶の表情で手首を押さえている。
筋を痛めたとみる。
「やるじゃないか」
背後でアリアの声がした。
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