第12話

 クルクは安心したように話し出す。


「本来、人が扱えない特別なチカラのことさ。炎を起こしたり、風を生み出したり、精霊と契約することで使えるんだ」


 日本で伝えられていた妖術の類と推測する。


「クルクは使えないのか?」


「使えるよ。精霊はエルフの先祖に当たる。だから俺に限らずみんな使える。ただ、アリアの魔法はダントツだ」


 クルクによれば、エルフであっても魔法は1種しか使えないものが大半で、2種の使い手は3割に満たないらしい。


 また、炎を自由に操るといった万能な力ではないようだ。例えば、エルフ族に使い手の多い魔法「風射ふうしゃ」は風の塊を相手にまっすぐと飛ばし衝撃をあたえるもの。使い勝手は良いが、自分の意志では曲げることも出来ない。


 そして、魔法には詠唱が必要なことも教えてくれた。詠唱が短ければ威力が小さく、長いほど強力なものとなる。


「アリアは水の魔法を4種類使える。短詠唱から長詠唱、そして無詠唱を網羅していて隙がない」


 クルクは誇らしいように語る。


「無限に使えるのか?」


「いや、魔力が尽きるまでだ。剣術でいう体力に近い。アリアは魔力量も膨大だ。無限ではないにしろ、戦いの中で尽きたことはないはずだ」


 惚れた女はかなり手強いようだ。


「刀が要るな…」


 ぼそっと独り言をつぶやくと、クルクは思い出したように、近くに置かれていた麻布に包まれた何かに手を伸ばす。そして俺へとそれを手渡す。


「アリアから宴が終わってから渡すように預かってたんだ。」


 脇差だ。俺はそっと鞘から抜いて刃を確認する。なぜか、刃が以前より整っている。


「誰かが研いでくれたのか?職人の技だ」


「ああ、アルクだよ」


 促されて斜め横を見ると、話を聞いていたのか、照れくさそうにしているアルクがいた。先程のアリアのイジりがあってからは少し離れた所で飲んでいた。


「ありがとう、アルク」


 アルクは立ち上がり、クルクとは逆側の俺の隣へ座る。俺はエールをアルクのコップに注ぎ、3人で盃を交わした。


「どうだ、違和感ないか?」


「ないよ。完璧だ」


「良かった。あまり見ない形状の#短刀__ナイフ__#だから不安だった」


 本当に完璧と言える出来栄えだった。刃の減り方や柄の擦り減りなど、少ない情報から持ち主(俺)の癖を読み取ったのだろう。じつに俺好みな仕上がりだ。アルクの人柄が伺える。


「セツはナイフ使いか?」


「いいや、もっと長い剣を使う」


 脇差の刃渡りは50センチほど。一般的な刀は70センチ。俺はさらに長い大太刀を愛用していた。


「用意しよう」


「刃渡り1メートルほどの剣がほしい。近くで手に入るか?」


「難しい。だが、作ろう」


「作れるのか?」


「あぁ、作る。当然だ」


 強い口調でアルクは答える。


「このナイフの延長と考えていいな?」


「良い。出来れば少し太めにしてほしい」


「承知した」


「悪いな」


「悪いことはない。言ったろう当然だと」


「義理堅いな。お前は。脇差を研いでもらった時点で十分に恩を返してもらっていると思うが?」


 アルクはゆっくりと大きく首を振る。


「恩は量で測れない。できる限りのことを尽くすよ、この先も。他に何かあれば言ってくれ。お前が死ぬまで力になろう」


 俺は確信していた。アルクが嫁を射止めたのは矢の力だけではないと。俺は遠い異世界の地でかけがえのない友を得たと感じていた。

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